映画レビュー「ファニーゲーム」

セオリーやご都合主義を徹底排除したある種の実験的、画期的作品
(ネタバレあり)
★4/5

数年前に知人から
「もう本当にどうしようもない胸糞映画があるんで
チャンスあったら見てみてください」
と言われて興味を持っていた作品。

「史上最悪の胸糞映画」と言われていることが多いので
覚悟して見てみました。


以下ネタバレあります。





なるほど・・・。
確かに胸糞悪いですね・・・。
しかも物凄く!

本当に救いがない。


別荘に避暑に来ている家族のところへ、
素性のわからない若者が
「卵をください」と言って入ってくる所から始まる悪夢。

家族たちは理由もなく若者2人に軟禁されてしまい
暴力を受けて行きます。

でも、この手の作品にありがちな
結局主人公がボロボロになりながらもなんとか生き残る・・
という結末には至りません。

なおかつ、途中で「反撃のチャンスか?」と思わせそうになっても
ことごとくそのチャンスが潰されます。

極め付けはメタフィクションな演出を使ってまで
そうは行かないんですよと
見ている側に念押ししてくる事ですね。

せっかく犯人を撃ち殺したのに
テレビのリモコンで時間が巻き戻されて
それをなかった事にされてしまったら
もう登場人物たちが助かる道はありませんよね(笑)。


1997年の作品なので
もうだいぶ古い映画にはなりますが、
ここまで徹底的に「救いはない」という方向に振り切った作品は
今でも他にないのではないでしょうか?

映画ってある種の「虚構」を見せてもらって
それに浸りたいから見る部分があると思うんですが、
この作品には「物語」がありません。


オープニングのクラシックからの突然のハードコアパンクで
すでにこの作品の持つ不穏な空気が120%表現されていますし、
子供が殺された後の10分ほどの引きカメラでの1カットシーンや、
決してハッキリ映すことがない暴力や殺人そのものの描写など、
現代の刺激的な映画なら多用するであろう
わかりやすいグロ演出を一切使わずに
見ている我々を精神的に追い込んで行きます。


ミヒャエル・ハネケ監督は
心理学や哲学を学んでいた方だそうですが、
多くの映画が持つ「セオリー」や「ご都合主義」に対して
徹底的にアンチを貫いてみた、
ある種実験的で画期的な作品だと言えるのではないでしょうか。

現実は映画のように良いタイミングで救いが現れることはないし、
現実には映画のように納得できる動機や背景が必ずある訳でもない。
ただただ出来事が積み重なって行く。
それが現実。

終盤のボートの上で若者2人に語らせた
虚構と現実の話に
この作品に込められた意味が見て取れるように思います。


まあ、とにもかくにも
普通に見たら本当に救いのない胸糞映画でしかないので、
全く人にオススメはできないですね。

同監督によるリメイク作「ファニーゲームUSA」という作品もあるようですが、ほぼ同じだとも聞くので、ちょっと見るのは躊躇してしまうかなぁ。

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