【病態から降圧薬を考える】早朝高血圧治療を徹底解剖【Non-dipper型とモーニングサージ】
(2023/1/5加筆修正)
血圧は日内変動するものです.
そのなかで,早朝高血圧ってよく見かけませんか?
「日中は血圧正常だけど,朝だけ下がらないんだよなー」
そして,この早朝高血圧は,意外に治療が難しく,「まぁ,朝だけだしとりあえず様子を見るか...」と,医師がサジを投げやすい病態です.
そんな早朝高血圧の病態のわかりやすい解説と,具体的な治療対応の方法を,今回は説明していきます.
早朝高血圧➀:Non-dipper型夜間高血圧
特に,ヒトは寝ると血圧が低下するものです.
24時間血圧測定計(ABPM)ができたことで,夜間の血圧低下を認めないNon-dipper型夜間高血圧という存在が確認されるようになりました.
Dipper型(正常)
夜間血圧が日中活動時の血圧に比べ 10~20%低下
Non-dipper型
夜間の血圧低下がない(低下幅が10%未満)
特に,夜間血圧が上昇してしまうケースは riser型と呼ばれる
Non-dipper型の夜間高血圧は,心臓,脳,腎臓などの臓器障害が進行しやすく,心血管イベント・心血管死亡のリスクが高いことが示されています.(Hypertension. 1996 Jan;27(1):130-5.)
Non-dipper型のメカニズム
Non-dipper型高血圧となる機序は以下が言われています.
・循環血液量の増加(CKD,心不全,高食塩感受性,食塩摂取過剰など)
・自律神経障害(糖尿病)
・睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など)
特に,食塩感受性高血圧との関連は,実際の治療に大きく関わるので重要であると考えます.
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/41823525/picture_pc_77858536f1eab2f120feb66fbdb1a213.png)
(≫食塩感受性高血圧については,こちらの記事でまとめています.)
早朝高血圧➁:モーニングサージ型高血圧
モーニングサージ型高血圧は早朝に血圧が急激に上昇する高血圧です.(起床後ある程度血圧が上昇するのは正常ですが,”急激な”上昇です.)
Non-dipper型高血圧と違って,夜間は通常通り下がっているというわけですね.
たとえ24時間平均血圧がコントロールされていても,このモーニングサージは独立して心血管イベントのリスク因子となるとされています(Hypertension. 2010 Nov;56(5):765-73. ).
原因としては
睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群),加齢,耐糖能異常,飲酒,喫煙,精神的・肉体的ストレス
が言われています.
左室肥大や狭心症症例にみられやすいという報告もあります.
そのメカニズムとしては
・早朝の内皮機能の低下
・大血管Stiffnessの増大や圧受容器感受性の低下
・交感神経やRAA系の亢進
などが考えられています.
早朝高血圧の対策【実用性を考えて】
Non-dipper型夜間高血圧やモーニングサージなどが,病態となる早朝高血圧.
この対策を考えていきましょう.
➀長時間作用型降圧薬を使用することが大原則
平たく言えば,早朝高血圧は血圧変動の問題なので,長時間作用型の降圧薬を使用するのが原則です.
早朝高血圧治療の有用性でしばしば報告があるのは長時間作用型のCCBであるアムロジンです.
そもそも,長時間作用型降圧薬を選択することは,(早朝高血圧に限らず)高血圧治療の大原則なので,知らなかった人は必ず覚えておいてください.
具体的には
・サイアザイドやACE阻害薬/ARBはほぼ問題ありません.
・Ca拮抗薬やβ遮断薬は作用時間が短いものがあるので,注意してください.
あきらかに作用時間が短いのは,ACE阻害薬のカプトプリルくらいですかね...
小規模ですが,ACE阻害薬のテモカプリル(エースコール®)より長時間作用型CCBであるアムロジンが24時間血圧のコントロールにおいて優れていた報告とかはあります(J Hum Hypertens. 2001 Sep;15(9):643-8. ).食塩感受性の影響なのかもしれませんけどね.
