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【五】一人の天使
この頃から白い華は咲かなくなって、男から倦怠感がなくなっていた。
部屋の空気も心なしか軽い。
男が目覚めると、昨日のことを思い出し心が躍った。
もう一人天使がいた!早く会いたい!
そんなことを思いながら過ごす時間は速いもの。
解放された気分で蛇の道を突き進む。
事務所に入ると悪魔たちが男の変化にすぐ気付いた。
なにやら嬉しそうな男を見ながらニヤニヤと不気味な笑みで声をかける。
「いいことでもあった?」
男がしまった!と思うころにはもう遅かった。
「いえ、なにも」
と悪魔たちを見ると、見透かした顔でニヤついている。
最悪のタイミングで新人が入ってきた。
悪魔たちが目線を合わせ、何か企んでいるかのように挨拶だけ済ました。
不幸にも新人と悪魔がペアになり持ち場についた。
ドアの閉まる音が棺桶を閉める音にも聞こえた。
悪魔とふたりきりなんて、なにを話されるか想像するだけで気の毒だ。
悪魔に心臓を鷲掴みにされながら、時には強く握られながら仕事をした。
休憩になると、悪魔が新人を引き連れて、やはりニヤつきながら来た。
新人が少し申し訳なさそうな顔をしているのがわかった。
「やっぱりいいことあったんだね」
と言われた時、冷ややかな暗闇に沈み込んだ。
こうなれば、アテにならない神に頼むしかない。
仕事が終わり集まってくると、新人が悪魔たちの顔色を伺っていた。
もう天使たちにも広まっていたのだ。
それから数ヶ月の間、新人と付き合ったが終わりを迎えた。