第1回⑤ 斉藤究先生
整形外科でスペシャリストとして活躍される斉藤先生。実はDJとしての顔もお持ちですが、「医師25年経った、私の履歴書」と題して、リズム良くこれまでの医師人生や想いについて語ってくださいました。
整形外科でスペシャリストとして活躍される斉藤先生。実はDJとしての顔もお持ちですが、「医師25年経った、私の履歴書」と題して、リズム良くこれまでの医師人生や想いについて語ってくださいました。
家に手塚治虫全集があった斉藤先生は、ブラック・ジャックの解剖図をワクワク見るような少年でした。中学生で医師を志し、浜松医科大学に合格。医学部入学後はDJ、更に"Muscle Rose"というパフォーマンスマッチョ集団として、プロとして芸を行います。しかし4年生で留年を経験。その時に世界一周した時に、「ぶっこわれた」と言います。
世界一周で「レールの上を歩かなくてもいいんだ」という事に気付いたと語る斉藤先生。そのままトロント大学で学生実習を行った結果、日本での学生実習に刺激を感じられなくなり、当時では珍しいスーパーローテートを採用していた国立国際医療研究センター病院に就職し、研修医生活をスタートさせました。
初期研修制度が義務化される前の時代、この様な病院に集うのは「尖った仲間」たちで多くの刺激があったといいます。その中で、「21世紀プライマリ・ケア序説(伴信太郎著)」に出会い、「色々な疾患を幅広く診れる、ブラック・ジャックのような医師になりたい」と思い、災害医療専門の病院に救命救急医として勤めます。
その後名古屋に移り、外傷を専門とする整形外科医になった斉藤先生。愛知県でも数名しかできないという骨盤骨折の手術を行い、更に救急外傷や人工関節の手術、リウマチ診療なども手掛け、高度医療の一翼を担います。
また名古屋では研修医教育も担い、その中で自らが学んだものを与えたいと、「教えて!救急 整形外科疾患のミカタ」という本を執筆しました。
骨盤外科という難分野でまさに「スペシャリスト」として活躍しつつも、心にはずっと開業の夢があったといいます。他の整形外科の医師が「外来つまらないよね」という中で、外来を面白いと感じられたこともこれを後押ししました。
2011年5月に「さいとう整形外科リウマチ科」を開業。しかし直前の2011年3月には東日本大震災が発生。開業準備を進め、クリニックのスタッフも既に雇っていましたが、DMAT(災害派遣医療チーム)の隊長として被災地に赴きました。
開業では高難度の手術はできない中、メスを置いた斉藤先生。「勤務医に負けないようにするには?」という中で、「手術をしないで治す」手段として「理学療法・リハビリテーション」に注目します。
整形外科の世界で「名古屋のゴッドハンド」と呼ばれた斉藤先生でしたが、自分よりゴッドハンドは山のようにいるといいます。しかし、「レントゲンで異常がないから痛み止めで対処」という治療には疑問がありました。
「変形した関節を手術する」のは病院の仕事です。しかし変形がない、もしくは手術できない場合、痛みの原因の多くが軟部組織(筋肉)や神経に存在します。これに注目した斉藤先生。それまで医師があまり目を向けてこず、リハビリなど色々な手技で直してきたものを、注射などで治す方法を考案・実践し、慢性疼痛や難治性の疼痛の分野で第一人者として道を切り拓いています。
「レントゲンに映らない筋肉などに目を向けると、治せるものがたくさんある。治せると、また楽しくなってくる。」そうやって異分野とのfusionを繰り返し、今の形ができてきたといいます。
実際に当時まだ珍しかった「筋膜マニピュレーションコース」を習得したり、超音波でのリウマチの早期診断を実践、そして肩こりや腰痛などを薬ではなく水を入れるだけで治す「ハイドロリリース」を考案するなど様々な手技や治療法を習得し、また創り出しています。
また同時に、本を書いたり、動画コンテンツを発信するなど、自らの武器である「超音波による診断・治療」で様々な勉強の機会を作ったり、全国のネットワークを形成したりもしています。
最後に、様々な治療法を見出す元となっている「守破離」の概念について語ってくださいました。
まずは「知らなくてはいけないことを詰め込む」のが重要で、その科や分野でスタンダードである事をしっかりと習得する。しかし教科書に載っていないことは多数あり、それに出会うとき、「自分が本当に知りたいことを探求する」と非常に面白い。きちんと「守」を身に着けた上で、それを「破」る症例に出会った時に、「離」れて色々創り出していく。これが重要であると最後に締められました。
斉藤先生は「医療とDJの本質は同じ」といいます。客の反応を引き出しながら、音を紡ぐDJと、患者の反応を引き出しながら治療をする医療は本質が近く、今でも時折バーでDJを務めることもあるといいます。まさに患者の「痛み」に向き合いながら、様々な治療を紡ぐ斉藤先生。「総合診療整形外科医」としてのご活躍を、リズム良くまとめてくださいました。
取材・文:平野翔大(産業医/産婦人科医/医療ライター)
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