なぜレガシーで《悲嘆》は禁止されるべきか
先日、下記の記事を読ませていただいた。
レガシーにおける青黒というデッキ(2024年6月24日禁止制限告知) |しょ〜た(N)-Yamaro (note.com)
大変興味深い記事で、特に「禁止のスタンスがどうあるべきか」など首肯するべき点が多くあった。しかしながら、「《悲嘆》は禁止になるほどではない」という点には賛同できなかった。同時に、上記記事では《悲嘆》の性能について過小評価しているとの思いがぬぐえなかった。
本記事は、現レガシー環境における《悲嘆》の性能の評価を行う。
1.1ターン目《悲嘆》+《再活性》の問題
《悲嘆》禁止論の根幹となるのは、おそらくこの問題だろう。1ターン目に《悲嘆》をピッチコストで唱え、さらに《再活性》で釣り上げることで《悲嘆》を戦場に残しつつ2枚ハンデスするプレイだ。だがこのプレイの問題については、複数の要因があるため整理して論じる。
1-1.「単なる2対2交換」ではない
上記の記事ではこのプレイについて「お互い失うカード枚数は同じ」であるため問題ないとしているが、これには同意できない。
このプレイは「『《悲嘆》プレイ側の最も不要な黒のカード+《再活性》(+ライフ4点)』と『被プレイ側の最も強力なカード2枚』」の交換である。プレイ側は相手の手札を見て、相手の戦略を知りつつ自分の手札との噛み合いを考慮して、最も適切な2枚を捨てさせつつクロックを展開できる。被プレイ側からすると、対戦相手の動きに対応できず自分の戦略も実現できないズタズタの手札で、しかも目の前には対処しなければならないクロックがある状況だ。つまり、「2対2交換」といいながら、手札の質とテンポで圧倒的に有利になっているのだ。
1-2.テンポとクロックの問題
「1マナでDelver展開して相手のアクションをDazeFoWStifleで潰して殴るのと根本に違いはない」「場に残る生物も打点は3だけで、その1体でゲームが終わることはほとんどあり得ないと言って良い」との評価にも同意できない。
《悲嘆》は《秘密を掘り下げる者》と異なり確定している3点クロックだ。さらに問題なのは、ハンデスにより除去されづらくなっている点だ。被プレイ側は、毎ターン3点のクロックがあり手札がズタズタの状況から、除去ないし勝ち筋を探しに行くことを強いられる。これが実らなかった(あるいは妨害された)場合、《悲嘆》のみでゲームが終わることは十分あり得る。言い換えれば、このプレイは「1ターン目に《思考囲い》を2枚撃ちつつ《秘密を掘り下げる者》を変身させている」のだ。被プレイ側はDazeFoWStifleはプレイングでケアできても、ピーピングハンデスはケアしようがない。
また、クロックが3点で済まない場合があることを忘れてはならない。わかりやすいのは、対【スニークショー】やミラー戦で、被プレイ側手札に《偉大なる統一者、アトラクサ》等の大型フィニッシャーがあった時だ。その場合《再活性》はハンデスカードから巨大なアドバンテージ+フィニッシャーを齎すカードへと変貌する。これはデルバーデッキには到底できない芸当である。
1-3.対策が困難である
上記記事では触れられていないが、個人的に重要視しているのはこの点である。1ターン目《悲嘆》+《再活性》には、回答となる対策が極端に少ないのだ。
これまでのリアニメイトであれば《墓掘りの檻》《外科的摘出》が対策としてだいたい間に合った。しかし1ターン目《悲嘆》+《再活性》には、これらが間に合っていないか有効でない。《意志の力》はジレンマがあり、《悲嘆》を打ち消した後に《再活性》を撃たれると手札を3枚失って《悲嘆》が残ることになる。《悲嘆》を通せば《意志の力》は捨てさせられてしまうだろう。
私の知る限り、完全な回答は《神聖の力線》だけだ。しかしこのカードは初手にあると最高だが後引きするとプレイが難しいという欠点がある。また、たいていの場合《神聖の力線》を入れられるサイド戦では、【青黒リアニメイト】はリアニメイト戦略からビートダウン戦略へとシフトチェンジしている。有効なサイドカードであるとはいえ、ビートダウン相手に初手1枚を損した状態で始めるのはリスクになる。
もちろん被プレイ側が先攻であれば《夏の帳》や《渦まく知識》などの回答も増えてくる。しかしそれらのいずれも初手にあってプレイ可能でなければならないという点に変わりはない。このプレイの圧倒的な速度は、被プレイ側に完成度の高い「初手」を要求するのだ。
2.それ以外の問題
2-1.裏目が少なく、腐りにくい
《思考囲い》等のピーピングハンデスカードの弱点は、中盤以降の裏目が多くなる点にある。お互いにリソースを消耗した中盤以降、相手の手札がない状況や盤面のクリーチャーが欲しい状況ではこういったカードは役に立ちにくい。しかし4/3/2威迫のクリーチャーである《悲嘆》はその弱点を克服している。相手に手札がなくても、クロックやブロッカーとして扱える。そして相手の手札がなければ、たいていの場合この《悲嘆》は除去もブロックもされない。
