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「部活動」がなくなる。放課後に行き場のない中高生たちの受け皿は誰がつくるのか。
いま中学・高校の「部活動」を地域移行という形で、徐々になくしていこうという流れが起きているのはみなさんご存知でしょうか?
詳しい背景や議論は、スポーツ庁・文化庁が出している「学校部活動及び新たな地域クラブ活動の在り方等に関する 総合的なガイドライン」に書かれているので、よかったらそちらをご覧ください。
・少子化が進む中、将来にわたり生徒がスポーツ・文化芸術活動に継続して親しむことができる機会を確保するため、速やかに部活動改革に取り組 む必要。その際、生徒の自主的で多様な学びの場であった部活動の教育的意義を継承・発展させ、新しい価値が創出されるようにすることが重要。
・令和4年夏に取りまとめられた部活動の地域移行に関する検討会議の提言を踏まえ、平成30年に策定した「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」及び「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を統合した上で全面的に改定。これにより、学校部活動の適正な運営や効率的・効果的な活動の在り方とともに、新たな地域クラブ活動を整備するために必要な対応について、国の考え方を提示。
・部活動の地域移行に当たっては、「地域の子供たちは、学校を含めた地域で育てる。」という意識の下、生徒の望ましい成長を保障できるよう、 地域の持続可能で多様な環境を一体的に整備。地域の実情に応じ生徒のスポーツ・文化芸術活動の最適化を図り、体験格差を解消することが重要。
まあ、いろいろ書かれているんですが、大きな背景としては、①少子化で今までの部活が維持できなっている、②教員の働き方改革で土日や放課後の指導ができない、ということで、部活動を段階的に減らそうって話になっています。
現段階ではすべての部活動をなくす方針ではなく、土日や休日の部活のみを地域移行しようということになっています。例えば、自分が暮らしている焼津市も「地域部活動」と「地域クラブ活動」が立ち上がり、柔道、剣道、バレー、 eスポーツなどのクラブ活動が立ち上がっています。
確かに人口が少ないエリアの学校だと、サッカーや野球で1チームをつくることができる人数が入部しないという課題もあって、見直さないといけない側面はあります。でも、部活はこどもの放課後を過ごす大切な時間だったはず。
現状としては、この対応は個々の自治体に委ねられています。そのため、ここから大きな自治体差が出て、長い目では「地域力」にも繋がる重要なテーマになります。
部活がなくなるとなぜ地域力は失われるのか
スポーツを本気で頑張りたい人、ピアノや楽器などの習いごとに熱中したい人は有料のクラブに行けば良いと思います。実際に部活動がなくなることで、放課後ビジネスが育つでしょう。
そういう意味では、昔よりも多くの多彩な活動に放課後に参加することができるようになるかもしれません。
でも、部活の意味って放課後に中高生がなにかを習うだけなのでしょうか?
部活は、単にスポーツや文化活動に取り組むということだけでなく、チームで活動したり、みんなで話し合ったり、ひとつの目標に向かっていったり、多様な要素が絡み合っています。
部活には多様な意義がありました。また、部活は中高生の自治の訓練になっていた部分もあります。
部活を通じて、みんなで合意形成して、みんなで決めて、という経験をしていき、集まってなにかをする楽しさを部活から学んだ人も多いと思います。
ただでさえ自治会や町内会、PTAなどの地縁組織の担い手不足という話が出ているのに、部活を経験しない中高生はよりこうした活動を嫌煙するかもしれません。部活をなくすことはさらに地域を弱体化させることにつながります。
いまは土日や祝日だけだとしても、長い目では平日放課後の部活動もなくなる流れになるでしょう。放課後や土日に家でゲームだけする中高生が量産されないか心配でなりません。
正直、ぼくは部活が嫌いだった。
ここまでを読むと、僕は部活が大好きで、部活動推進派のように見えますが、正直いうと自分は部活反対派でした。
僕が言いたいのは、「部活をやめるな!」「部活を残そう!」ということではありません。部活がなくなるのであれば、放課後のこども・若者の居場所となる受け皿をちゃんと地域の中につくろうということです。
日本は部活が強すぎて、他の放課後活動が入る余地がありませんでした。だから、こどもの社会教育も育ちませんでした。諸外国と比較したときに、日本は圧倒的に放課後活動が弱く、部活が一強だったのはいうまでもないでしょう。
僕はどちらかと言えば、社会教育の側であり、学校とは一線を画しながら、一貫して放課後や土日の居場所・プログラムを展開してきました。部活動以外の選択を中高生に提供することが重要だとも考えています。
これまで中高生をさまざまなプログラムに誘っても、「部活が忙しい」「その日は部活です」と断られまくってきました。そうした意味では、いまの「部活がなくなる」という状況は非常に歓迎すべき状況で、内心嬉しく思っている部分もあります。
