8/18開催【ドコモベンチャーズセミナー】大注目のGovTechが日本を変える~デジタル化を軸としたそのビジネスチャンスとは~
皆さんこんにちは!ドコモ・ベンチャーズです。
今回は、2022年8月18日(木)に行ったイベント、
【ドコモベンチャーズセミナー】大注目のGovTechが日本を変える~デジタル化を軸としたそのビジネスチャンスとは~
についてレポートしていきたいと思います!
本イベントは、GovTech特集の第一弾として株式会社グラファーの代表取締役CEOである石井大地様にセミナー形式でご登壇いただきました。
GovTechに興味のある方
GovTech関連への投資や事業連携をご検討されている方
新規事業、オープンイノベーション等をご検討されている方
最新のサービストレンド、テクノロジートレンドに興味のある方
にぜひお読みいただきたい内容となっております!
<株式会社グラファ―CEO 石井 大地 様>
■経歴
東京大学医学部に進学後、文学部に転じ卒業。
2011年に第48回文藝賞(河出書房新社主催)を受賞し、小説家としてプロデビュー。
複数社の起業・経営、スタートアップ企業での事業立ち上げ等に関わったのち、株式会社リクルートホールディングス メディア&ソリューションSBUにて、事業戦略の策定及び国内外のテクノロジー企業への事業開発投資を手掛けたのち、2017年に株式会社グラファーを創業。
・グラファー社の事業紹介
グラファ―社は「Digital Government for the People」を掲げ、行政のデジタル化・スマート化を専門に市民中心のデジタル行政サービスを追求している、スタートアップ企業です。
主なクライアントは地方自治体で、行政をデジタル化するサービスを提供しています。サービスのラインナップは多岐にわたり、
スマートフォンだけでオンライン申請が可能なサービス
スマートフォンで必要な行政手続きを調べられるサービス
直感的な操作で窓口の利用予約ができるソリューション
困難を抱えた人を適切な支援に結びつける、お悩みハンドブック
などがあります。
セミナーでは、始めにGovTechについて解説していただき、次に日本の行政のデジタル化の変遷における、これまでの様子を解説していただきました。
・GovTechとは
まずは、GovTechについてです。GovTechとはGovernment Technologyの略語で、テクノロジーを活用した行政サービス刷新を志向する分野のことを指します。GovTechの目的は大きく分けると、次の2つです。
行政組織がGovTechを利用することで、市民は、手続きのオンライン化や窓口での待ち時間の短縮などのメリットを受けられます。さらに、行政職員の業務の削減や効率化に繋がるなど、行政組織にもメリットがあり、注目を集めています。
・GovTechの歴史
2017年~2018年
日本のGovTechは2017年〜2018年ごろから本格化しました。この時期から手続きのオンライン化やワンストップ化について議論されはじめました。
さらにこのタイミングで経済産業省のDXオフィスがGovTechの推進を提唱し、現在でも行政のテクノロジー化のための法整備を主導しています。
今回登壇していただいた石井様がグラファ―社を創業したのもこのタイミングです。
2019年
GovTech元年とも言われる2019年に入ると、自治体の中でもGovTechの言葉が使用されるようになりました。同年5月には「デジタル手続法」(後ほど詳しく説明します)が公布され、同年12月に施行されています。
神戸市や鎌倉市、つくば市などが先進的にデジタル化を行っており、GovTechに関するイベントが急激に増えたのもこのころです。
2020年以降
2020年以降はこれまでの取り組みの効果に加えて、新型コロナウイルスによる影響もあり、行政のデジタル化がさらに加速しました。
2021年にはデジタル改革関連法が成立し、デジタル庁が設置されるなどしました。2021年後半から2022年にかけては、デジタル田園都市国家構想に関連する会議が行われています。
・日本における行政デジタル化の進展
GovTechの歴史を簡単に見ていただいたところで、日本の行政におけるデジタル化の推進に対する意識や取り組みについて説明を進めます。
行政のデジタル化が進んでいないことは、行政サービスの長年の課題となっています。
市民側にとっての行政の課題として次のようなことがあります。
また、行政職員の業務にも課題があります。
書類に不備がないか一つ一つ確認し、それらのデータをインターネット上に手作業で入力し管理するなど、作業が煩雑で非効率なため行政職員に大きな負担がかかる
行政が扱う旧式のネットワークシステムの管理には、高額なコストがかかる
