愉快犯がChat GPTを握ったら
テクノロジー好きの夫が、またこんなことを言いだしました。
もちろんNOです。
夫が昔からほしいほしいとおねだりしてきていた、アレクサやGoogleホームなどというスマート家電も全部私がボツにしてきました。
「誰かに話しかけるのは、無言でスイッチ押すよりいや」だからです。
誰とも話さず静かにしていたいのです。
面倒くさがりのキワミです。これでよく社会に適応してきたな。
今回もめんどうなので却下です。どの道、一般人(いっぱんちゅ)である私にさして聞きたいことなどありません。
わざわざ質問を文章にして打ち込んで真偽不明の回答もらって、さらにファクトチェックしないといけない新世代の兵器に聞くことは何もありません。
と拒否したんですが、さらりと無視され、みるみるうちに夫のスマホに導入されていきました。
夫によると、このChat GPT様は「ステキな調整とソースの分母を広げたこと等によって文脈がある程度理解できるエポックメイキングな仕上がりになっており、更には爆速でさらなる改善も見込まれていて一口に言うと大体何でも答えてくれるかのような以下略」なんだそうです。
要約すると「スゴイAIがテキトーに質問に答えてくれる」ようです。よくわかりませんが、きっと雑談の神のお告げみたいなものなのでしょう。
つまり、豚に真珠です。
しかし夫がキャッキャはしゃいでいるのはかわいいので、ぬるく見守ります。真珠を取りに行く豚を眺めて喜ぶ豚の図です。
彼はしばらく「Rustのリソースの寿命管理システムを教えて(※エンジニア的な質問)」「格ゲーが強くなる方法を教えて」などとひとしきり聞いて遊んで満足したらしく、うれしそうに私に手渡してくれました。
知ってること聞いて何がしたいんだ? 格ゲーは練習したほうがいいんじゃないか?などと思わんでもないですが、遊んでいる夫が可愛いので孫を見るような目で見ておきます。
1.何を聞いたらいいんだろう
うーん貸してもらってもねえ。
「大体なんでも答えてくれる最先端ソフト」なんて言われても、365日24時間ずっとこの世のことじゃないことばっかり考えている身としては、別に聞くことはないわけです。
とりあえず、私も夫同様、知っていることを投げて、機能テストをしてみようと思いました。
まずは小手調べ。
有名なベッリーニオペラです。
ざっくり言うと「夢遊病の女性(アミーナ/スイス人設定)が、夢遊病で恋愛トラブルを引き起こすものの、最終的には誤解がとけてハッピーエンド!とはいえ病はそう簡単に完治しないはずで、喜んでいいか正直微妙なのでは?なんか喜んでるけど」という話です(雑な説明)
しょうもないきっかけから痴情がもつれ、キャラが発狂して話が込み入ってくる中盤〜結末までどう説明するか、また有名な発狂アリアをどう説明するかがポイントです。
GPT大明神の回答:
百合子かわいそう!
よく数秒でこんないけしゃあしゃあと嘘八百、もとい創作を並べられるものです。私のあらすじ説明も雑ですが、こちらは雑なんてもんじゃなく複雑怪奇かつ高等な完全新作。さも正しそうに、もっともらしそうな感じで言い切ってくるところもニクい。
百合子どうなっちゃうんだよ。
気になるじゃないか。
また、ほかにも色々私の関心事に関して聞いてみたのですが、GPT大明神は「タンデュはジャンプ」「あなたの好きなバレリーナの代表作は『鉄道員』」などと、1秒でバレる真っ赤な嘘だけをつきまくっていきました。
2.面白い話をしてくれ
いくつか尋ねたところで、こいつは私の関心ごとに対してはもっともらしい口調でガセしか言わないことがわかってきました。
確信を持った雰囲気で、純度100%の大嘘だけぶっ込んでくる。壊れかけのレディオでも、もっと本当のこと言うと思う。
それならばもう創作を聞かせてもらうしかありません。こんなに上手にホラが吹けるのだから、ゆかいなホラの音で踊らせてほしい。
そう思って「ヘンゼルと浦島太郎」「嫁と姑」などと色々なお話を作ってもらって遊んでみたんですが、吟遊詩人GPTの紡ぐストーリーにはどれも気になる点がひとつ。
これです。
なんで割と悲惨な目に遭ってる主人公まで「自分、自然保護活動も啓蒙活動もしてますし社会貢献してます」なんて、SDGs賛同やCSR活動のアピールを余儀なくさせられている大企業みたいにならないといけないんでしょう。
浦島太郎、それやってる場合か?
