おしっこを我慢してるときの顔
どうやらおれは
アタマがおかしい
タバコをはさんだ指に
じんじんと血が巡る
風はなく
影もなく
耳をつんざく
音がある
そしておれは
おしっこを我慢してるときのような顔で
口を開けて
よろめいている
あはははは
ははははは
ん?
なに?
こっち見んな
その日、おれは山をおりていた。透明のビニール袋にカレーのルーを入れて。縁日ですくった金魚の要領で。カレーのルーは、さっき、山間の民家のチャイムを押して物乞いして得た。ああ、なにか食べるものを、ですか。昨日の晩ごはんのカレーの余りならありますけど。玄関先に出てきた40代くらいの女性はそう言った。タッパーがあれば良かったのだが、あいにく持っていなかったから、ビニール袋ももらった。カレーのルーは、ほのあたたかかった。なだらかな坂をくだり、つぎは白飯かバスマティライスを獲得できればいいのにな、とつぶやいた。滝のように蝉の鳴き声が響き、木々の合間から差し込む陽の光が肌を焼く。じりじりじりじりじりじりじり。かつて東海地方で連綿と受け継がれてきたという尻太鼓を思い出す。人々が尻を突き出して円陣を組み、時計回り、すなわち自分の左側に立つ人の尻を打ちたたくという奇習である。もちろんウソである。一、二、一、二と単調に始まるそのリズムは、やがてうねり、曲がり、飛翔する。まるで、鏡のように澄んだ泉に棲む龍のように。そうなると、もう踊らずにはいられない。フライパンに並べられたポップコーンのごとく、ここでもない、ここでもない、ここでもない、ここでもない。さて、もうお気づきだろうが、いまおれがやっているこれに方向性などない。ただ、イメージが湧き出るままに言葉を連ねている。どこに辿り着くかは分からない。もちろん、こんなものを誰かが求めているわけなどないことは分かっている。どいつもこいつも承認欲求不満者ばかり。見て見て見ての大合唱。はいはいご立派、よござんしたね。止まらない胸焼け。その原因のひとつであることを否めないことに辟易と諦めのシュプレヒコールが聴こえてくる。さて、調子づいてきたようなので、ここらでひとつ。
どうやらおれは
アタマがおかしい
タバコをはさんだ指に
じんじんと血が巡る
風はなく
影もなく
耳をつんざく
音がある
そしておれは
おしっこを我慢してるときのような顔で
口を開けて
よろめいている
あはははは
ははははは
ん?
なに?
こっち見んな
やはり、ぼくは全然わからんくて。わからんというのは、面白がりかたというか、これが何なのかっちゅうことで、アートかというと、それに限ったものではない気がするし、ラップとかブルースとかみたいに人前で演じる、つまりショーの感じで客を楽しませる芸、として理解したらええんかなとも思ったりするねんけど、演じる側に立ったときも、イスに座って聞いてるときも、やっぱりいまいちわかってなくて、まあ何をどう思うかは人それぞれやさかいなあ、とまあ、こう言うと、気ぃ悪する人もおるかもしらんけど、いかんせん正直な気持ちやからしゃーないよね、うん、たとえばアレみたいなもんなんかなー、ほれ、アサヒスーパードライ、CMの発音だとアサフィースーパードゥラーウィになるみたいな、いやいや、ほなじゃあなんで、わざわざココ来てるねんて言われると、そこはやっぱり、なんちゅうか、こう、どや、スゴいやろと思われたいというか、さもしい気持ちに突き動かされてて、じゃー、何を書こうかって考えると、結局、生き死にとか、恋だ愛だとか、世相への自論めいたもんとか、シを書くことそのものについてとか、そういう方向に向かってマイガチというか、ガチキチで、書いてるそばから退屈で、それがしんどいから他のことを、と、抜き身の刀をむやみに振り回し、変換ミスによる誤字をじつは期待してしまったりして、そんなふうに卑怯で無様に踊った挙句、地べたを掬ってなんとか集めて、ぎゅーっと無理くり繋ぎ合わせ、なんとなくカタチにまとめるんやけれど、でも、そもそも、ホンマに書きたいと思ってんのかなとか、元も子もなく迷い込む。とまあ、そういう想いがどっかにあって、確かにその存在を感じてはいるのに、そっちだけは見ないように首を固定しているから、肩が凝る。そして屁も出る。な、ほらまた。
どうやらおれは
アタマがおかしい
タバコをはさんだ指に
じんじんと血が巡る
風はなく
影もなく
耳をつんざく
音がある
そしておれは
おしっこを我慢してるときのような顔で
口を開けて
よろめいている
あはははは
ははははは
ん?
なに?
