【何が凄いの?】プラスグレル(エフィエント®)の特徴【クロピドグレルとの違い】
冠動脈カテーテル治療の歴史の中で,ステント血栓症の存在は非常に大きな存在です.
≫DAPTによるステント血栓症予防の歴史解説はこちら
それと同時に,ステント血栓症予防として浸透している二剤抗血小板療法(DAPT)ですが,アスピリンのペアになるチエノピリジン誘導体は,
チクロピジン(パナルジン®)
→クロピドグレル(プラビックス®)
→プラスグレル(エフィエント®)
と変化してきました.
今回は,最新のチエノピリジン誘導体,プラスグレルについてのまとめです
プラスグレル(エフィエント®)の特徴➀:確実な血小板抑制効果
プラスグレルは,第3世代のチエノピリジン誘導体とされ,2020年現在,最新のチエノピリジン誘導体です.
その最大の特徴は,クロピドグレルに比し,反応性の個体差が少なく,血小板抑制効果が高い(確実),ということです.
クロピドグレルはCYP2C19に代謝されて作用します.
日本人はCYP2C19遺伝子多型が多く,クロピドグレルの作用減弱の頻度が多いとされる人種です.
その要因として,プラスグレルは,CYP2C19遺伝子多型の影響をほとんど受けないとされています.
実際,クロピドグレル抵抗性の症例の6割は,プラスグレルなら反応性があります.(プラスグレル抵抗性例は,基本的にクロピドグレルにも抵抗性)
抵抗性の頻度の報告としては,クロピドグレルが16-50%であるのに対し,プラスグレルは0-11.5%となっています.
プラスグレル(エフィエント®)の特徴➁:薬効の立ち上がりが早い
クロピドグレル時代に行われたCREDO試験などの結果をみても,PCI施行時は”抗血小板作用は早く発現させた方がいい”ということが言われています.
CREDO試験
2116例の狭心症症例対象のRCT(99施設,2ヵ国(米国,カナダ))
クロピドグレル+アスピリンのDAPTを,PCI前~後1年間投与することによる虚血性イベント抑制効果を証明した.また,PCI施行6時間以上前までのクロピドグレル負荷投与は心イベントのリスクを低下させることも示した.
この結果は裏を返せば
「6時間以内だと,クロピドグレルは負荷投与(loading)しようが,抗血小板作用は間に合っていない」
ということです.
これは特に,待機的PCIより,負荷投与する頻度の多い急性冠症候群(ACS)で大きな問題です.
ただでさえ,ACSは血栓症リスクが高いわけですし.
プラスグレルは,クロピドグレルより代謝活性化反応が速く,作用発現が迅速であることが明らかです.
現行の2020JCSガイドラインでも,チエノピリジンの負荷投与の推奨は,禁忌がない限りはプラスグレルになっています.(詳細はこちらの記事)
ACSに対するチエノピリジン:プラスグレルvsクロピドグレルのStudy
GRAPE Registry(J Thromb Haemost 2016; 14: 1146-54.)によれば,急性冠症候群に対するPCI を施行した症例(8施設,ギリシャ,2039例)で,チエノピリジン誘導体としてプラスグレルとクロピドグレルを比較したところ,
プラスグレル群で,1年後MACE低下,全出血イベントが増加
という結果でした.
※MACE:心臓死,心筋梗塞,脳血管障害,再血行再建(target lesion revascularization:TLR)
出血が増えることは全くいい情報ではないのですが,
"(致命的とはなりにくい)minor bleedingは増えるけど,major bleedingには有意差がなかった”
という点が強調されています.
要は,「出血リスク以上にメリット(MACE低下)が期待される」という風潮です.
日本人のACSを対象に行われたPRASFIT-ACS試験でも,プラスグレル投与が,クロピドグレルに比し,心血管イベント発生を抑制し,大出血の発生率は同等に抑えられました.
[PRASFIT-ACS試験の考察]
CYP2C19の遺伝子多型が多いとされるクロピドグレルの負荷用量(300mg)は,体格の違う欧米人と同じ用量になっていました.
一方で,プラスグレルは遺伝子多型の影響を受けにくいので,きちんと体格に合わせて,欧米の負荷用量60mg維持量10mgに対し,本邦では負荷用量20㎎維持量3.75mgに減量設定されました.
この用量調整が絶妙だったらしく,PRASFIT-ACS 試験では,大出血の発生率も同等に抑えらた,と考えられています.
実臨床におけるプラスグレル
名立たるインターベンショニストの先生方も,実際の臨床的肌感からしばしば仰るのは
"プラスグレルになってからステント血栓症が減った"
ということです.
これまで,ある程度の確率でクロピドグレル抵抗性や負荷投与が間に合っていなかったことが関係したステント血栓が存在していたことの裏付けでしょう.
プラスグレルは致死性の出血の報告を懸念して,欧米での適応はACS患者に限定されることになっているようです.
先に述べたように,本邦におけるプラスグレルの承認用量は欧米の約3分の1と低用量にすることで,血栓症予防と出血リスクのバランスをとったデザインになっています.
そのため,本邦では待機的PCIにもプラスグレルの適応は通っています.
新しい試み:ACS急性期のみプラスグレル→慢性期はクロピドグレルへのde-escalation
プラスグレルからクロピドグレルのde-escalationは,推奨こそされていませんでしたが,2020改訂のJCSガイドラインでも言及がありました.
要は
急性期のステント血栓症予防効果はプラスグレル
慢性期の出血リスク低減はクロピドグレル
という,”おいしいとこどり”の戦略です.
「TROPICAL-ACS試験」
欧州33施設,2610例,血小板機能検査PFTガイド下
14日間でプラスグレル→クロピドグレルへ切替
1年時点MACE,major bleeding非劣性
「TOPIC試験」
フランス単施設,646例
1ヶ月後プラスグレル→クロピドグレルへ切替
1年時点虚血イベント有意差なし,大出血は切替群で減少
2つの試験の結果を受けて,少なくとも14日~1か月後にde-escalationすることに害はなさそう.
ただし,小規模であったTOPIC試験では出血を減らすことが確認されているものの,より大規模なTROPICAL-ACS試験では出血イベントは有意差なし.
今後の報告次第といったところでしょうか.
まとめ
いかがだったでしょうか.
・早くて,効果が確実な抗血小板薬,プラスグレル
・負荷投与例やACSでは積極的に選択
・出血リスクを踏まえて長期使用する場合は注意
というイメージがつけばokです.
余談:【温故知新】クロピドグレルは何が凄かったのか
DAPTによるステント血栓症予防の立役者は,第一世代チエノピリジンであるチクロピジン(パナルジン®)です.
≫DAPTによるステント血栓症予防の歴史解説はこちら
今回の記事ではプラスグレルの特徴を解説しましたが,そもそも,クロピドグレルは,なぜチクロピジンにとって代わって第二世代チエノピリジンと呼ばれていたのでしょうか.
それは,チクロピジンの副作用の問題がありました.
チクロピジンの3大副作用として,肝障害(約2%),無顆粒球症(0.3%),血栓性血小板減少性紫斑病(きわめて稀)の報告ありました.
肝障害の頻度もさることながら,無顆粒球症や血栓性血小板減少性紫斑病などは,ひとたび起これば致命的であり,とても服薬継続などできるものではありません.
この3大副作用を低減したのがクロピドグレルでした.
クロピドグレルでこれらの副作用を認めることはごくまれで,特に,無顆粒球症や血栓性血小板減少性紫斑病はほぼ起こりません.
クロピドグレルは,遺伝子多型の影響さえなければ,現在でもスタンダードな治療の選択肢となるいい薬剤です.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?