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長夜の長兵衛 鶺鴒鳴(せきれいなく)

恋教え鳥

 小さな包みを手に、婆さまの家を訪ねる。手折られた露草の色が涼やかで、質素ながらも芯のとおった佇まいである。
 若安兵衛さんからにございます。長兵衛は風呂敷をほどく。十五夜の折にはどうにも手が回らぬゆえ、本日お届けするのをお許しいただきたい、と。
 滅相もない、ありがたいことで。むかしから、爺さまは安兵衛さんの菓子以外は食べませんでしたけん。婆さまは薯蕷饅頭じょよまんじゅうを押し戴くように、仏壇へお供えされる。

 暖簾を継がれても、味は変わりませぬか、と長兵衛。
 あとは鶺鴒せきれいでも来れば、ますます良うなるでしょう。婆さまの皺がくしゃ、と形を変える。ほっほっと小さな笑い声が漏れ、骨ばった手が上下した。

 川べりを戻る長兵衛の前を、白と黒の小鳥が歩いておる。長い尾のひょこひょことする後ろから声をかけてみる。
 教えてくれるのか。
 小鳥は立ち止まったかと思うとこちらをちらり見て、飛び去った。
 甲高い鳴き声が、澄み渡った青い空に吸われていく。
  


<了>

日本神話では、セキレイが尾を上下に振る姿を見てイザナギとイザナミが男女の交わり方を知ったことから恋教鳥(コイオシエドリ)と呼ばれているほか、雌雄の仲むつまじい姿から、中国では「相思鳥」という名があります。

Premium Japan  http://www.premium-j.jp/premiumcalendar/20230912_29759/#page-1


  本年の鶺鴒鳴は、9月12日〜9月16日頃。

 そして大変お待たせいたしました。記事のコメント欄で密談を開始しまして、そのあと潜航しておりましたがついに、こうして公開じまんする時がやってまいりました。
 本日の扉絵は、まさかまさかのこの方です。

 
 とくと、ご覧あれ。

きっと、大家の金兵衛さんの床の間には、こんな掛け軸があるに違いありません



 扉絵のサイズに切り取るのが勿体無いと、知恵を絞ったのが掛け軸にすること。なかなか思うような写真が見つからず、最近練習中のAIお絵描き、Microsoft Bing (COPILOT)を発動。
 本当は、床の間にかけて、掛け軸の下には青い露草を一輪活けたかった。けれども謎の観葉植物の鉢で溢れかえってしまうのを止められず、掛け軸もどきになりました。

 KaoRuさんの魅力は、とても一言でお伝えすることなんてできません。イラストタッチからちょっと幻想的な人物画、そして墨絵。コミカルなコーヒー豆氏から本格ハードボイルド「その名はカフカ」まで、変幻自在なお方だからです。全部味わっていただきたいと思うのですが、本日のところは、まずこちらから。


  白と黒の濃淡、ってこんなに豊かだったんですね。

  浮かれモード全開の文章にならずに済んでいるのは、長兵衛世界だから、です。
  KaoRuさん、本当にありがとうございます。

 

 時々現れる名前のない婆さま、こんな方です。


 こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
 また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
 長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。