長夜の長兵衛 鶺鴒鳴(せきれいなく)
恋教え鳥
小さな包みを手に、婆さまの家を訪ねる。手折られた露草の色が涼やかで、質素ながらも芯のとおった佇まいである。
若安兵衛さんからにございます。長兵衛は風呂敷をほどく。十五夜の折にはどうにも手が回らぬゆえ、本日お届けするのをお許しいただきたい、と。
滅相もない、ありがたいことで。むかしから、爺さまは安兵衛さんの菓子以外は食べませんでしたけん。婆さまは薯蕷饅頭を押し戴くように、仏壇へお供えされる。
暖簾を継がれても、味は変わりませぬか、と長兵衛。
あとは鶺鴒でも来れば、ますます良うなるでしょう。婆さまの皺がくしゃ、と形を変える。ほっほっと小さな笑い声が漏れ、骨ばった手が上下した。
川べりを戻る長兵衛の前を、白と黒の小鳥が歩いておる。長い尾のひょこひょことする後ろから声をかけてみる。
教えてくれるのか。
小鳥は立ち止まったかと思うとこちらをちらり見て、飛び去った。
甲高い鳴き声が、澄み渡った青い空に吸われていく。
<了>
本年の鶺鴒鳴は、9月12日〜9月16日頃。
そして大変お待たせいたしました。記事のコメント欄で密談を開始しまして、そのあと潜航しておりましたがついに、こうして公開する時がやってまいりました。
本日の扉絵は、まさかまさかのこの方です。
とくと、ご覧あれ。
扉絵のサイズに切り取るのが勿体無いと、知恵を絞ったのが掛け軸にすること。なかなか思うような写真が見つからず、最近練習中のAIお絵描き、Microsoft Bing (COPILOT)を発動。
本当は、床の間にかけて、掛け軸の下には青い露草を一輪活けたかった。けれども謎の観葉植物の鉢で溢れかえってしまうのを止められず、掛け軸もどきになりました。
KaoRuさんの魅力は、とても一言でお伝えすることなんてできません。イラストタッチからちょっと幻想的な人物画、そして墨絵。コミカルなコーヒー豆氏から本格ハードボイルド「その名はカフカ」まで、変幻自在なお方だからです。全部味わっていただきたいと思うのですが、本日のところは、まずこちらから。
白と黒の濃淡、ってこんなに豊かだったんですね。
浮かれモード全開の文章にならずに済んでいるのは、長兵衛世界だから、です。
KaoRuさん、本当にありがとうございます。
時々現れる名前のない婆さま、こんな方です。
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。