希う
いつのことかは忘れてしまったけれど、「希(こいねが)う」という言葉に最初に出逢った時、あぁ、なんと"希う"って感じが伝わってくる言葉なんだろうと思ったことをよく覚えている。
文脈があったから意味を類推するのは容易いことだったけれど、乞い願う、請い願う、恋願う…なんて具合に、言葉のつくりと音の響きから、様々なイメージが連想されるこの言葉が、何年も何年も頭の片隅にずっと居座っていた。いったいそれはどのような感情なのだろうと。
ちょうど2年ほど前、コロナ禍が運んできた偶然のおかげで、音楽に合わせて詩を朗読するという文化を知った。なるほど、その程度の長さの詩であれば自分でも書けるのかもしれないと思い立ち、生まれてはじめてつくってみた詩がこの作品。
個人的には、文字が風景や情景に変わる瞬間が好きだ。だから、複雑難解な言葉が並べられていて、頭をフル回転させなければならない類の文章はあまり好きではない。
客観的に。とにかく客観的に。読んだ人/聞いた人の頭の中で、言葉が自然に展開されることだけをシミュレーションしながら書き上げた。
BGMとして選択したのは、榎本くるみの「打ち上げ花火」。ちょうど花火大会が開催される時期だったけれど、折り悪く各地でのキャンセルが相次ぐ状況だった。せめてこれを見た人の中に花火大会を再現することができれば、という安直な判断。
著作権の問題の都合上、公開用に作成した音源にモチーフとなった曲を使用することは叶わなかったけれど、ロイヤルティフリーの楽曲を使用して、意図したものに近いものはできたと思う。
自分なりの"希う"を表現できたと思うし、風景や情景の再現性もわりと高いのではないかとも思う。意外と楽しい体験だったから、また機会があればやってみたいね。
以下、詩と音声データ
希う
息を弾ませて坂道を漕ぎ上がる君の背中で
私は心地よく鼻歌を歌った
溜息交じりに不満を口にする君の横顔は夕日に照らされて
そこには 私の大好きな笑顔が浮かんでいた
遠くにあった花火の音がだんだん近づいて
二人のお気に入りの場所にまた帰ってきた
打ち上げ花火が照らし出すたくさんの幸せ
でも 一番は私たち
あなたの隣でならそう想っても
世界はきっと許してくれる
そして 私はずっとこの幸せを希うんだ
お気に入りのメロンソーダを飲みながら
花火が打ち上るたびに無邪気に喜ぶ君
ふと そんな君をカタチに残したくなって
少し照れる君をフレームに収めた
ぼくの悪い癖
夜空に消える花火に春の桜を重ねてしまう
――変わらないものなんてあるはずがない
でも 君と出逢って それは存在するかもしれないと思ったんだ
これまでの涙も
これからの笑顔も
きっと ずっとここにある そう想っても
きっと神様は許してくれる
だから ぼくはずっとこの幸せを希うんだ