【PCIの歴史➂】薬剤溶出性ステントDESは,何がすごいの?【本当の革命はここ】
以前の記事で,PCIでステントを入れる理由,ないし,ステントが使用されるに至った歴史を解説しました.
この時に登場したステントは,ベアメタルステント(BMS)と呼ばれる,金属むき出しのステントでした.
しかし,現在,冠動脈ステントといったら,BMSではなく薬剤溶出性ステント(DES)のことを言います.
今回の話は,このDESの話.
■BMSのアキレス腱:SATと再狭窄
冠動脈ステントの先駆けとして1990年頃から広く使われるようになったBMSですが,大きな弱点が2つありました.
1.亜急性ステント血栓症SAT(subacute stent thrombosis).
SATは,死亡率の高い危険な合併症であり,BMS使用当初は,発生率が10%前後でした.
10人に1人に,致命的合併症が起こることは,許容できるレベルではありませんでした.
この弱点は,DAPT管理とIVUSガイド下PCIの浸透により,発生率が1%前後まで下がり,ひとまずの弱点克服となっています.(詳細はこちらの【PCIの歴史➁】の記事を参照)
2.ステント内再狭窄
もう一つの弱点が,再狭窄率でした.
そもそも,PCIの先駆けであったバルーン拡張術(POBA)時代の再狭窄の機序には以下のようなものがあります.
BMSの登場で,上に示した機序の内,elastic recoilとnegative remodelingを減少させることができました.
しかし,BMSの6カ月以内再狭窄率は20-30%前後に見られ,原因としてNeointimal hyperplasia(新生内膜の過形成)が考えられました.
POBAのみの再狭窄率は40%前後であったことを考えれば,少しは減った方ですが,まだまだ改善の余地が残る状態でした.
■DESの登場:再狭窄率の改善へ
このNeointimal hyperplasiaへの対策として,1999年にサンパウロの医師であるSousaらは,初の薬剤溶出型ステント(Drug Eluting Stent;DES)であるシロリムス溶出性ステント(sirolimus-eluting stent: SES)を臨床応用しました.
sirolimusは,細胞周期をG1相後半で停止させることで,血管傷害に反応した血管平滑筋細胞の増殖・遊走を抑制する.
結果,なんとステント内再狭窄(ISR)の発生率は6%まで低下しました.
当時のBMSのISRが20-30%の割合でみられていたことを考えると,目覚ましい効果です.
BMSの功績であるSAT予防効果に関しても問題なく,BMSと同程度の1%以下にSATの発生を抑えることもできました.
これにて,PCIのアキレス腱であった,急性冠閉塞,ステント血栓症,再狭窄率の全てをクリアした,治療方法の完成形としてDESが定着していくものと,誰もが疑いませんでした.
■一難去ってまた一難:VLST
PCIの完成形としてDESに多大な期待が集まっていた2004年頃に,予想していなかった事態が起こりました.
DES植込みからほぼ1年が経過したにもかかわらず,抗血小板薬中止直後や抗血小板薬単剤服用中にステント血栓症を起こしたという報告が複数出てきたんです.
そもそも,ステント血栓症は,むき出しになった金属と血液の反応(血小板が付着しやすい)で血栓が形成されるのですが,BMSでは遅くとも2~3カ月で新生内膜と内皮がステント表面を完全に被覆し,血栓形成を惹起しにくくなるとされていました.(DAPTの推奨期間は1ヵ月)
一方,DESは薬剤が塗布されており,新生内膜の増生を抑えるので,その影響でステントの被覆が遅れます.
これは,DESが再狭窄率を著しく低下できた理由であり,言うなればDESの本質なのですが,結果的に,ステント血栓症のリスクにさらされる期間が延長されてしまいました.
■遅発性ステント血栓症Late stent thrombosis(LST)
ベアメタルステントでは,ほとんど起こらなかった留置後31日以降のステント血栓症
■超遅発性ステント血栓症Very late stent thrombosis(VLST)
留置後1年以上で起こったステント血栓症
このLSTとVLSTを懸念して,2007年に欧米のガイドラインが改訂され,DES留置後のDAPT期間は,最低でも12カ月、禁忌がなければさらに長期の使用も検討,となりました.
BMSでは,推奨1ヶ月だったDAPT期間が
DESでは,最低12カ月で,禁忌がなければ最悪永続
はさすがに,いくら再狭窄が少なくても色が悪い...
ということで,DESの改良が始まったわけです.
■DES改良へ:第二世代DES登場でPCIはひとまず完成
登場初期のDESを第一世代DESと呼びます.
この第一世代DESの大きな問題点が,前項で述べたLST,VLSTですが,特に問題だったのはVLST(留置後1年以降のステント血栓症)です.
百歩譲って,LST(1ヶ月~1年以内)を意識して12カ月DAPTは許せたとしても,VLSTが減らないことには,安易にDAPTをやめることすらできないからです.
これは,出血リスクなどを考えると,たまったもんじゃないでしょう.
第一世代DESのVLSTの主因と考えられたことは2つ
➀内皮化の遅れ(delayed healing)によりステントが長期間むき出し
➁ポリマーが残存:過敏性反応 ⇒主に好酸球性の炎症遷延
ここを意識して作られた第二世代DESは,ポリマーの生体適合性を高めたり,薬剤量を適正化することで,この問題を解決しました.
言いかえれば
➀´薬剤量を抑えて少しは内皮化される
➁´ポリマーの生体適合性を高めて,過敏性反応が起きない
これに成功したのが第二世代DESです.
実際に,第一世代DESと異なり,第二世代DESは一定期間経過後はステント血栓症は経時的に増加しないとされます.
VLSTに打ち勝った瞬間です.
☝Tada T, et al. JACC Cardiovasc Interv. 2013; 6: 1267
これは2013年の報告ですが,7年が経過した今でも,第二世代DESであるXienceシリーズ®は頻繁に使用されています.
初めてPCIの完成形ができたのは,この第二世代DESの登場といっていいでしょう.
(この後,第三世代DESというものも開発されましたが,今回は割愛)
■まとめ
かくして,PCIの歴史は進んできました.
初めは,急性冠閉塞との闘い.勝因はベアメタルステントの登場でした.(☞【PCIの歴史➀】)
次に問題となったのは,SAT(亜急性ステント血栓症)を代表とするステント血栓症です.勝因はDAPT(二剤抗血小板療法)の登場.(☞【PCIの歴史➁】)
最後に残った問題は,高い再狭窄率.勝因はDES(薬剤溶出性ステント)の登場.(本記事)
DESの登場時は,VLSTという新たな問題も発生しましたが,第二世代以降のDESでは,その点も改善されています.
現代の医療に関与している皆さんは,この歴史を知っておく必要はないように思うかもしれませんが,そんなことはありません.
例えば,ステントを用いないステントレス治療の考え方や,DAPT期間短縮の取り組みは,これらの歴史を振り返りながら,日々進歩している領域だからです.
DAPT期間に関して,これまでの歴史の暫定的集大成である,現行ガイドラインの解説はこちら☟
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