➁内服タイミングの工夫
薬の内服は,基本的に朝食後が多くなっていると思います.
しかし,早朝に薬剤を効かせたい場合は,朝食後に飲んでも,当然薬効が間に合いません.
夕も降圧薬を内服させる,もしくは,降圧薬を朝内服から夕内服に切り替える
なども検討していきましょう.
➂睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群)を治療する
睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群)は,Non-dipper型・モーニングサージ型,いずれの早朝高血圧もこれが原因の一つとなります.
早朝高血圧で,治療に難渋する場合は,ポリソムノグラフィで睡眠時無呼吸症候群の評価を検討しましょう.(治療方法は割愛)
➃減量(ダイエット)
肥満は,前述した睡眠時無呼吸症候群のリスクです.
また,メタボリックシンドロームないし,それに起因した耐糖能異常(糖尿病)は,Non-dipper型・モーニングサージ型,いずれの早朝高血圧の原因となります.
早朝高血圧に困っているときは,ダイエットしてもらうだけで,多角的に対策をとれていることになるので,オススメの指導です.
➄就寝前にβ遮断薬やα遮断薬,ACE阻害薬/ARBを内服させる
交感神経系やRAA系は早朝に活性化します.
このことはモーニングサージ型の早朝高血圧の病態につながるので,β遮断薬やα遮断薬,ACE阻害薬/ARBの就寝前内服はモーニングサージ対策になります(J Hypertens. 2008; 26: 1257–1265. /J Hypertens. 2010; 28: 1574–1583.など).
このモーニングサージ対策は「24時間血圧計の使用(ABPM)基準に関するガイドライン」でも実際に言及されています.
また,この手法が有効でない場合,Non-dipper型の早朝高血圧の可能性を考えられるので,診断的治療としてもいいかもしれません.(ここは私見)
➅塩分制限をする・サイアザイド系利尿薬を使用する
上述しましたが,Non-dipper型の高血圧の原因に,食塩高感受性が考えられています.
よって,食塩感受性高血圧の対応が,Non-dipper型高血圧の対策となります.
実際に,塩分制限だけで,Non-dipper型がDipper型に変わった報告もあります.(Circulation. 1997 Sep 16;96(6):1859-62. )
ただし,(Non-dipper型ではなく)モーニングサージ型の高血圧にサイアザイド系利尿薬を使用すると,夜間の過降圧となる可能性の報告もあるため(Hypertension. 2008 Apr;51(4):827-8. ),注意が必要です.
➆ARNiを使ってみる
ARNiであるエンレスト®は,国内第三相臨床試験において,24時間平均血圧を対照薬のオルメサルタンに比して有意に低下させました.
オルメサルタンは決して降圧効果の弱いARBではないため,ARNiは24時間平均血圧ないしNon-dipper型高血圧のコントロールに関してARBより有用である可能性があります.
これにはNon-dipper型高血圧の機序である体液貯留の改善などが影響しているんですかね?
まとめ
今回は,早朝高血圧の病態と,それを踏まえた上での対策を解説しました.
個人的に強調したいポイントは2つ
・血圧だけに目を向けず,睡眠時無呼吸症候群や肥満の対策をとる
・サイアザイド系利尿薬を毛嫌いせずに使用してみる
おそらく,早朝高血圧の治療がうまくいかないのは,この2つのどちらかだと思うので.
長時間作用型降圧薬を選択したり,夕内服にしたりするのは,誰でも思い浮かぶでしょう.
特に,サイアザイドは,知識が浅いと食わず嫌いになりやすいので,私の記事などをみて,有効に利用できるようにしておきましょう.
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
おまけ:Non-dipper型とモーニングサージの見分け方
結論,ABPMしかありません.
なので,疑った場合,ABPMをやるのが丁寧です.
しかし,上述したように,「就寝前にβ遮断薬やα遮断薬,ACE阻害薬/ARBを内服させる」が無効だった場合に,Non-dipper型を考えて対応するのは,私の我流です.
「ABPMをやらないただのめんどくさがりだろ...」
と思った方.
同感です.