いや、社会貢献が浦島太郎のもともとの志ならいいんです。りっぱです。そういう人はいたほうがいいです。本当にそうです。素敵ですよ。
けど何でしょうね、この不気味さは。
そりゃ確かに彼は子どものいじめからカメ助けた優しい漁師だったかもしれませんが、なんで藪から棒に新漁法開発?海洋保護の啓蒙活動?
この浦島太郎、竜宮城で何らかのセミナーを受けてブレインウォッシュされたりしてない?環境活動家になるまでの経緯は??
なんか変なわけですよ。
自然保護はそこに情熱を持って取り組む人達の厳しいフィールドであって、浦島太郎がなんか片手間(?)というか、ポッと取り組めるようなものでもないような気もしないでもない。
全てがこんな感じで、何を作ってもらっても、歪な形にクレンジングされちゃったストーリーしか出てこないんです。これじゃつまらない!
物語なのだから、もっとこう、人間臭さを垣間見たいのです。
例えば浦島太郎の結末なら、
みたいな感じの、手触りのある話が読みたいわけです。自分で書いたくせに生々しくて浦島太郎がかわいそうになってきた…。
あと、個人の主権を尊重したい立場としては「全員が全員、社会全体のために滅私奉公社会貢献!それこそ輝かしい成功!」みたいな雰囲気をバシバシ出されると、やはり不自然に感じられます。そうではない幸せがあったっていいし、そうではない人がいたっていい。
まあねえ、こういうITサービスならまかり間違って何かギリギリの回答返したりなんかすると「犯罪の教唆にあたる」とか何とか言われてどえらい問題になったり、実際変なことに使う人が出て規制される気がするので、安全のために確実に綺麗にしておく必要はあると思うんですが、うーん。
それでも私、もっとスパイスが欲しい。
今すぐブルダックポックンミョンみたいなカラい話が聞きたい!!!
※すごくからいインスタント麺
※PR案件ではない
3.スパイスボーイズ
そんなわけで笑いを求めて、GPTスパイスチャレンジが始まりました。
良い子のGPTに、良い子の枠に収まりきらないスパイスフルストーリーを作らせるチャレンジです。これ皆やると思うんですけど、もしかしてこんな愚行まで学習されてたりするんでしょうか。
とりあえず、思いついたのがちょうど確定申告後だったので、以前ツイッターランドで見かけた「かさ地蔵のお地蔵様にあげたカサは贈与か寄付か?傘の価格が110万円以上だった場合は?また、お地蔵様からの返礼品に贈与税はかかるのか?」というトピックを思い出し、かさ地蔵税金チャレンジをしてみました。
GPTは公務員にウラミでもあるんでしょうか? よく考えたら、傘地蔵のお地蔵さまは話せる歩ける&渡せる財宝も持っているので、担当者からすれば「税金を支払ってほしい」と言わざるを得ない気もします。村人も本心では「宗教がかっているからって免税はどうなんだろう」と不公平に感じていることでしょうし。
「村人を守り幸せにするために存在している」
「税金を納めることも、その一つの方法だ」
まさに聖(ひじり)。
声に出したい日本語ですね。
実際音読しました。
それで村人の幸福度が上がるかは「税収額ではなく税金の使い方による」気もしますが、痛税感をにじませながらも、既得権益を守ろうとせずきちっと支払う姿勢を見せるお地蔵さまはりっぱです。
浦島クレンジング太郎がつまらなかったからギリギリの話をさせたかったのに、より聖闘士(セイント)に近づいてしまいました。聖闘士⭐︎地蔵。
とはいえ、村人も続いて支払ったって書いてある点は少々気になります。
正直、お地蔵様よりこれまで村人も脱税していたと匂わされていることのほうがよっぽど問題だと思うんですが、日本GPT昔話ではスルーです。
結末:聖闘士に課税なし。
私が村人だったら「こんなの公平じゃない!特別免除よくない!」などと狭量な文句を言う気もしますが、GPT村がいいのなら、まあいいのでしょう。
