化石2

 ある日のことだった。個人製作のエンドロールみたいな、ポツポツとした隕石が一帯に降った。
 それから7日間くらいは、水が耳に入った感じの不快な耳鳴りが続いた。8日目からはだんだんとその閉塞感が心地よくなってくる者もいた……9日目からはもう、寒くて寒くて、考える以外のことはみんなまともにできなくなってしまっていた。
 その頃になるとほとんどの恐竜たちは完全に絶望しきっていて、そのムードといったら本当に酷いものだった。この何万年で伸ばした首も、尖らせた牙も、完全に意味を無くしてしまうからだ。あたりに広がる冷気と、彼らの色濃い悲しみはどっぷりとした相乗効果を生み出し、地球に満遍なく死をもたらしていった。
 そんな中、まだ死んでいない大きな恐竜が二匹居た。同族の中でもひときわ大きかった彼らは、冷たさが心臓に届くまでにまだ少し時間がかかるようだった。しかしもう手足は完全に冷え切っているので、彼らが行える活動といったら、岩壁にもたれかかることだけだった。
 一匹目の大きな恐竜は、今まで食べてばかりだった。背中から鞭で叩かれるような痛烈な食欲に、朝から晩まで急かされれていたからだ。それが今はどうだろうか。隣にこんなにも美味しそうな草食竜がいるというのに、欲望の全ては凍りついて、なににも催促されない。世界はこんなにも美しく、静かな場所だったのか……そう気付けたことが、生きてきた中でいちばん嬉しかった。
 二匹目の大きな恐竜は、今まで恐れてばかりだった。本能に基づき、強いものから逃げて、怯える生活を送ってきた。しかし今は、隣に大きな牙を携えた者がいるのに、驚くくらい穏やかな気持ちだ。自分には無い逞しい肉体と鋭い歯を、単純な視覚情報として受け取り、美しいと感じた。他者の魅力を掛け値なしで理解できることは、何よりも嬉しいことなのだと知った。
 絶望は大勢の恐竜を殺してしまった。しかし、絶望によってこの二匹の恐竜を救われたことも、また確かだった。決して誰の手も届くことのない深い場所で、未だ彼らの化石は眠り続けているという。

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