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【三】一人の天使


痩せ細っているが足取りが重い。まるで奴隷につける足枷のようだが目に見えないので、傍から見れば自由で不健康な青年に見える。
迫る地獄を紛らわすために自由な曲を聴きながら自転車を走らせる。
こんな地獄の蛇道でも少しは楽しくなるもんだ

職場に着いた時、扉の異変に気付いた。
少し毒素が抜かれたような扉になっていて、歓迎してくれているようにも感じた。

事務所がなんだか賑わっている。
そこには容姿端麗とまではいかない可愛らしく弱々しが、しっかりした人がいた。
天使と話した会話を思い出し新人だと気付き、目をあわせて
「初めまして」
といつもより高めの声で挨拶をした。
「初めまして、宜しくお願いします」
と肉声でありながら、どこか機械じみた話し慣れていない声で、緊張している様子が伝わってきた。
目線をハズし準備に取り掛かった。

朝礼で新人の担当が自分に決まり各自持ち場についた。
あれこれ教えている内に、機械じみた声がしっかり肉声に変わっていた。
少し慣れてきたので、他愛ない世間話なんか話していた。
「話しやすい人でよかったです」
なんて言うもんですから、少し照れて
「はじめが自分でよかったでしょう、別の人ならこうはいかなかった」
と照れ隠し気味に茶化した。

悪魔と新人と自分で休憩に入り各々休んでいると、悪魔に話かけられた。
「新人と仲良くなってるねどうかな、仕事はできそうかな」
「覚えが早くて助かってます」
「……そう、よかった」
と惜しげに言い放ってどこかへ行った。
後味の悪い言葉に、新人の粗を探していることがわかり、測るすべもないほどの深い闇にゾクッとした。

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