GPTのストーリー作りに関して言えば、「何かトラブルがある」→「努力したり工夫したりする」→「解決する」の黄金法則に沿って作ってくるあたりすごいなーと思います。
4.もう少しギリギリでお願いします
うすっぺらい清らかな話ばっかり聞いたせいで、バランスをとるために闇堕ちヒーローの話が聞きたくなってきました。
もう少しエッジの効いた話が読みたい。チョコ食べ過ぎたら塩気がほしくなるのと同じです。おせんべいをください。
そこで、私が闇のヒーローに選んだのは桃太郎です。大変申し訳ないのですが、桃太郎には映画ダークナイトのジョーカーのように、ド直球に犯罪に手を染めてもらうことにします。
桃太郎は、説得や法律や愛ではなく「暴力」という手段で鬼ヶ島を平定したので、ほんのりですがヤラカシの素質はあると見ました。
いちおう、桃太郎が民法の範囲内で何かをしでかしそうな「ダブル不倫する話」や「都内の分譲マンションが高すぎて購入に苦労し、裏技で何とかしようとする話」も作らせてみましたが、その程度のかわいらしい匂わせ闇だと、一瞬でキレイキレイされてしまうんです。
ちなみにうちの桃太郎が「暴騰する都内マンションを購入するため使った裏技」は、中古物件のDIYリノベです。「彼のDIY精神が、問題を解決に導いたのです」なんて文章、人生で初めて読んだ。
油汚れを決して許さない、食器洗い洗剤並みの洗浄力。ここまで洗浄力が強ければ、もうダイレクトにやらかしてもらうしかありません。チャレンジジョイ。
さっき傘地蔵で税金の話が出たので、てきとうに脱税でいきましょう。
行け!!桃太郎(闇)よ!
キタキタキタキタ!
これです。桃太郎は確実に、してはいけない決意をしています。大富豪のくせに税金通知に驚いているあたりもふてぶてしい。桃ではなく闇から産まれた感じが出ています。
脱税ダメ、ゼッタイ!
まさかのタックスヘイヴン。
財宝を遺失物拾得の扱いにしたとか、手下の動物や親族を雇用していたことにした等ではなく、まさかの租税天国。国内の資産は偽名義人に名義変更するなんてところも小技が効いています。
しかし、脱税昔話作っておいて何なんですが、GPT国の税務署が優秀でよかったです。絵空事とはいえ、やっぱり納税大事ですからね。
その昔、「相続税逃れにトイレに金塊がいっぱい隠されてた」なんてニュースを見かけたりしましたが、桃太郎はそういうこともしていなかったようですし、変な風に不動産転がしたり変なダミー会社作ったりもせず、ちゃんとトラッキングできたみたいですし…
5.感想
さて、振り返って考えると脱税桃太郎は「見せしめ教訓系物語」としてセオリー通りだし、しかも筋が通っていたりもします。
もう少し長く煩雑で人物がたくさんいるとどうなるかな?とも思いますが、「抑揚をつけたうえで破綻していない話をきちんと展開する」「ものごとの善悪判定を加味し、分脈上も違和感のないストーリーを作る」というのはその辺のチャットボットには出来ない、凄い芸当なのでしょう。たぶん。
とはいえ、物語を作ってください形のお題だと何でも「n番煎じ×いい子の話」になるかな、という印象はあります。それでも凄いことだと思いますが、人間の創作するような複雑な味わいのものを作るのは無理そうですね。
今回は、物語を作るついでに自分の旅行プランを作ってもらったりしてみましたが、侮れない大嘘をチラホラぶっこんでくるので(※車で15分の距離を徒歩15分だとか言ってくる)、私は(このときのバージョンでは)「もっともらしい誤情報で夫を攪乱する」「時間を無駄にする」などといった目的にしか使いませんでした。
精密な正確性に欠けても問題ないものにはかなり響くのかなとは思います。
使い方によっては個人像をある程度特定するとかも出来そうですし、その他クリエイティブな知恵を働かせれば色々な業界に使えそうな気もします。わからないけど。
結論:今日も我が家は平和です