無題
かつて車は空を飛んだが、いろいろあって人類の移動手段は馬に戻った。まあ、いろいろといっても、成り行きについてはきわめて単純だった。みんな車のことが怖くなったのだ。そうなってからは、黒電話のダイヤルが正位置になるように、スムーズだった。
人数についても、1兆人はやっぱり多いという事で、500人ほどになった。これほどになると、日常生活で滅多に他人に会うことはない。それでも人類同士のつながりが前より密接になることはなかった。遺伝子の拒絶反応に大人しく従って、個々で生活するまでに留まった。
先人たちの残した無限食料製造システムは数十年に一度、時間にして約1分ほどの簡単なメンテナンスを要する。人類に残された労働はもはやそれだけになった。500人はそれぞれの残りの時間を、馬を乗り回したり、石を集めたり、海で泳いだり、本を読んだりして過ごした。