「薫陶を受ける」の例文
そんな字面のウインナーがあったような気がする。漢字二文字の商品名を、スーパーの精肉売り場の隣の加工肉コーナーで見たような記憶がある。シャウエッセンの横に並んでいたはずだ。冷蔵庫のメインの段の下にある狭い引き出しに入っていた。包丁で切ってはいけないと習った。歯で噛みちぎってこそ本領を発揮する。焼いてはいけいない。あれは茹でるために作られている。そう教えてくれた人は、冷蔵庫のメインの段の下にある狭い引き出しは「チルド」という名前だという知識も授けてくれた。肉や魚は大切に扱わなければすぐに腐ってしまう。それは子供も同じ。だからチルドレン(children)のチルドなのだ。
その人からは他にも大切なことをたくさん学んだ。バス停のベンチで食べていいのは300円未満の食べ物だということ。タバコはライターやマッチよりもコンロで火をつけたほうが美味しいこと。コンビニの傘立てからビニール傘を借りるときは必ず一番古そうなものを選ぶのがマナーだということ。それから——
「聞いてますか?」
先生の声で我に返った。途中から話を聞いてなかったと正直に答えると、先生は最初から繰り返した。
「ですから、君はあの男から薫陶を受けたような気になっているようですが、それは間違いだと言ってるんです」
薫陶。そうだ、そんな字面のウインナーがあったような気がしたけれど、あれは「香薫」だ。間違えた。