こっち見んな
肘の反対側の部分に黒い出来物ができて、これが大きくなっていって死ぬのだろう。そう思った。2、3日で消えた。
トリアーのアンチクライストを見た。途中で寝た。肘の反対側の部分は、(ちゅうか)と呼ぶらしい。そしてまた、飽きもせず、自転車を漕ぎながらチャックを閉めるのは難しい。だが、おれはいたって冷静だ。夜の高速を走る車の窓は流線型の風景を装い、視界に映る灯りは記憶の網をすり抜けていく。そういえば、おいらはちんまいころからよお、風邪をひくとアニメのギャートルズに出てきたでっかい石のお金が頭ん中に運ばれてきてバカヤロコノヤローつって、オネーチャン、そんで足し算やら割り算やらが繰り広げられてパッション屋良。頭がどんどん重くなって脂汗が浮かんでうなされたもんだった。ま、何はともあれ、幼いころ、わたくしは空を飛べると思っていたのでございます。飛ぶ夢をよく見たのだけれども、それがものすごくリアルな夢でいつしか現実と曖昧になって、どうがんばればよいのかは分からなかったものの、もうちょっとなんかしらがんばったら飛べる。ずっとそう思ってた。夢の中での飛び方は、宙に向かって腕をゆっくりと回し、空気を手のひらで押し分け、その力でぐいぐいと体が浮き上がっていくという、いわゆるクロール的なやつ。電柱の先っちょくらいの高さまで浮き上がったら〆たもんで、あとは誰にも邪魔されることなく悠々と市中を泳ぎ続ける。ゆうゆ。なすびのマーク。たまに急降下したりするのも楽しかった。秀ちゃん。
どうやらおれは
アタマがおかしい
タバコをはさんだ指に
じんじんと血が巡る
風はなく
影もなく
耳をつんざく
音がある
そしておれは
おしっこを我慢してるときのような顔で
口を開けて
よろめいている
あはははは
ははははは
ん?
なに?
こっち見んな
つけるクスリがない。おれのことだが、おれ以外の全員のことでもある。ルーツレゲエのゆるめなビートが下っ腹に響く。アイスコーヒーを飲み干したプラッチックのグラスの中に焼酎。ストローでちびちびやる。黄色い歯と土色の歯茎に、芥子の花のような白くぼやけた歯くそを纏わせ、どこかで会ったことのある阿呆が渾身のニヤけ顔で近づいてくる。じめじめした湿気。かすかな風。地面からむせ返る緑の薫り。縄文時代の人間たちはどんな祭りをしていたのだろう。1000年前、500年前、100年前、ほんで10年後、20年後、50年後、10000000年後。Power of Ten。氷が溶けて味のしないグラスの中身を飲み干したら、山の斜面に雲の影。村上春樹ならこう言うね、やれやれ。
どうやらおれは
アタマがおかしい
タバコをはさんだ指に
じんじんと血が巡る
風はなく
影もなく
耳をつんざく
音がある
そしておれは
おしっこを我慢してるときのような顔で
口を開けて
よろめいている
あはははは
ははははは
ん?
なに?
こっち見んな
美少女戦士を名乗る中年男性は風俗情報誌でライターをしており、当時、付き合っていたカメラマンの女性と一緒にSM店に取材に行った。中年男性は絵づくり、すなわちサービス内容を写真で分かりやすく説明するための写真を撮るために、男性客役を努めることになったのだが、撮影が進むにつれて女王様のサド心にスイッチが入り、パンイチに首輪という変態マゾの正装で淀川の河川敷を犬の散歩よろしく歩かされることとなった。女王様がリードを引き、マゾ犬が四つん這いで歩き、犬の彼女であるカメラマンは、その様子をカメラのファインダーごしに眺めていた。河川敷に犬のふんが落ちていた。女王様はそれを踏めと犬に命じた。犬は地べたに四つん這いのまま、首を横にふった。勘弁してください、彼女が見てるんです。そう言い終わらないうちに女王様は膝まで隠れるブーツで犬の横腹を激しく蹴り上げた。うう、と呻きつつ体勢を崩して倒れた背中に犬のふんがへばりついた。女王様は笑った。犬は鳴いた。カメラマンはファインダーから目が離せなかった。河川敷の空は澄んでいて、涼やかな風が吹いていた。遠くからトラックのクラクションが聞こえた。あたらしい呪いのカタチかもしれなかった。
どうやらおれは
アタマがおかしい
タバコをはさんだ指に
じんじんと血が巡る
風はなく
影もなく
耳をつんざく
音がある
そしておれは
おしっこを我慢してるときのような顔で
口を開けて
よろめいている
あはははは
ははははは
ん?
なに?
こっち見んな
これはいいぞ書きたいとおもってノートを開くと、あれなんやったっけとすり抜けていく言葉の背を追う。追いつかない。おれのやってることはそれだよ。誰か、その言葉を見かけませんでしたか。