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第5回⑤ 重見 大介先生 専門医取得後に臨床から公衆衛生の道へ進んだわけ

「医師100人カイギ」について

【毎月第2土曜日 20時~開催中!】(一部第3土曜日に開催)
「様々な場所で活動する、医師の『想い』を伝える」をテーマに、医師100人のトーク・ディスカッションを通じ、「これからの医師キャリア」を考える継続イベント。
本連載では登壇者の「想い」「活動」を、医学生などがインタビューし、伝えていきます。是非イベントの参加もお待ちしております!
申込みはこちら:https://100ninkaigi.com/area/doctor

発起人:やまと診療所武蔵小杉 木村一貴
記事編集責任者:産業医/産婦人科医/医療ライター 平野翔大

  「産婦人科×公衆衛生」をテーマに活動しておられる重見大介先生。「女性の健康を公衆衛生の視点で見て、社会的課題を解決したい」という想いを軸に活動し、同時に医療の情報発信や事業も手掛けている。重見先生は、なぜその分野に進んだのか。さまざまな活動の軸と、経歴からたどっていく。

 重見先生はこれまでの活動を、(1)まず産婦人科を選んだ第1ステップ、(2)産婦人科から公衆衛生の大学院に入った第2ステップ、(3)大学院終了後に開始した「Kids Public」でのオンライン相談や、臨床研究を学び合う場としてのオンラインサロンを第3のステップ、と分けて話してくださった。

重見 大介先生
産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。Women's health臨床研究アカデミア代表。株式会社Kids Public 産婦人科オンライン代表。
2010年日本医科大学卒業。「女性の健康×公衆衛生」を活動の主軸とする。産婦人科領域の臨床疫学研究、ベンチャー企業での事業運営の他に、さまざまな啓発活動や、臨床研究・論文を学ぶオンラインサロン運営に携わっている。Yahoo!ニュース個人オーサー。
ツイッター:@Dashige1
ニュースレター:https://daisukeshigemi.theletter.jp/

実は苦手だった産婦人科

 病院実習に行くまでは、産婦人科は苦手な分野であり、「テストで受かればいいくらいに思っていた」と語る重見先生。苦手意識が興味に変わったきっかけは、病棟実習だったという。

 最初に内科を回った時には、平均年齢70~80歳の人に多くの薬を投与する状況などを見て違和感を覚える部分があった。また外科も、手術以降になかなか長期的なアプローチができなそうなど、いろいろなジレンマが拭えなかった。

 そんな中でローテートした産婦人科。比較的若い患者が多く、妊娠・出産など未来につながりやすい点に、これまでの科にはない魅力があり、惹かれたという。また母校である日本医科大学の産婦人科医も、忙しそうではあるものの笑顔が多く、雰囲気も良かったことも決め手になった。

 「意外と面白そう」「将来感じるジレンマも少なそう」という理由から、研修医の時点で産婦人科プログラムを選択していく。

産婦人科から公衆衛生大学院へ

 今では「産婦人科×公衆衛生」を軸に、エビデンスに基づいた情報発信を重要視している重見先生。興味から産婦人科を選び、専門医取得後、臨床から公衆衛生の道へ進むこととなる。

 「私がエビデンスを大事にしているのは、エビデンスがあれば誤った道に進みにくいと思ったからです。本当に女性や患者のために必要なことを追求した形がエビデンスでした。臨床をする中でその思いが強くなり、エビデンスを適切に理解し、自身でもそれを生み出すスキルを身につけたいと考え、公衆衛生学の大学院に入りました。」と重見先生は語る。

 産婦人科の現場は、お産から婦人科疾患、不妊治療までと幅広いが、妊婦への臨床試験は難しいことなどから、エビデンスが確立されている領域と、そうでない領域が存在する。EBM(Evidence-Based Medicine)が主流になることは良いことだが、限界もある。エビデンスの重要性も理解したうえで、「何が本当に患者にとって有益なのかを判断できるようになりたい」、それが公衆衛生大学院で学ぶきっかけとなった。

スマホ相談システム
「産婦人科オンライン」

 公衆衛生大学院に入学した当初は、修士号を取る1年のみのコース(MPHコース)を選択。卒業後は、臨床に戻るか、博士課程へ行くために追加で4年残るかは、学ぶ過程で決めようと思っていたという。