2-2.除去や盤面構築を要求しつつ、それを妨害する
結局のところ《悲嘆》の強さは、このデザインの自己完結性であらわされる。ライフが20点のゲームにおいて、3点クロックは遅すぎない速度である。さらに威迫がついていることで、《悲嘆》は被プレイ側に「3点クロックを上回るクロック」「2体以上のブロッカー」「クリーチャー除去」のいずれかを要求する。しかし、《悲嘆》はピーピングハンデスによりこれらの回答を妨害する自己完結性を持っている。これこそが《悲嘆》の強さであり、問題点なのだ。
3.まとめ
「ゲーム上の選択肢が多く、プレイ技術が勝敗にしっかり影響するゲームが面白いと言える」。この意見に、私は賛同する。いや、私に限らず多くのプレイヤーが賛同するだろう。みんな、相手を打ち負かすために知恵を振り絞り、全力を尽くした、ヒリつく勝負がしたいのだと私は信じている。
ゆえにこそ《悲嘆》は禁止されるべきであると主張する。プレイする側にとっては、《悲嘆》自体は多くの選択肢を提供するカードであることは否定しない。しかし被プレイ側にとっては、多くの選択肢を奪われてしまうカードなのだ。上記の通り、1ターン目《悲嘆》+《再活性》は、プレイ側に多大なテンポアドバンテージを齎す一方で、被プレイ側は選択肢を奪われ、ライブラリートップから適切な回答を引き当てられるよう祈ることを1ターン目から余儀なくされる。そしてこのプレイが発生するかどうかは、プレイ技術があまり関与しない「初手」にかかっている。つまり、《悲嘆》は1ターン目からゲーム体験を「賽子に運命を託すような運任せのゲーム」に近づけてしまっているのだ。
カードゲームが本質的に「賽子に運命を託すような運任せのゲーム」であることは認めざるを得ない。しかしそこに技術介入の余地があるからこそ、カードゲームは楽しい。この衝突の、適切なバランスの回答は永遠に出ないかもしれないが、私は《悲嘆》がこのバランスを「運任せ」側に崩してしまっていると考えている。《悲嘆》禁止がこのバランスを適正とするかどうかまでは自信はないが、少なくともゲーム体験を良くすることには間違いなく寄与すると信じている。それまでは、7枚の初手に《神聖の力線》が来ることを祈り続けることになるだろう。
PS.(2024/7/8追記)本記事に対する指摘に対する反論
公開から1週間が経ち、多くの方々から拙稿に対する反応をいただいた。読んでいただき感謝する。
反応の中で、いくつか本記事に対する指摘があったため、それらについて私の考えを述べる。
指摘①.初手に《悲嘆》+《再活性》が揃う確率は約13.2%、《虚空の杯》X=1でプレイできる確率は約30%である。
反論①.この二つは脅威の度合いが異なる
指摘の通り、1ターン目《悲嘆》+《再活性》よりは、1ターン目《虚空の杯》X=1のほうが成立する可能性は高いだろう。だが私は、前者のほうが脅威度は遥かに高いと考える。
前者については本稿で述べた通りだ。このプレイは、被プレイ側の手札から最適な2枚を奪い、最低3点のクロックを用意し、対策が困難である。また、裏目が少なく、これに対する回答をこれ自体が妨害している。
一方後者の場合、当たり外れが大きい。確かにレガシーでは多くのデッキが1マナのカードを採用しているし、【デルバー】系のようにそれらが大半を占めるデッキには、《悲嘆》+《再活性》以上に有効なこともあるだろう。しかし《虚空の杯》はクロックではないし、対策も容易だ。《虚空の杯》に《意志の力》を切ることの裏目はほとんどない。また、カードパワーが上昇した昨今では《虹色の終焉》《厚かましい借り手》(《些細な盗み》)など、メインボードから除去できるカードも増えてきている。サイドボード後は言わずもがなだ。また、相手も《虚空の杯》採用するようなデッキだった場合このカードは置物と化すし、そうでなくても後引きした時には非常に弱い。
以上より、これが強力なプレイでないとは言わないが、《悲嘆》+《再活性》とは比べるべくもない、というのが私の考えである。
指摘②.1枚目のハンデスで《目くらまし》や除去など、弱いカードを抜かなければならないときがある。
反論②.抜くと決めたのなら、それが「最適な2枚のハンデス」である。
ハンデスで何を抜くべきか決定するときに、互いの戦略や手札との噛み合いを考慮するのは当然である。そしてその考慮の結果、《目くらまし》や除去が最適だと判断したなら、それが単体でどれほど弱いカードだったとしても、「最適な2枚のハンデス」なのだ。仮にそれで裏目を引いたとしても、それは運が悪かっただけであり、その時点ではベストなプレイだったというだけだ。
つまるところ、この指摘は反論になっていない。
