光は常に正しく在り その⑦:ハートのかたちpart2
「おれたち、ずっとこんな感じなんだろうね」
昨日、明け方までそんな話をしていたんだ。
「おおこしさんはきっと、他の人よりもだいぶ無邪気なんすよ。思考する時のやり方自体は深くても、考えていることそのものはだいぶ無邪気」
彼はぼくにそう言った。
そうか。ぼくは良く言えばとっても無邪気でイノセント。悪く言えば、すっごく子どもなんだね。
面白いとか楽しいって感じることが、みんなと少し違っている気がするのも、そのせいなのかしらね。って思ったよ。
誰がどんな車に乗ってるかとか、どんな時計をつけているかとか、仕事がどうだとか、あいつのやってることがどうとか、知らないやつの惚れた腫れただとか、クソつまんねぇ同じボケを何十回も繰り返すとか、ぼくらにとっては心底興味がなくて、すこぶるどうでも良いことなんだ。ガキンチョだから、大人たちのする話についていけないんだな。
海辺で潮風を胸いっぱいに吸い込んだ時にどんな気持ちになるのかとか、ずっと追いかけているものに対する情熱だとか、最近どんなことにワクワクしているかとか。あなたが「なにを好きか」じゃなくて、「どうして好きなのか」っていう話ばかり聞いていたい。なぜそうすることを選んだのか、その秘密を教えてほしい。あるいは、その逆にとても悲しいこと、つらいことがあったのなら、その水源地をそっと見せてほしい。
そんな話が聞けたら、あなたがそれを選んだ理由がどんなものだとしても、その選択に花丸をあげたくなるよ。
好きな音楽の話をしていたい。好きな漫画の話をしていたい。好きな映画の話をしていたい。好きな本の話をしていたい。好きなゲームの話をしていたい。架空の国の物語を話していたい。今日の空がなんで良い感じに見えるのか話していたい。さみしく感じるシーンの話をしていたい。これから作る音楽の話をしていたい。「あなた」の話を、そして、ぼくらの「これから」の話をしていたい。そんな話だけ、していられたら良いのにな。
だけど別に、興味がない話題で時間が流れていくこと、それ自体がイヤなわけではないんだよね。
ぼくが「どうでもいい」って思うのと同じく、ぼくの好きな感覚だって、大体のひとからすれば、どうでもいいことだってわかってるし、ぼくがみんなに合わせる必要がないように、あなたがぼくに合わせる必要もない。
みんながぼくのピンとこない話で楽しそうにしているのなら、それを微笑みながら遠くで眺めていたいんだ。少しさみしいけど、誰かがどこかで笑顔になれているならとってもうれしいこと。できるだけ、あなたたちが笑っているところを想像していたいよ。
ははは。何も言うことがなくても、どこにもいなくてもなんて、そんな自分勝手、誰が許してくれるのかしら。
その後、彼は「大人になって良かったな、って思ったこと。ありますか?」って聞いてくれたけど、それはまったく思いつかなかったねぇ。
歳を取ること、身体が大きくなることは別に「大人になる」ってことじゃないんだって気がしている。ぼくの精神構造は大体5歳くらいのままで、そこから変わってないのだろうから、「わかんないや」って答えちゃったよ。
なのに、生きてきた時間が長くなるにつれ、心の瞬発力や反応速度がとっても鈍くなってしまったなって感じることは多々ある。
きっと、あの頃みたいに初めて聴く音楽や映画や物語たちに、圧倒されるほど感動する瞬間は、もう、訪れない。21歳の時聞いた「White White White」っていうアルバムがぼくにもたらした稲妻のような出会い。
このアルバムがなかったら、ぼくは音楽をやっていなかったと断言できる(特に4曲目の「調律するかのように(Over the Rainbow)」や5曲目の「君と僕(flowers)」、7曲目の「名も無い景色の中で(I Will Say Good Bye)」なんかは完全にぼくのペーソス!)。もう、そんな出会いはきっとない。
だから、それ以上の涙がぼくから流れてくることは未来永劫起こり得ないって気づいてしまっている。気づいてしまいたくなかったよ。気づいてしまうと、終わっちゃうからさ。
それでも、歳を重ねて良かったなって思うこともあるもので。例えば、いつもの曲がり角を曲がる時「あれ、こんなに良い景色だったかな」ってふと思ったり、真夜中にベランダでタバコを吸いながら見る何でもない風景に心がじんとしたり、好きな誰かの仕草を愛しく感じるようになったり。
小さい頃なんて、星がきれいかどうなんて、どうでも良かったもん。いつから、そんな風に感じるようになったんだろう。
心の瞬発力は確かに低くなったけれど、見えるものに対する解像度、感じられること、それらに対する愛情は深まってるってことなんだよな。ふふふ、ちゃんと嬉しい事実。
以前の日記の中で、「ぼくはどんどん大人になっていくと思う」って書いたけれど、どうやらその逆になってるみたいだよ。自分のハートのかたちが見えたら、もっと無邪気に美しいことばかり考えていたくなったんだ。できるならば、ずっとこのまま。ぼくらの魔法が解けないままでいさせて。
ずっとこのまま。ずっと、このまま。
......うん。
いま、あなたたちの見えている世界はどう?
願わくば、とても美しい微笑みで満たされていることを祈るばかりだよ。だけどもし、いまがそんな風に思えないとしても、たぶん大丈夫。ぼくの言葉がそうじゃなくても、あなたの言葉は、きっと誰かの世界を救っているから。あなたが、何か新しいドキドキと出会う瞬間に、邪な誰かのくだらない邪魔が入りませんように。
「おれ、結局、そんなおおこしさんが好きなんすよね」
彼はそう言ってくれた。おとぎ話じゃないから、残念ながら、それでぼくのさみしい気持ちがなくなったりするわけじゃないけれど、ぼくは本当に救われているよ。謎のおじさんバルタザールの話もたくさんできたしね。ありがとう。感謝している。いつか、孤独の消し方を教えてよ。
なんとなく、でも鮮やかにそう思う。この先もずっと、いちばん綺麗な眼差しの光の中で、微笑んでいてね。
みんなみんな、微笑んでいて。
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