レイディオー

 じーじーぴー
ラジオのダイヤルチューナーを回す
流れてきたのは
聞いたことのないコトバだった
 
たまたま行き着いた周波数
なにを話しているのかさっぱりわからない
 
外国のコトバ　かといえば
そうではなく
どうやら日本語のよう
だが　なにを話しているのかはわからない
 
おもろい話をしているようにも
かなしい話をしているようにも
ただ　ひとりごとを呟いているようにも

後悔した話をしているようにも
誰かを裏切った話をしているようにも
宇宙と細胞の話をしているようにも
 
ぬるく　重く　ねっとりと　夜が立ち込める
風のない部屋で
ぼくは
ラジオから離れられない
 
 
ラジオからは　今もってなお
聞いたことのないコトバが流れている
 
でも不思議と　風景が浮かんでくる
匂いがただよってくる
ふと　やらかした過去がよみがえり　逃げ出したくなる
あの日の　あのひとの　あの顔が浮かんで　タマらなくなる
 
しかし　センチメンタルに浸るのもつかのま
慣れてきたのか　じっくりと耳を澄ませると
聞いたことのないコトバの奥から
もうひとつのコトバが聞こえてきた
 
それは　「こんちはコンちゃんお昼ですよ」　だった
MBS放送で毎週月曜～金曜
お昼の12時から3時間ぶっとおしの生放送番組
 
ちなみに
コンちゃんとは近藤光史という元・毎日放送のアナウンサー
ふくよかな体型と歯に衣着せぬトーク　そして4度の離婚歴で
関西ではすっかりおなじみの75歳
  
 
まだ　ラジオからは
聞いたことのないコトバが流れている
 
それはいつしか　トラックのカーラジオから聞こえてくる
 
運転席に座っているのは
ウルフカットの尾びれが風にたなびく三白眼の若い男
だりーっすね　とたばこをくゆらせた　そいつもまた
聞いたことのないコトバにまみれている
 
かと思えば
うどん屋の神棚に置かれたラジオから

20歳を超えてからシンナー中毒になった男がよく行く手芸屋から
住道駅前のゴキブリが出るラーメン屋から
鴻池新田の閉店後のニチイの駐車場から
終電後の大阪城公園のギターから
深草のケチな焼鳥屋の吐き気がするトイレから
宗右衛門「の」アズガーデン「の」アニメ声「の」女「の」コ「の」声優志望「の」せりかちゃん「の」血まみれ「の」マットレスから


まるでインセプションのコマ
彼岸と此岸（しがん）がごっちゃになって
はだしの手ぶらで　すたこらさっさ
 
 
そしてまだ　ラジオ（レイディオー）は鳴り続ける
 
オチも　主題歌も　エンドロールも　ないけど
意味のわからん　きっしょいコトバの羅列は
終わりそうにない
ねえ　そうでしょう？