【原発性冠動脈解離】Spontaneous coronary artery dissection:SCAD
「動脈硬化リスクの少ない比較的若年の女性が,突然心筋梗塞になった」
こんなときに一瞬思い浮かべるのが,SCAD.
原発性冠動脈解離SCADは,急性心筋梗塞を含む急性冠症候群の原因となる危険な病態ですが,未解明解明な点が多く,全ての見解に関してコンセンサスがないのが現状です.
今回は,そんなSCADの話.
厳密には
アテローム硬化性・非アテローム硬化性を含んだ広義のSCAD
と
非アテローム硬化性である狭義の SCAD
に分類されるが,今回は,主に広義のSCADの話.
原発性冠動脈解離SCADの疫学
‣40-50歳(比較的若い)
‣女性にやや多い(狭義のSCADは明らかに女性が多い)
‣冠危険因子は半数にあり(比較的少ない)
冠危険因子を有する症例は男性に多く,女性のSCADは冠危険因子がなくても起こりやすい.
おそらく,アテローム硬化性と非アテローム硬化性の分類にも関与する疫学データ.
‣25%が妊娠産褥期に発生
妊娠関連特発性冠動脈解離,とも言われます.
そのうち75%は産褥期,25%妊娠中.
生理との関連も示唆されています.
おそろしい病気です.
‣胸痛90%
一般的な急性冠症候群に比し,胸痛を認める率が高いです.
‣男性はRCA.女性はLADに多い
‣女性は線維筋性異形成の合併多い
遺伝性があり,喫煙との関連も示唆されています.
原発性冠動脈解離SCADの治療
まず,特別なガイドラインはなく,特異的治療もありません.
よって,ここで述べることは,あくまで私見や,一般論です.
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SCADにPCIがなされることは少なくないようですが,冠解離が起きやすい状態となっており,不成功となる確率が高いとされます.
よって,TIMI1以上のflowなら経過観察が推奨されることもあります.
「触らぬ神に祟りなし」
自然修復を待つ形です.
その際は,1週間ほど経過観察しましょう.
理由は,急性期の再解離が30%に見られるためです.
おそろしい.
心臓リハビリテーション中を含め,慎重に様子を見ましょう.
発症に関して,冠攣縮Spasmとの関連も報告されていますが,確定しているわけではないので,(Spasm予防の)Ca拮抗薬に明確な推奨はありません.
できることが少ないので,使用してもいいように思いますが...
原発性冠動脈解離SCADの血行再建方法
できれば血行再建したくない病態ですが,特にTIMI0の際は,よほど末梢病変でなければ血行再建を試みることになるでしょう.
SCADの病態生理は,血管中膜の特発性の血腫とされるので,血行再建の基本はre-entryの作成です.
以下は,その方法の具体案です.(コンセンサスなし)
①proximal edgeにcutting balloon
最も一般的に取られる方法ではないでしょうか?
血管just sizeくらいの大きめballoonで低圧(4atm程度)をかけます
②distal edgeにcutting balloon
血管が小径になることでperforation riskがあがります.
③そこら中にcutting balloon
個人的には必要はないようにも思いましたが,著名なinterventionist(名前は伏せます)がこの方法論を言っておりました.
いずれの方法をとる場合にも検討すべき手法は,コントラストエコーです.
要は,解離腔に造影剤が入ることを確認できればre-entryが作成できたことになります.
但し,パワフルに造影剤を打ち込みすぎると,解離腔が広がるので,造影剤量は最小限に抑えましょう.
その後,10-15分経過観察し,Flowが改善しないかを確認します.
ステントで血行再建をする場合もありますが,私個人としては,良い転帰になった場合をあまり見たことがありません.
なぜなら,ステントを留置するなどの余計なストレスで,冠解離が拡大することが多いんです.
一方で,TIMI1以上のflowがあれば,慢性期には自然修復されていることはしばしばみらます.
よって,血行再建のまとめは
➀できるだけ触らない.TIMI1以上あれば触らない.
➁TIMI0の時など,どうしても血行再建するなら,Cutting balloonでre-entryを作成を目指す.
➂やんごとなき理由でステントを置かなければならない場合,冠解離が拡大する可能性も念頭におく.