【医師看護師向け】気管切開のメリット・デメリット【気管挿管との違い】

気管切開といえば,気道トラブルで行うイメージが強いでしょうか.

一方で,長期間の人工呼吸器管理が必要な症例では,気管切開がなされることをご存知ですか?

例えば,時折テレビでも放映されている,ALSの患者さんのドキュメントなどを見ると,ほぼ全例気管切開がされているでしょう.

人工呼吸器の導入といえば,気管挿管ですが,気管挿管管理と気管切開管理の違いとは何でしょうか?

なぜ,気管切開に切り替えるのでしょうか?

循環器内科で,集中治療好きな私が解説します.

 

■気管切開のメリット

①口腔ケア向上

 口腔ケアは誤嚥性肺炎のリスクを低減させます.

気管挿管状態の口腔ケアは,ブラッシングや洗浄がやりにくいため,気管切開をすることで口腔ケアは向上すると考えられます.

転じて,気管切開は誤嚥性肺炎のリスクの低減させることが期待されます.

②分泌物/貯留物の排除 

分泌物/貯留物の排除も誤嚥性肺炎予防になりますが,こちらも口腔ケアと同様,気管切開時の方が容易とされます.

挿管チューブからの分泌物吸引はやりづらいものです.

③口腔/咽頭の苦痛軽減

チューブによる物理的な苦痛や,接触刺激の緩和になります.

このことによって,鎮静薬/鎮痛薬減量が可能です.

鎮静薬/鎮痛薬の減量をすることによって,副作用の減少せん妄・人工呼吸器関連肺炎・廃用・褥瘡の低減深部静脈血栓症の低減,など様々な効果が得られます.

また,コミュニケーションが向上しますので,神経所見の観察やインフォームドコンセントの点でもメリットがあります.

➃経口摂取可能

経口摂取が可能となることで,栄養面や精神面でのメリットがあります.

 

気管切開をすることで,気管挿管管理より多くのメリットが得られる

 

■長期気管挿管によるチューブトラブルを避ける

上述した内容と重複する点もありますが,長期間チューブを留置していると,潰瘍形成,チューブ汚染による感染リスク,チューブ自体の耐久性低下,などの問題点が生じます.

このため,長期間人工呼吸器管理が必要な症例(と見込まれた場合)は,ある一定のタイミングで気管切開に切り替えになります.

私がいた施設では,気管挿管管理が2週間を越えるか否かが,気管切開するかしないかのCut offでした.

適切な気管切開への移行時期に関して,コンセンサスは得られていません(”これが正解!”というのがない)

長期気管挿管のチューブトラブルを避けるため,気管挿管管理が2週間を越える場合は,気管切開を検討する


 

■気管切開のデメリット

逆に,気管切開をすることによるデメリットは何か.

それは,単純ですが,侵襲的な処置が必要になること.すなわち,手技に伴う合併症です.

具体的には,気管周囲の血管や神経の損傷,もしくは気管の狭窄などが起こる可能性があります.

  

■気管切開以外に選択肢はないのか

気管切開のような侵襲的な処置以外に,上述したようなチューブの感染や耐久性の問題が解決できないかの試みがあります.

ただし,結論から言うと,どちらも微妙なエビデンスです.

①チューブ交換

「耐久性や汚染が問題なら,チューブを交換すればいい」という,確かに簡単に思いつきそうな方法でありますが,チューブ交換が肺合併症の発生頻度を低下させたというエビデンスはありません

日本呼吸療法医学会発表 [ARDS に対する Clinical Practice Guideline]
『気管チューブ交換を定期的に行う必要性はなく,気管チューブの狭窄・閉塞の場合にのみ交換の適応

ガイドラインの記載はこのようになっているので,明確に耐久性の問題が生じた時以外は,能動的にチューブ交換を検討するメリットはなさそうです.


②経鼻挿管

一般的には,経口挿管困難例(開口障害など)で行う手技ですが,かつては,口腔ケアや鎮静低減のために,長期挿管患者を経口から経鼻へと変更することが行われていました.

しかし,鼻孔・鼻翼の壊死副鼻腔炎などの合併症や,チューブ閉塞や屈曲が起こりやすく,現在は推奨されていません.

 

現状,長期気管挿管管理の問題を解消する方法としては,気管切開以外のものは検討する意義すら乏しい

 

■気管切開を検討する適切な時期:早期気管切開は有効か? 

先ほども言った通り,長期気管挿管が必要な場合,気管切開を検討する,というのが慣習となっています.

その期間は,一般的には”2週間程度”とされていますが,この“2週間”という期間の根拠はあまりありません

ちなみに,管切開の世界的クリニカルレビューでも,気管切開のタイミングは挿管から平均11日後でした.
(Eur J Cardiothorac Surg.2007.doi:10.1016/j.ejcts.2007.05.018)


一方で,「重症患者は,長期の気管挿管が結局必要になる場合が多く,早めに気切をした方が良い」と言う意見もあります.

 

早期(例えば,”挿管後1週間以内”)に気管切開を行うことの有用性を評価した報告はたくさんありますが,”早期”の定義がバラバラだったり,結果自体も様々です.

報告として多いのは,ICU滞在期間の短縮

これは期待できそうです.

その他,よく検討されているのは,人工呼吸器関連肺炎(VAP)の低減,短期死亡率・長期死亡率の低下などですが,これは報告によりマチマチであり,コンセンサスなしということにしておきましょう.

 

■気管挿管し継続し続けることは,本当にダメなの?気管切開しなきゃダメ?

ここまで,気管切開のメリットと,長期気管挿管のリスクを中心に話してきました.

しかし,実は,挿管継続より早期に気管切開した方が、喉頭・気管の合併症を防いだり,死亡率を低下させた,という強いエビデンスはありません

それでも,気管切開が行われる理由は,栄養(経口摂取)の問題,コミュニケーションの問題,チューブ管理ないし感染低減の目的などがあります.

生命予後を改善させないこの処置にエビデンスがないことは,医療経済的にどうなのか(言い方は悪いですが”金の無駄では?”ということ),という少し残酷な考え方もあります.

 

■まとめ

気管切開が気管挿管より優れている点は確かに存在します

一方で,その効果が生命予後まで改善する根拠はありません

では,不要なのか.

医療経済的に,気管切開の必要性を疑問視する声もあります・

しかし,気管切開のメリットの中には,人が”人間らしくあるため”に大切な,コミュニケーションや経口摂取も含まれます

これらの価値は,必ずしも定量評価できるものでなく,”エビデンスがないから”と,気管切開を行わないのは,個人的には”違う”かな,と思ってます.(いろいろな意見があると思うので,戦うつもりはありません.あくまで個人的意見.)

いずれにせよ,今回話したメリットやデメリット,エビデンスを十分に理解した上で,個々の症例に合わせて慎重に気管切開の適応は考えていった方がいいですね.




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