 公衆衛生大学院に在学中、社会的な課題をどう解決していけるのかを考える中で、「産婦人科医が病院にいるだけでは解決できない課題がたくさんある」ということに気付いたのが大きな転機になった。

 「そもそも病院には重症化した人しか来ません。いくら病院で頑張っても、困っている人たちに情報が伝わりきっていないと感じました。だから、病院に来ない人たちともつながり、カバーするための仕組みを作りたいと思ったのです。」

 そう語る重見先生は、「スマホからすぐに専門家へ相談できるシステムがない。ほとんどの人がスマホを持っている時代、スマホからオンライン相談するような仕組み作りがさまざまな社会課題の解決につながるのでは」と考え、実際に社会実装する準備を始めていく。

 その中で、株式会社Kids Public代表であり、「全く同じ思考回路の人」である小児科医の橋本直也先生に出会う。既に小児科向けのサービスを開始しており、「産婦人科と小児科だったら絶対一緒にやった方がいい」と意気投合し、先に橋本先生が作っていた会社に入る形で、「産婦人科オンライン」の事業をスタートさせた。

 また同時に、大学院の博士課程への進学も決めた重見先生。博士課程と事業の2つを両立するプロセスになり、経営の知識も事業運営を実践しながら身につけていく形となった。

 重見先生は、自分で会社を作らず、既にあった会社に入った理由を、次のように語る。

 「ジョインすると決めたのは、1からサービスを作るのが大変だったためと、社会実装をいかに早くするかが目的だったためです。自分で会社を作りたいというこだわりはありませんでした。」

 「女性や妊婦に有益なことをする」、それが目的である。重見先生らしい考え方が垣間見えた。

臨床研究できない医師のための
オンラインサロンをスタート

 現在ではオンライン相談のみならず、HPVワクチンの啓発活動である「みんパピ!」、さらには若手産婦人科医などが臨床研究を学び合う場としてのオンラインサロン「Women's health臨床研究アカデミア」、さらにはYahoo!ニュース個人オーサーといった、幅広い活動を展開している。その全ての軸が、「女性の健康を公衆衛生の視点で見て、社会的課題を解決したい」だという。手段は多彩だが、その思いや課題感は同じところにある。

 特にオンラインサロンは他にあまり例のない取り組みだ。始めた理由を、重見先生は次のように語る。

 「もともと大学院を卒業したら始めようと思っていました。医局では基本的に大学院へ進むと基礎研究をするが、若いうちから臨床研究をする文化はあまりなく、体系的に学ぶ機会がなかなかないと感じていました。大学にいるのに臨床研究ができない・学べないことに不満を持つ人、また、地方の市中病院などでは教えてくれる人がいない、という人がいます。そんなとき、私みたいな臨床医をベースとして、統計学や疫学も学んだ人間なら、臨床医への橋渡しがうまくできると思いました。」

 オンラインサロンでは、難易度の高い最先端のことばかりではなく、基本的なところだけど実は正確に分かりにくいような部分を教えるようにしているという。重見先生は、最初に公衆衛生大学院へと進学した際に、「女性や患者のため、本当に必要なことを追求した形がエビデンス」と考えた。自らが学び、社会実装した次には、同じような仲間・後輩を増やす活動にも踏み出している。

「ワクワクすることには手を動かそう」

 臨床、研究、社会実装、そして教育と、エビデンスを中心に正しい情報を伝えたり、女性の課題に向き合ったりと、一見堅実な活動をする重見先生。だが、後輩に伝えたいメッセージとして出してくださった言葉は、意外にも次のようなものだった。

 「自分がワクワクすることに、ひたすら手を動かしましょう。未来は誰にもわからない。今を楽しみましょう。」

 「まず手を動かすことが大事」というのは、「口だけ出して手を動かさない人が多いから」。これは重見先生自身が自分に言い聞かせていることだともいう。

 「人生いつ死ぬかわからないのだから、その時になって後悔したくない。」

 そんな思いで、ワクワクすることに、全力パフォーマンスで臨んでいる重見先生。その中で、医師として、「女性や患者のために」動き続ける。そんな思いを聞くことができたと感じている。

取材・文:自治医科大学医学部6年 宮井 秀彬

本記事は、「m3.comの新コンテンツ、医療従事者の経験・スキルをシェアするメンバーズメディア」にて連載の記事を転載しております。 医療職の方は、こちらからも是非ご覧ください。


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