寸足らず
入学式の時点で既に
寸足らずの制服ズボンを穿いている
いわゆるビン底メガネをつけて
初対面だというのになれなれしく
「ぼくは西田ひかるのことが好きやねん
きみはアイドルだったら誰が好き?」
私学の高校で制服には上下ともに校章がワッペンされているから
汎用品などでは決してない
経済的事情で中学時代のズボンを穿かざるを得なかった
ということは考えにくい
男子校とはいえ
入学式早々キモイモテないやつレッテル貼られるのはごめん被りたいと
本腰を入れずにテキトーに相づちを打っていたが
寸足らずのボルテージは上がる一方で
西田ひかるの歌をくちずさむところまで行っている
こいつと友だちとは思われたくない
という気持ちがあふれそうになって
ビーインラブ
しかしそこでキュッといつものところに引き戻される
無重力というか真空状態というか
喋ってるつもりもないのに
自分の声だけがトンネルの中で響き渡る場所
そうか
そもそもぼくこそ寸足らず
だれも相手にしないことに夢中になってばっかでみんなからずっと奇異な目で見られてる
おれは鏡を見て
そこから逃れたい
と思っている
海辺で貝殻を集める老人がいて
何時間ものあいだ
腰をかがめては掌の中を見つめて
ああでもないこうでもない
貝殻は鈍い色で砂まみれで
潮の匂いがきつくて
なんか意味わからへんけど
泣きそうになってる自分に気付いて
ああそうか
まばゆいほど美しい
と思った