指摘③.《悲嘆》を釣ったら火力で除去された。トロールだったら除去されなかったのに…
反論③.運が悪かったか、プレミの可能性が高い。
その火力は相手が必死に手繰り寄せた除去だろう。そしてその除去が引けなければ《悲嘆》は1ターン目から延々クロックを刻み続けていたはずだ。《悲嘆》が除去されたところで3対3交換なのだから(ライフは失っているが)アドバンテージを損してはいないし、情報アドバンテージや後続のリアニメイト呪文が腐らないこと、相手が除去のためにドローソースを吐き出したことを考えれば依然こちらのほうが有利と言えるだろう。
そもそも相手のデッキが赤く、最初のハンデスでドローソースや除去を抜けなかったのなら、無理に《悲嘆》を《再活性》せずに《カザド=ドゥームのトロール》や《偉大なる統一者、アトラクサ》を釣れるようになるまで温存することだってできたはずだ。このような柔軟性を持つこともこのプレイの強みであることは忘れてはならない。
指摘④.軽いドローソースを増すことでデッキを冗長化し、除去を探しに行けるようにすればよい
反論④.オーク&蛙「おっ、そうだな」
指摘自体は正しいのだが、それが許されない要因がある。《オークの弓使い》と《超能力蛙》だ(本稿でこの2枚に触れなかったのは、記事の主題から逸れるためである)。
《オークの弓使い》はドローソースの天敵で、撃てば撃つほどゲームレンジを短縮させる能力を持っている。MH3で登場した《超能力蛙》はロングゲームに最適なドローソースで、手札を補充しつつ墓地を整え、最終的には自分自身がフィニッシャーになれる優良クリーチャーだ。【青黒リアニメイト】はこの2枚が反撃を封じる構成となっており、被プレイ側は有利にしていくためにゲームレンジを伸ばせないのだ。結局のところ、これらの後続ごと纏めて対処するためには《終末》のようなカードが都合よくライブラリートップから降ってくることを祈るしかなくなるわけである。
指摘⑤.(プレイヤーの)ハンデス耐性低くない?
反論⑤.本稿を読め。
これについてはもう「この記事を読め」としか言いようがない。私は「ハンデスが嫌い」などとは言っていない。ハンデスはMTGを構成する要素の一つであり、これがあるから楽しめる部分も大いにある。
繰り返しになるが、私が《悲嘆》を禁止すべきだと主張しているのは、このカード(と《再活性》)が 「1ターン目に2枚ピーピングハンデス」「1ターン目に3点以上のクロックを作る」「対策が困難」「腐りにくく、裏目がない」「単体での自己完結度合いが高い」という特長を、同時に持っている点が根拠になっている。
これらのうち2つ以下であれば、実現するものはたくさんある。例えば《暗黒の儀式》《納墓》《再活性》で《狂気の種夫》を出すプレイは、1ターン目に2枚どころか全ハンデスして盤面には6点クロックが出るのだから、《悲嘆》+《再活性》より強いと言えるかもしれない。しかしこの動きは《孤独》《意志の力》などで裏目なく対処が可能であり、これに引っかかって手札を消費しただけになるリスクをプレイ側も負うことになる。また、《狂気の種夫》は手札にきてしまった場合の対処が難しいし、うっかり【ドレッジ】相手にこのプレイをしてしまったときなどは目も当てられない。強力なプレイのために、相応のリスクを背負っている、ミドルリスクハイリターンと言えるだろう。
しかし《悲嘆》はそうではない。上記の特長を持つこのカードは、ノーリスクミドルリターンだと言え、その結果、被プレイ側はライブラリートップから適切な回答を、後続の脅威にも間に合うように引き当てなければならない。それはゲームの勝敗が運任せになっていると思わせるのに、十分な状況だろう。
再びのまとめ
この記事を書いている間に、アメリカでレガシー競技トーナメント「Legacy $5K」が、2024年6月24日に《悲嘆》が禁止されなかったために開催を中止するというニュースが入ってきた。主催の公式声明では下記のように理由を説明している。
また、6月24日告知の内容について、WotC内部では《悲嘆》を禁止するべきとの意見が出ていたが、MH3の発売を理由に見送ったことも明らかになっている。
結局のところ、多くの人が《悲嘆》には問題点があり、これが楽しくないカードであるということに気づいている。本稿はそれを言語化し、整理することを目的としていた。
楽しくないという感想は、確かに感情だ。だがそれを引き起こしている要因は、必ず何処かにある。ゲームを楽しいものとして成立させるために、禁止カードのリストは存在している。《悲嘆》をプレイして楽しい人がいることもわかるが、少なくとも現在のレガシーの基準では、このカードは《レンと六番》や《敏捷なこそ泥、ラガバン》の仲間入りとなる可能性が高く、それが妥当な評価であるとは私は信じている。
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