【意識障害を見抜く力】てんかん発作や痙攣の考え方【一過性意識障害は失神だけではない】
前回の記事で,失神と意識障害の病態の考え方を解説しました.
重要な点は,意識障害は脳の障害であり,失神は脳血流の障害であること.
失神は,脳血流のトラブルを病態に,一過性の意識障害を来します.
しかし,一過性の意識障害の鑑別は失神だけではありません.
特に重要なのが,”てんかん発作epilepsy seizure”です.
一過性の意識障害の原因検索として,失神とてんかん発作の鑑別は非常に重要です.
今回は,失神とてんかん発作を鑑別するための考え方を解説していきます.
■てんかん発作:一過性の意識障害ではあるが,脳の障害を有する
てんかん発作は,脳の異常な電気活動なので,脳の障害です.
そして,てんかん発作は,”脳血流のトラブル”ではないのに,一過性の意識障害の形式をとります.
当然ですが,てんかん発作と失神では,原因病態が異なってきます.
「一過性の意識障害 ⇒ 失神」というように決めつけれはダメなわけですね.
■Postictal state:てんかん発作を疑う糸口
失神とてんかん発作を鑑別が重要な理由に、Postictal stateの存在があります.
Postictal stateは,てんかん発作後に遷延する意識障害(もうろう状態)です.
てんかん発作は,脳の電気的異常興奮状態ですが,Postictal stateは,その後,一時的に脳がマヒするような現象です.(注意:必発ではありません.)
持続時間としては,数分~数時間とされています.
これを「失神+意識障害」と間違えないようにしましょう.
てんかん発作時に痙攣がみられれば,この2者の鑑別は簡単になりますが,非痙攣性のてんかん発作(Non-convulsive seizure)というものもあるんです.
「痙攣していないからてんかんではない」とは言えない!
Non-convulsive seizureは,臨床でも見逃されがちです.
見つけるポイントは
➀痙攣しないてんかん発作(Non-convulsive seizure)の存在を知っていること
➁意識消失後に遷延する意識障害を認めたら,Postictal stateを疑って,てんかん発作の可能性を考えること
です.
このポイントをイラストでまとめるとこんな感じ.
ただ,実は,このイラストでいうところの「痙攣」の扱いがホントは難しいんです.
■痙攣とは?【初学者を混乱させているのはコイツ】
「痙攣」とは症候の1つです.
「失神」「意識障害」「てんかん発作」などと同じ次元の言葉ですね.
痙攣とてんかん発作は,意味の異なる症候です.
➀痙攣≠てんかん発作
確かに,痙攣を伴うてんかん発作は少なくないですが,非痙攣性のてんかん発作Non-convulsive seizureが存在しますからね.
てんかんepilepsy とは慢性疾患であり,失神を起こす現象は”てんかん発作epilepsy seizure”と表現するのが正しいです.
➁痙攣を合併する意識障害とは
また,痙攣を随伴するのはてんかん発作だけではありません.
失神に続発するSyncopal seizure(Convulsive syncope)や,(意識障害の原因疾患となる)脳卒中や脳炎,低血糖で起こるAcute symptomatic seizure急性症候性発作などがあります.
【Syncopal seizure(Convulsive syncope)】
失神後に,立位や座位を保ってしまい脳血流の回復が滞ると,脳虚血が進行します.
この現象は,一過性脳虚血発作TIAなどと異なり,広範な脳虚血となるので,(マヒや感覚障害でなく)痙攣という形で症状が出現します.
この現象を,Syncopal seizure(Convulsive syncope)と呼びます.
【Acute symptomatic seizure急性症候性発作】
急性症候性発作とは,急性の全身性疾患(代謝性疾患,中毒性疾患,炎症性疾患,感染症など)や急性中枢神経疾患(脳卒中,頭部外傷など)によって引き起こされる急性の中枢神経障害に関連して起こる痙攣です.
てんかん発作でも,失神後の痙攣でもない,第3の痙攣です.
つまり,(広義の)意識障害と痙攣の関係を図式化すると以下のようになります.
痙攣とは,てんかん発作,失神,(一過性でない)意識障害,のすべてに合併しうる「症候」であるといえます.
➂痙攣の病態:(てんかん発作でなくとも)Postictal stateが起きる
痙攣の病態は,てんかん発作のような脳の異常な電気活動です.
「は?てんかん発作と同じ病態?さっき,『痙攣≠てんかん発作』って言ったばっかりなのに,なに言ってのコイツ?」
ってなりますよね.
でも,やっぱり「痙攣≠てんかん発作」です.
理由➀
痙攣には,Syncopal seizure(Convulsive syncope)や急性症候性発作のような,二次的な脳の異常な電気活動を含む.
理由➁
てんかん発作のなかでも,”痙攣を起こさないような範囲や部分の脳が過活動な状態”は,Non-convulsive seizureとなる.つまり,痙攣はしない.
だから,痙攣とてんかん発作は,一部は全く同じ病態を指したとしても,完全に一致する概念にはならないんです.
しかし,ここで言いたいことは,そうではなくて.
痙攣も,Postitcal stateを来たすことがあります.
脳の異常な電気活動ですからね.
つまり,意識障害の経過から,病態を鑑別するには,以下のような図式で考えるのがいいです.
実用例➀:一過性の意識障害,遷延する意識障害なし,痙攣なし
失神が1番考えられますよね.
鑑別は,Non-convulsive seizureでPostictal stateを伴わない場合です.
➤痙攣を伴わない一過性の意識障害
失神だけでなく,Non-convulsive seizureの可能性も考える.
実用例➁:一過性の意識障害,遷延する意識障害あり,痙攣なし
Non-convulsive seizureにPostictal stateを合併したパターン,もしくは,意識障害ベースに失神を来たした,などが考えられますね.
➤意識消失後に遷延する意識障害
てんかん発作+ Postictal state や 失神+意識障害 を考える.
実用例➂:痙攣
シンプルに痙攣だけを考えるときはこんな感じ.
まずはもちろん,てんかん発作によるConvulsive seizureを考えますが,病歴によっては,Syncopal seizureも鑑別に上がります.(「失神後に座位で休ませた」とか)
Acute symptomatic seizure急性症候性発作に関しては,たぶん,気づかないことは少ないです.
なぜなら,痙攣を起こすほどの全身疾患や急性中枢神経疾患を見逃すことは少ないからです.
むしろ,大事なことは,「Acute symptomatic seizure急性症候性発作という,全身疾患や急性中枢神経疾患に続発する痙攣が存在する」ということを知っているかどうか,です.
➤痙攣
てんかん発作だけでなく,Syncopal seizure(Convulsive syncope)やAcute symptomatic seizure急性症候性発作の可能性も考える.
■まとめ
➤痙攣を伴わない一過性の意識障害
失神だけでなく,Non-convulsive seizureの可能性も考える.
➤意識消失後に遷延する意識障害
てんかん発作+ Postictal state や 失神+意識障害 を考える.
➤痙攣
てんかん発作だけでなく,Syncopal seizure(Convulsive syncope)やAcute symptomatic seizure急性症候性発作の可能性も考える.
今回の話は以上です.
本日もお疲れ様でした.
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