戦地
今回の戦争はだいぶ惨い
戦地で心を失った軍人の扱いは、脚や腕なんかをやっちゃったそれより数倍ひどい。ひどいというか、優しいからひどいのだ。あんなに過酷だった日々から一転、貼り付けたような優しさのセラピーは俺にはかなり堪えた。お腹あたりの内臓が冷えていくような、永遠に鉄棒にぶら下がるような腕の痛い感じが何回もした。
診療を繰り返し、俺は僻地の銀河での軍務に割り当てられることになった。同僚はなし。現地の星人が何体かいるらしいが、まあなんとも。例えるならば古い会社の既得権益層みたいな、あってもなくても同じなような仕事だ。そのころにはやっと重荷がとれたような気持ちで、もはや軍人としての矜持もなにも消えかけていた。しかしもうこの辛さは完全に消えることはないだろうという予感だけは常にあり、それは俺の感情を穏やかに冷たいほうへと揺さぶりつづけていた、すべての事柄に目を瞑って、手当ての金を数百個の知恵の輪だかにほとんどつぎ込んで、もう早々に荷物をまとめ真空列車に乗り込んでだいぶ遠い星へと向かっていた。
600日ほどは起きたり寝たり知恵の輪やったりを列車の中で繰り返しただろうか。機械の車掌がメケメケメケメケと、目的地にもうすぐ着くことを繰り返し伝えていた。けちって乗ったすし詰めの三等車だったはずが、昏々と眠る間にもうみんな早い段階で下車してしまっていたようで、空気は澄んでまるで一等車のようだった。それとは反対に、600日のあいだでだいぶましになった鬱は、到着時間が近づくにつれて、灰に温度が戻るように煙たくなってきていた。しかし奥歯をかみしめてキャリーケースを引っ張るころには、つらいのは形式上だけで本音のところは実にどうでもよくなっていた。
そして……これは全く予想外なことだったのだが、現地の星民からは手厚い歓迎をうけることができた。戦争の関係者ということで少なくともいい印象は抱いてもらえないだろうと思い込んでいたが、彼はプランクトンみてえな腕を一生懸命ふりふりして、彼の子供と一緒に俺の到着を出迎え、喜んでくれた。
また、なんとなしに買った暇つぶしの知恵の輪も、大層ウケた。この星雲にはまったく存在しない概念だったらしい。一日(この星では一日は96時間である)を知恵の輪にすべて費やすことも少なくなかった。
鬱はあっというまに完治した。俺はここで永遠に働き続けている。