糖尿病治療は,集学的・包括的な治療介入が重要
糖尿病の治療といえば,血糖コントロール,って思いますよね.
でも実は,それだけじゃダメなんです.
血糖だけ下げていても,糖尿病合併症の抑制,および生命予後の改善は望めないことがわかってきています.
今回は,糖尿病症例に対して,集学的・包括的に治療介入することの有用性を示した代表的なstudyを紹介します.
Steno-2研究
Steno-2研究は,アルブミン尿陽性の2型DM患者に対するRCTで,デンマークで2000年に開始されました.
平均7.8年間の介入期間で,厳格治療群と通常治療群(対照群)とに分け比較しました.
それぞれの治療目標値は以下の通り
目標値(カッコ内は対照群)
HbA1c 6.5%(7.5%), 血圧 140/85mmHg(160/95mmHg), 空腹時総コレステロール 190mg/dL(250mg/dL),空腹時トリグリセリド 150mg/dL(195mg/dL)
また,厳格治療群のみで,
▲ビタミンC・Eなどを含む総合ビタミン薬と,ACE阻害薬を原則全例で投与
▲虚血性心疾患既往だけでなく,末梢血管障害既往者にアスピリンを投与
としました.
結果
心血管疾患発症HR0.47(95%CI: 0.24-0.73),腎症HR0.39(95%CI: 0.17-0.87),網膜症HR0.42(95%CI: 0.21-0.86)
このように,有意に合併症の発症を抑制しました.
結論
・複合的な危険因子に対し,厳格な治療介入をすれば,大血管障害・細小血管障害をほぼ半減できる
注意点
➀心血管イベントで有意に減ったのは「再灌流療法の実施」のみ.
➁末梢神経障害は減らなかった.
➂実臨床での再現が可能か?:アドヒアランスの問題はどうするか.
➃対象が160例と小規模だった.
感想
糖尿病において,(血糖だけでなく)血圧,脂質,肥満管理などの集学的・包括的な治療介入の重要性を示した世界初の研究として知られています.
末梢神経障害が減らなかったり,心筋梗塞が減らなかったのは残念ですが,合併症の抑制効果は“半減”ということで,圧倒的です.
なので,有効性は認めるとして,あとはアドヒアランスの問題.
そこは,データでなく,個々の臨床医の腕の見せ所でしょうかね?
J-DOIT3
Steno-2研究の結果をみて,日本人の2型糖尿病管理における,血糖,血圧,脂質の包括的管理の有効性を検討したのがJ-DOIT3です.
2型DM患者に対するRCTで,3338人を対象とし,平均8.5年間の介入期間でした.
Steno-2でlimitationであった,被験者数の少なさ(160人)もJ-DOIT3では改善されています.
※具体的な治療介入方法はすごく細かいので,「J-DOIT3」で検索して調べてみてください.
結果
主要評価項目(総死亡,冠動脈イベント,脳血管イベント)
強化療法群でHR0.76(但し,登録時危険因子で補正後.95%CI: 0.59-0.99)
内訳としては,心血管リスクが19%減,脳血管イベントは58%減入。
副次評価項目
腎イベント32%減,眼イベント14%減
イベント自体が予想以上に少なかったので,登録時の危険因子で補正しなければ有意差がでなかった,と考察されています.
要は,「対照群である従来治療群も,意外に血糖値・血圧・脂質のコントロールが良くなってしまった」という,悲しむべきか喜ぶべきか,悩ましい現象でした.
考察ポイント
●インスリン抵抗性改善薬がベースで薬剤調整
●低血糖が少なかった
さすがに,強化療法群の方が,低血糖の件数は多かったようですが,入院を要するような重篤な低血糖は年0.1%以下とごく低率でした.
感想
後付けで補正してしまったので,信頼性は落ちてしまいましたが,これも優秀な結果です.
考察では,強化療法群でインスリン抵抗性改善薬の使用がベースとなったことに言及されていました.
確かに,従来治療群とはかなりの差があります.
これがどこまで結果に寄与したかはわかりませんけどね.
また,強化療法群も含め重症低血糖が少なかったことが,「(これまでの血糖治療のアキレス腱である)総死亡や大血管イベントを抑制できた」という結果につながったのではないか,と考察しています.
ACCORD試験・VADT試験・ADVANCE試験の3試験で起きたパラダイムシフトから,糖尿病治療における低血糖,はとにかく悪者です.絶対悪です.
☟糖尿病のパラダイムシフトについてはここで話しています.
まとめ
いかがでしたでしょうか.
「糖尿病治療のポイントは,”糖尿病だけを治療していてはダメ”ってことだ!」
というコペルニクス的転回のような,一休さんのような話.
ただ,個人的な見解を言いますが
当り前じゃないですかね?←
研究の関係者の方で気分を害された場合は申し訳ないのですが,当然研究結果の否定は全然しませんし,データを出してくれたことで根拠がもてて素晴らしいんです.
ただ,私たちは病気を治療しているわけでなく,患者さんを治療しているわけなので,そりゃあ,糖尿病だけ治療していればいいわけないですよね?という素朴な思いです.
血圧だって,脂質異常症だって,それぞれが明らかな動脈硬化リスクなんですから.
まぁ,しかし,熱心な先生ほど,集中しすぎて,血糖ばかりに意識がいってしまうこともあるでしょう.
そんなときは落ち着いて,今回の内容を思い出してください.
治療するべきは,糖尿病じゃなくて患者さんですよ(ドヤ
という内容でした.(※ふざけてますけど本当のこと)
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