でも、それはきちんと地域側の受け皿が整ってからの話です。
そもそも部活の地域移行は誰が主語の話なのか
部活動の地域移行の議論をみていると、不思議に思うことがあります。それは中高生が主語となった議論はまったくされていないということです。
国レベルの議論では、こども家庭庁の「いけんひろば」で当事者から意見を聴き、反映する取り組みをしています。でも、部活の地域移行は基本的に各自治体に委ねられているわけです。だから自治体レベルで中高生が主語となった地域移行がされてほしいと願っています。
今回の地域移行には、①少子化で今までの部活が維持できなくなっている、②教員の働き方改革で土日や放課後の指導ができない の2点の背景があると書きましたが、実際のところ②のほうが大きな課題になっているように思います。
部活動の地域移行うんぬんかんぬんの前に、そもそもの教員の担い手が不足してきていて、教員の働き方改革はとても重要なテーマです。実際に土日の部活がなくなってありがたいという声も教員の皆さんから伺います。
働き方改革には大賛成です。教員はサービス残業が多すぎましたし、それは理解できます。でも、部活をどうしたらよいか?って大人だけの問題ではありません。中高生も当事者です。彼らから意見を聞いて、彼らの声を反映している自治体はどのくらいあるのでしょうか。
現状はどう考えても大人主体の地域移行です。中高生が主語とは思えません。このままで本当に大丈夫なのでしょうか。
パソコン部の中学生Kくんの話
最近出会った中学2年生のKくんは、パソコン部に所属しています。でも、地域移行に伴ってか、その学校ではパソコン部自体を4月から廃部にしてしまうそうです。
「先生にパソコン部がなくなったらどうしたら良いかって聞いてみたら、地域部活にプログラミング教室があるからそこに行きなって言われた。
でもそれは隣の市のプログラミング教室だったし、僕が求めているのはそういうことじゃなくて…」
パソコン部は週に2.3日、放課後にみんなでゲームをする活動だったそうで、確かにそれは大人からすれば必要ない活動に思えるかもしれません。
でも、きっとその時間のなかで育まれていたなにかがあるし、その時間は大人になってから振り返ると尊いものになるんじゃないかと思います。つまり、居場所としての部活という働きはとても大きなものだったように思うのです。
きっと彼はそのプログラミング教室に行くことはありません。もしかすると毎日家でひとり、ゲームをする生活になってしまうかもしれません。
そもそも隣町のプログラミング教室に通うには、時間もお金もかかります。家庭による経験差はより広がってしまう可能性もあります。
部活がなくなるならつくればいい。
まだ対応できる時期だからこそ、早い段階から対策を打っていく必要があります。正直、部活がなくなる流れを止めるのはもう難しいように思います。教員も限界です。
じゃあ不満だけ言っていてなにもしなくてもいいか?というと、そうではありません。それでは地域がより弱体化してしまいそうです。
僕らがこれから取り組まないといけないのは、部活に代わる受け皿を地域の側、市民の側できちんとつくっていくことで、そこに市民力が現れ、地域差が出てくると考えています。
例えば、全国の中でも先行して神戸市は平日の部活も地域移行するという流れになっていて、その受け皿作りに取り組もうとしています。
市教委の資料によると、新たな地域クラブ活動の名前を「KOBE◆KATSU(コベカツ)(仮称)」とする。地域のスポーツ団体などが主体となる方針だ。地域のクラブチームの指導者や希望する教員が指導し、学校施設だけでなく地域の施設も活動場所とする。
生徒は学校の枠を超えて、自分がやりたい活動を選ぶことができる。会費制で、各家庭が負担したお金を各クラブの運営費用にあてる。
神戸市がうまくいくかどうかはこれからということだと思いますが、こういう取り組みをできる地域とできない地域がきっと出てくるでしょうし、人口が小さな自治体ほどかけられる予算も少なくなります。
僕らも民間レベルでできることとして、「みんなの公民館まる」で部活をつくれる仕組みを準備していて、普通の学校にはない部活動が続々とできはじめています。こういうの民間取り組みも受け皿のひとつになるんじゃないかと思っています。
10年後を見据えて部活の受け皿を
いま現役の中学生たちは年齢的に13-15歳くらいです。彼らの10年後は23-25歳で、進学していればちょうど大学卒業くらいの年齢になります。10年後を見据えて考えたときに、いま10代の時期をどんな風に過ごしたのかは彼らの、そして地域の未来にとても大きな影響を与えます。
つまり、地域の中高生が放課後にローカライズされた活動の受け皿に参加しているのか、もしくは自宅でゲームだけをして過ごしたのか、それによって未来は大きく変わりそうです。
こどもの豊かな放課後をつくるのは、行政だけの問題ではなく、もはや地域に人材を残すための重要な地域課題であり、企業などの産業界の課題でもあると思います。
このままいくと放課後迷子になる中高生が確実に増えてきます。ここにきちんと人材と、財源をつける。これから社会教育セクターの重要テーマとして取り組んでいきたいと思います!