糖尿病と心筋障害3パターン【糖尿病性心筋症の概念】
糖尿病症例で心機能が低下することはしばしばあります.
パッと浮かぶのは,冠動脈疾患,すなわち虚血性心筋症だと思いますが,削他にも,糖尿病による心筋障害のパターンがあることをご存知ですか?
今回は,循環器内科医の私が,糖尿病と心筋障害の関係性を解説します.
糖尿病と関連した心筋障害の3パターン
➀虚血性心筋症
冠動脈病変に伴う慢性的な虚血から生じた心筋障害は,虚血性心筋症とよばれます.
虚血性心筋症における糖尿病合併例は多く,虚血症状の先行がなく,心不全で発症することがしばしばあります.
➁高血圧性心筋症
糖尿病症例では40-60%が高血圧も罹患しています.この高血圧の罹患率は,非糖尿病症例の約2倍の頻度です.
背景には,インスリン抵抗性や肥満(メタボリックシンドローム)が存在し,交感神経の活性亢進やRAA系の亢進が病態形成に寄与するとされています.
高血圧合併糖尿病症例が左室肥大の合併率が高く,心筋障害の形式として高血圧心筋症様になることも少なくありません.
➂糖尿病性心筋症
糖尿病症例では,冠動脈造影上で明らかな有意狭窄を認めないにもかかわらず,原因不明の心収縮能・拡張能の低下を来たすことがあります.
この病態は糖尿病性心筋症とよばれ,ACC/AHA(アメリカ心臓病学会),ESC(ヨーロッパ心臓病学会)の2013年の改定からガイドラインにも明記されるようになった疾患概念です.
糖尿病による冠微小循環障害や,糖毒性・インスリン抵抗性,脂肪毒性,RAA系などの神経体液調節因子などが成因に関与している可能性が示されています.
病理学的には,血圧非依存性の心筋細胞肥大(病的心肥大),間質線維化,微小血管希薄化が認められます.
コンセンサスは得られていませんが,AHAによれば,冠動脈疾患,高血圧が認められない糖尿病患者に認められた心筋障害,つまり,➀➁のいずれに属さない心筋障害は,臨床的に糖尿病性心筋症と判断されることになっています.
分類をまとめると
まとめると,こんな感じです.
糖代謝異常を出発点に,冠動脈疾患を発症・合併し,心機能が障害される虚血性心筋症.
同じく糖代謝異常を出発点に,高血圧を発症・合併し,心機能が障害される高血圧性心筋症.
これら冠動脈疾患や高血圧を伴わず,ベースにある代謝障害が直接的に心筋を障害した結果と推察される糖尿病性心筋症.
ということですね.
なぜ"糖尿病性心筋症"というえ方が必要か
ここまで読んでくれた方,「それで,その糖尿病性心筋症がなんなの?」って思いませんか?
私はそう思いました.
結局,臨床的には除外診断になるわけで,糖尿病性心筋症に特化した治療があるわけではありません.
では,この"糖尿病性心筋症"という疾患概念が生まれたことによるメッセージは何か.
それは
「血糖だけでもダメ,血圧だけでもダメ,脂質だけでもダメ,はたまた冠動脈の血行再建だけでもダメ.糖尿病症例はこれら全部良くしなきゃ,色んな角度から心臓が障害されるから,心臓を健康に保てないですよ.」
ということです.
もっとピックアップすると
「血糖,血圧,脂質,虚血解除,全部ちゃんと治療しなさい」
ということです.
これは「糖尿病患者だといって,糖尿病だけ治療しれればいいわけじゃない」という考え方で,とても重要な話.
☟以下の記事で解説してます.