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聞いて、訊いたら、効いてくる。

目を開けているのか、閉じているのかもわからない。声と音、手ざわりだけを頼りに右か左か前かもわからない方向に進んでいく。


そんな暗闇の世界を体験できるのは東京・竹芝にある「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。チームで暗闇をめぐることで、対話とは何かを解釈するための場所でもある。

この場は完全に光を閉ざした“純度100%の暗闇”。
普段から目を使わない視覚障害者が特別なトレーニングを積み重ね、
ダイアログのアテンドとなりご参加者を漆黒の暗闇の中にご案内します。
視覚以外の感覚を広げ、新しい感性を使いチームとなった方々と
様々なシーンを訪れ対話をお楽しみください。
※「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」HPより引用

暗闇は距離感をグッと縮めてくれる

当日、私たちのチームを担当してくれたのは、ネパール出身のニノさん。元気いっぱいの声と流暢な日本語で暗闇へと案内してくれた。

まずはうっすらと明るい場所でニノさんの説明を聞いて、参加者同士で軽く自己紹介をする。そして電気を消して暗闇になったとき、ある1人の参加者が震える声で「ちょっと…怖いです」と声を上げた。

ニノさんはすぐに電気を付けて、自分の隣にその参加者を呼んだ。そして「もう一度電気を消すけれど、どうしても怖ければ今回はやめておきましょう」と言って、ゆっくりと暗くしながら「ニノはここにいるよ、大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」と声をかけ続けた。そして少し慣れてきたのか「多分大丈夫だから、このまま参加します」と参加者が落ち着いた声で伝えてくれた。

この数分間で声だけで安心させるなんてすごい!と思い、あとから質問をしたのだけど、どうやらトントントンと手に触れながら声をかけていたそうで、「心理学のテクニックなんだよ〜」と教えてくれた。


いざ暗闇に入ると誰がどこを歩いているのか、どちらが前なのか全くわからなくて、声を出し続けていないと一気に不安が押し寄せる。ようやく参加者の声が聞き分けられるようになると「〇〇さん、今どこにいますか?」「私の前にいるのは〇〇さん?」「あ、これ〇〇さんの手だね。ここですよ〜」と、明るい場所ではありえないくらいの距離感でコミュニケーションをとっていた。

ただ暗闇から出てくると、急にみんなよそよそしくなったのがなんだか面白かった。さっきまで名前で呼び合ったり手を触ったりしていたのに、目が合うと急に恥ずかしくなってしまうのだ。人見知りを直すなら暗闇がいいじゃん!と思っていたのも束の間、その効能は暗闇のなか限定のようだ。


暗闇では立場が逆転する

ニノさんは、暗闇とは思えないほど颯爽に動き回る。ニノさんにとってはいつもと変わらない状況だから当たり前なのだけど、自分が暗闇にいるとそのすごさを実感できる。

暗闇では見える人と見えない人の立場が逆転する。

事前にこの話は聞いていたとはいえ、体感すると「え?見えてるの?」と思うほどだった。

そして暗闇のなかでは、全てを知ることが正義ではないと感じた。なぜなら音と感触だけで次に自分がどう動けばいいのかがだんだんとわかってきたから。見えていない暗闇の部分は自分の想像力に任せてみる。すると最初の数分間は全てをわかっていない状況が怖かったけれど、少しずつわからないことが楽しくなっていたのだ。


「対話」とは?を考える

ダイアログを体験したあと、私は「対話とは一歩先の安心を作ること」だと解釈していた。相手に安心してもらいたくて声をかけることで、お互いに自分を開きあえたと感じたから。そして相手を安心させることで、自分自身も不思議と安心できる。すると居心地がよくなり、相手との関係性がぐんと深まる感覚があったのだ。


ただその後、たまたま手に取った雑誌でアテンドの1人である檜山さんがこんなお話をされていた。

「聞いて、訊いたら、効いてくる」。これは僕が自分で考えた座右の銘です。まず人の話を聞いたら、疑問が湧いてきますよね。だから、次は自分から訊く。そのキャッチボールをしていくと、わかり合えてきて、関係性にいい効き目が出てくる。つまり、聞いた話を自分がどう思うのかの感度を上げることが、コミュニケーションを豊かさにする作法なのかもしれません」
※『XD MAGAZINE』vol.3より引用※

”自分がどう思うのかの感度を上げる。”
ドキッとしてしまった。

私が解釈をした「対話」は、相手が欲しい言葉や情報を伝えることに重きを置いていた。そして自分自身のコミュニケーションの仕方を振り返ってみても、どちらかというと「自分<相手」という関係性になっていたように思う。自分が本当に思っていることを伝えることで、誰かが傷つくかもしれないとか、空気を読んでいないと思われるかもしれないとか、つい考えてしまうのだ。

自分を否定されるかもしれないという怖さもそこにはあって、伝えられなかった言葉は山のようにある。

ただ相手に合わせるだけではコミュニケーションとしてはきっと不十分で、「わからない」=「違い」をもっと楽しんでみようと思えるようになった。そもそも人と人との関係は暗闇のようなところからスタートする。「違い」をすり合わせる時間はときに億劫に感じてしまうけれど、その先の広がりをもっと感じてみたい。自分自身と、そして相手との対話を繰り返すことで、思いも寄らない発見があるはず。


「対話とは自分をはみ出して、伝え合うこと」なのかもしれない。暗闇にはいくつもの発見が隠されている。だから「わからない」→「対話」→「発見」を繰り返すことで、どんどん知らなかった自分の感覚に出会うことができる。まずは受け取ったら、ちゃんとボールを投げ返すことから始めてみよう。わからない自分の気持ち、わからない相手の気持ちを聞いて、訊いたら、効いてくる。そんな経験を積み重ねていきたい。


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