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メシア 【1】

(中学生の時に書いた歌詞のストーリーを思い出して。)

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【1部】

今日も一日が過ぎた。ただの一日を過ごして僕が藁の上に寝そべる。背中に僅かだけれど、刺さるような感触を味わう。もう、次第に慣れてきたのか背中の皮が厚くなったのかは分からないが、嫌という気持ちも飽き飽きしてどこか遠くへ離れていったのかな。そんな風に思う。

ロウソクの火が穏やかになびいている。目線を45度ほど見上げたところにある窓からはお隣さんの家の窓から出ている光が入ってきた。やや、暗いけれど、僕は左手に持った分厚い本を胸の前に持ってくる。開く。ちょうど、白紙のページだった。今日の出来事を書くには早すぎて、まだ将来のことを書くページだ。その将来時点のページから過去へ遡り、現在、まさに今日となるページに辿りつく。ちらっと見た後、少しため息が自然と口から出てきた。天井を見て、目をつむり、今日の出来事を思い返す。

今日は僕の大嫌いなリンゴを売っている果物屋の手伝いをした。朝から働きはじめ、昼も立ちながら商品を売っていた。ちょうど、果物屋の奥さんが出産を控えているということで、「だれか手伝ってくれないか。」と、まるで耳がヘタっと垂れた犬のようにおとなしくなった果物屋の主人が困っていることを聞きつけ、いつも通り馳せ参じた結果の労働の日々である。後悔はきっとない。他人の助けを求める声が活力、とかなり前の自分自身に暗示をかけてしまったようだ。

暗示をかけてから、何年が過ぎたのだろうか。暗示をかけた日々のページをぱらぱらと見返す。やや、厚い本で、10センチもの厚みがある。これを毎日書き続けている。1ページに何日分が入っているのかな。様々だ。書くことは単純だ。僕がヒーローであればいい。針小棒大、大言壮語、その四字熟語であればあるほど最高だ。困ったおばあさんが財布を落としていたので、この村の管理をしている役場へ届けただけで、僕はどこかの女王から勲章をもらうかのように、壮大で、華麗で、耽美な文章を綴ることができる。嘘ではない、ちょっと大きめに書いているだけだ。きっと、本の中の僕はいい顔をして、豊かな生活を送っているに違いない。そうさ、これだけのイイことを積み上げた、徳のある者が藁の上に寝そべっているはずなんてない。

一瞬目を閉じ、勢いよく体を起こした。書こう。藁の上から少し離れた机の前に行き、椅子の上に勢いよく座る。なぜだろうか、眠気はしない。この1日の振り返りの執筆作業が僕のすべて。そう思っている。

【一部 了】








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