場所のお題④「蒸し暑い廊下と冷やされた部屋」
クーラーが効かないからと夏になると部屋のドアは閉めていることが多い。部屋の中は涼しくて快適になるが、その分ドアを開けて廊下に出た時は地獄を味わうことになる。
…ところで、このドアはいつ開くんだ?
“蒸し暑い廊下と冷やされた部屋”
もうかれこれ2時間は経つが、一向にドアの開く気配がない。部屋の住人は、私の存在を忘れてしまったのだろうか。
もっと自己主張しないとドアを開けてもらえないのだろうか。
そう思った私は部屋の外から「中に入れてほしい」とドアの向こう側へ呼びかけた。しかし、特に返事はなくドアの開く気配もない。聞こえていないのだろうか?それとも、まさか熱中症で倒れているのでは…?!最悪な場面を想像しさらに呼びかける。
数分ほど呼んだだろうか。
「…っるせえぇなぁ…」
という声と共にドアが開かれた。私の最悪な想像は現実にならずに済んだようだ。
ほっとしたのも束の間、部屋の住人は不機嫌な顔で私を見るとそのまま窓から私のことを放り出したではないか。
「なっ…!?」
抗議の声をあげるも空しく窓はぴしゃりと閉められた。地面に激突しないよう慌てて体勢を立て直す。届くかわからないが、抗議と怒りを込めて窓の外から声を張り上げる。
残り3日間。素敵なパートナーを見つけるどころか私の生涯をかけてあの住人への抗議に使ってしまうなんて…
来世では素敵なパートナーと生涯を終えたい…
外でうるさく鳴いていたセミが鳴きやむころには、蒸し暑かった季節も去り開け放たれたドアから気持ちのいい秋風が廊下へ流れていた。