otava 6 Mizar Alcor -ミザール・アルコル- オーロラのビロード
魔法
いくつも魔法を手に入れて わたしは大人になれただろうか
いくつも失い呪われて それでもわたしはこどもだろうか
夜の暗がりが隠していた 半分は驚きと喜びで
もう半分は どうしたらいいか とまどうばかり
「まだひとつ おまえは知らないことがある
だから魔法を空にかけよう
今夜いいものが見られるはずさ」
水平線が日を飲み込むと つかの間の昼は終わって
夜より長い夜がはじまる
太陽が眠る季節
先をゆく魔女を追って わたしは草原にたどり着いた
見上げた空は薄みどり 光の膜をなしている
それはオーロラ うつりゆく色
光のひだは 薄いピンクに姿を変えて やがてただの空が残る
いつしか魔女は消えていて
わたしの手もとには オーロラでできたビロードがあった
なめらかな生地の表面に 映し出される おんなとおとこ
見つめあい 近づき ふたたび遠のく
ひとり涙に暮れたり 洒落て大通りを歩いたり 抱き合ったり
それはたしかに知らない世界で
胸が高鳴り 熱をおび ビロードを持つ手は小さく震える
ふたりはくちびるをあわせると ビロードの皺の波に消えた
呪い
魔法と呪いは切り離せない すべてのこどもは呪われてしまう
魔女は純真を引き受ける それは喜びであり悲しみ
どんどん夜が長くなり ついに極夜が訪れた
「わたしは大人になっているの わたしはいつまでこどもなの」
表情に初めて不安があらわれた
希望や期待で押し込められていたものだ
薄闇のなか 草木の輪郭をなぞって 魔女は歩く
草原にたたずんでいると 風が時をさらっていった
やがて本当の夜がきて 魔女は空に大きな魔法をかけてみせた
力尽き つかのま 魔女は眠りにおちる
やさしい色でよみがえる 魔女が魔女になる前の日々
夢のなか 甘い思い出
ビロードに映る恋模様は いったいだれのものだろう
少女は顔を赤らめて 深い呼吸をくりかえした
艶やかな恋の物語に 自分を重ねて唇をとがらす
それが嫉妬だと気付くのは 何日かあとのベッドのなかで