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デ・キリコ展、玩具箱をひっくり返したような世界に浸る。
わたしがデ・キリコの絵画に出会ったのは、
大学時代の油画の授業だった。
《通りの神秘と憂愁》
どこまでも続いているような緩やかな坂を、
輪回しをする少女が駆け上がっている様子が描かれている。
無邪気に遊んでいる動きを捉えているのだがその姿はシルエットで描かれ、
ちぐはぐなパースの建物が現実味を欠いている作品。
どうしようもない物寂しさに目を奪われたのを覚えている。
この作品を観てからわたしの中のキリコ象は
「白けた空間に、無機質に佇む建築物。
大小の関係が歪な広場には寂しげに人が立つ、
寂しげで救いのないような世界」だった。
東京都美術館で開催している『デ・キリコ展』を観てきた。
今回の展覧会を通して、
どれだけデ・キリコが絵画にどっぷりの人生を歩んできたか。
そして一生をかけて進化(時に退化)を繰り返すほどバラエティーに富んだ人物というのがわかった。
それくらい、ボリューミーで見応えのある展示だった。
◆怖いのか、愛おしいのか。人間味滲み出るマヌカンたちの世界。
ちょっとした首の傾げや手足の動き、愛し合うマヌカン同士。
表情がなくのっぺりとした頭部は不気味なのに、
その動きの人間らしさから愛おしささえ生まれてくる。
「理性的な意識を奪われた人間」を表すデ・キリコのマヌカンは、
ある意味純粋な人間の姿を映しているのだろう。
◆立体でも三角定規? 彫刻作品のキリコ節。
デ・キリコが立体にも挑戦していたことを初めて知った。
まるで絵画からそのまま出てきたようなマヌカンのブロンズ像が並ぶ展示も見どころだと思う。
幾何学的な図形や模様を施されたマヌカンは、
立体と化したことでさらに生命感を増してそこに存在していた。
360度見まわせるとはなんて贅沢なんだろう!
にしても彫刻で形を取るのも上手だったんだなぁと驚き。
◆奇妙で不穏な空間が明るくポップに。新形而上絵画に広がるい空間。
原点回帰というのか、古代ギリシャ・ローマやら古典主義やらに寄り道しつつも、
晩年のデ・キリコは形而上的表現に戻って来る。
過去の自作品のオマージュや複製も多かったが、新作の形而上絵画は中々にドぎつい。
繰り返し出てくる太陽と月のモチーフや、神話的モチーフ。
それが室内の背景にまたアンバランスに並べられていく。
彩る色はぱっと目を引くように彩度が上がっていて、
これは後のポップアートにも通ずるようだ。
よく言えば面白い。悪く言えば意味が分からない。
そんな謎に満ちたデ・キリコの世界にわたしたちもマヌカンのようにちょっと首を傾げながら浸ってみれば、
夢でも見ているかのような不思議な感覚が味わえるだろう。
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さいごに。
今回は音声ガイドがムロツヨシさんだったので気になり借りてみた。
デ・キリコに合わせて一風変わった読み方でもされるのかと思っていたが、
低く落ち着いた声は聞きやすくゆったりと展示を誘ってくれた。
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グッズも気になるものが多く、
色々手に取ってしまうと結局いいお値段になりそうだったのでそれならと図録を購入。
またゆっくり振り返ろうと思います。