11. 腺癌と扁平上皮癌の違い
腺癌と扁平上皮癌の違いについてここで説明する.
腫瘍にはいろいろな組織型があるのに,なぜ,腺癌と扁平上皮癌を比べる必要があるのか.その理由は簡単で,この両者を見る頻度が圧倒的に高いから,そしてこれらの腫瘍のバリエーションも豊富で,時に鑑別が難しいから.
特に細胞診を勉強している人は腺癌と扁平上皮癌の違いは永遠のテーマみたいなもので試験でも日常業務でも悩まされていることだろう.
腺癌と扁平上皮癌を比べることで,どのようにして細胞を読み解いて行くのかと言うのを考えてみる.
癌というのは発生母地のもともとの細胞や組織構築を模倣する性質があることを思い出す必要がある.わからなくなったらもともとはどんな組織だったのか考えながら判断すれば表を覚えなくてもなんとかなることが多い.
扁平上皮癌と腺癌の組織学的鑑別の要点
細胞形態 核形態 核小体 N/C比 細胞配列
扁平上皮癌 多稜性 ほぼ中央 目立たない 小さい 敷石状~ シート状 (細胞間橋)
腺癌 円柱状 やや偏在 大きく目立つ 大きい 管腔形成傾向
もともと扁平上皮というのは表層に近づくにつれて核/細胞質比が小さくなる(最後は脱核する),核は中央寄りに位置し,細胞質が好酸性(ピンク色)でやや厚ぼったい(重厚,と表現する),シート状(細胞同士の重なり合いが少ない,細胞同士が隙間なく敷き詰められるので多稜性になる).そして細胞間には細胞間橋が見られ(デスモゾームによる結合),皮膚では角化が見られる(最終的に脱核して好酸性の細胞質のみ残る).
一方で,腺上皮というのは粘液を有していることが多く核は圧排されて偏在している.細胞は円柱状で腺腔を形成している.
癌になってもこれらの細胞の特徴が生きる.強いて言うなら扁平上皮癌の場合は核クロマチンが濃く染まり核小体は目立たなくなり,腺癌では明瞭な核小体が見られる様になる.そのどっちの所見もはっきりしなければ低分化な癌として,免疫染色なりを行って判定している.
ちなみに以前も話をしたが,最近の流行りとしては元の組織構築よりもどういう組織へ分化しているかを重視する傾向にある.同じようなことを言っているに思えるかもしれないが,例えば胃の扁平上皮癌と言ったときに,胃には扁平上皮は元々いないので,胃の腺癌が扁平上皮へ分化した,と考えた方が理解しやすい,ということ).
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