6. 腫瘍の他の分類
腫瘍の分類方法には,先ほど挙げた良悪性という考え方が基本的だが,それ以外にも様々な分類法がある.
1. 原発臓器 (発生した臓器) によって分ける方法.これには「肺癌」や「肝癌」,「腎癌」といった大雑把な言い方が含まれる.とても古典的な言い方ではあるが,どこの腫瘍なのかわかりやすいので,今でも普通に好んで使われる.
2. 腫瘍が由来する組織により分類される方法.扁平上皮や腺上皮のような上皮性組織から発生するものを上皮性腫瘍,それ以外の非上皮性組織から発生するものを非上皮性腫瘍という.要するに「上皮かそれ以外」という分け方になる.結構乱暴な分類の様に見えるかもしれないが,上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍では病変の振る舞いが異なっていることが経験上言われていて,もっというと上皮性腫瘍だと治療方法(手術適応の考え方や化学療法の薬の種類など)に類似性があるので,これらをまとめて考えた方が効率的ということ.非上皮性腫瘍はリンパ腫,肉腫,脳腫瘍など多岐にわたっていて,治療のアプローチも様々ではある.
3. 分化度により分ける方法.腫瘍がもとの組織と似ている場合を高分化,かけ離れている場合を低分化とする.低分化に近づくほど悪性となる.これは先ほどの言ったのと同じこと.
4. 腫瘍を genotype(遺伝子変異)に基づく腫瘍の分類をしようという方法.1-3. まではphenotype(組織学的な形態に基づく診断)であるが,最近新たに定義される腫瘍はほぼ全て遺伝子変異に基づいた分類を採用しており,またこれまでにあった腫瘍も遺伝子変異の観点から再編されてきている.例えば脳腫瘍で頻度が高い「星状膠細胞腫 astrocytic tumor」は IDH という遺伝子の変異がなければ,厳密には「星状膠細胞腫」と名乗れなくなってしまった.他にも「孤立性線維性腫瘍 solitary fibrous tumor」 は NAB2-STAT6 の融合遺伝子を有するものと実質的に再定義され,この融合遺伝子を有していないものは「孤立性線維性腫瘍」とは言いにくくなった.
(ちなみに遺伝子は斜体で書くのが決まりであるが,note の仕様上難しそうなのでとりあえずそのまま書く)
世の中流行り廃りというものがあって,1-3 は古典的で,4. が今どきの分類法である.もう少し付け加えておくと,今の分類学の流行りはどの組織に由来するかより,どの組織へ分化しているか,に基づいて命名されている(つまりどこ由来だって別に関係ない,というスタンス).
ここらへんはあまり病理総論とは直接関係ない話になるけど,4. のように遺伝子の変異で腫瘍の分類が決まるというのは我々病理医にとってはとても画期的で,形態像による診断よりも遺伝子変異による分類の方が予後との相関が良いことがわかってきた.先ほど例に挙げた「星状膠細胞腫」についても,例えば形態的に「希突起膠細胞種」と診断していたものでも,遺伝子変異の結果如何でどんな形でも「星状膠細胞腫」と診断することになり,我々がこれまで見てきた形態像はいったい何だったのであろうかと,ないがしろにされているという感覚をもってしまう.
とはいえ腫瘍の遺伝子検査をするにもまずは病理検査によって腫瘍があることを確かめなくてはならず,もう少し古典的な話を続けることにする.
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