実際に、OECD諸国と比較すると日本における行政のデジタル化は遅れているといえます。2018年度の調査では、オンラインでの行政手続きの利用度合いについて、OECD諸国が平均で40.3%であったのに対し、日本は7.4%とOECD諸国内では最下位でした。
また、窓口での混雑状況も慢性的な問題だと石井様は指摘します。
このように、手続きの種類は多岐にわたり、手続きの回数もコストも考えられないくらいの多さとなっています。そのため、行政の現場でもデジタル化は必須だとの認識がされてきましたが、ここ20年ほど成果の上がらない状態が続いています。
・行政のデジタル化に向けた規制改革の動き
2019年以降、行政のデジタル化が動き始めました。ここ数年でGovTechの注目度が急に高まった背景には、この行政の動きが大きく影響しています。
本セミナーでは規制改革に向けたトレンドとして
① 制度改革
② システムの標準化
③ 新型コロナウイルスによる影響
の3つを解説していただきました。それぞれ詳しく見ていきます。
① 制度改革
法整備が進み、「手続きは原則オンラインへ」と明文化されています。これにより事実上、オンラインでできない手続きはなくなりました。
さらに、デジタル庁の設置や、自治体DX推進計画、デジタル田園都市国家構想の発表など、デジタル化に向け、多くの制度改革が施行されています。
② システムの標準化
これまでは、サーバーやソフトウェアなどの情報システムを地方自治体が管理しており、オンプレミスの環境が続いていました。しかし、サーバーなどを自社で管理すると他のサービスへの切り替えや新規サービスの導入が難しくなります。
このように、他社のハードウェアやソフトウェアへの乗り換えが困難である状態をベンダーロックインといい、この状況を解除する動きが起こりました。その結果、住民の利便性を最優先したサービスの導入が進み、GovTech市場でもベンダー間による競争が生じることで、サービスの質そのものが向上することに期待できます。さらには、ベンチャー企業のGovTech市場への参入も重要となってきます。
サービスの向上により、システムの更新や業務コンサルティングのニーズも拡大するなど、GovTech市場がさらに活性化しています。
③ 新型コロナウイルスによる影響
行政のデジタル化がここ数年で急激に進んだ背景には、新型コロナウイルスによる影響が大きく関係しています。新型コロナウイルスの感染拡大により対面での手続きが困難になり、オンラインでの手続きにシフトせざるをえない状況になりました。
また行政のデジタル化の遅れが各メディアで指摘され、これが改革の後押しとなりました。
規制改革を語る上で外せない2つの法律があります。それは、デジタル手続法(2019年)と、デジタル改革関連法(2021年)です。それぞれご説明します。
デジタル手続法(2019年)
デジタル手続法では、行政手続きについてはオンラインが原則とされ、これを国の義務、地方公共団体の努力義務としています。また、マイナンバーカードの利用者拡大のためのマイナンバー法や公的個人認証法の改正を実施しています。
デジタル改革関連法(2021年)
デジタル改革関連法とは、行政のデジタル化やデジタル社会の形成を目指してまとめられた法律です。行政組織の編成やマイナンバーカード、預金口座に関する法律など計5つの法律で構成されています。
その中に明記されている「デジタル庁設置法」により、2021年9月よりデジタル庁が始動しました。
さらに「地方公共団体情報システム」の標準化に関する法整備を実施。これによりシステムの標準化は自治体の義務となり、政府共通のクラウドサービスの利用環境であるガバメントクラウドの活用も努力義務となりました。
このような法整備の状況からみても、「行政手続きのオンライン化」と「自治体システムの標準化」が直近の有力なトレンドであると考えられます。
GovTechマーケットを見る際、注目したいポイントは次の3つです。
・ 明白なニーズ
・ 制度的な後押し
・ 供給側のケイパビリティ
明白なニーズ
ニーズを的確に捉えることができていないまま、曖昧なバズワードに乗る形でプロジェクトを推し進めても、継続性や収益性は見込めず、行政のデジタル化には繋がりません。市民や職員から見た際に、明白な価値提案があるサービスであることが大切です。
制度的な後押し
制度的な後押しもGovTechを推し進める上でカギとなる要素です。どれほど良い取り組み・サービスでも、法令や制度に抵触している場合は、国や地方自治体はそれらを行政運営に取り入れることができません。また違法である可能性だけでも、行政がそれらを先導・バックアップすることは難しくなります。
逆に、ガイドラインに明記されるなどして制度的な面が整えば、国や地方自治体からの後押しで、一気に取り組みが進むこともあります。特に自治体の取り組みについては、国から予算補助がついた場合、積極的に支援を受けることができます。
GovTechや行政のデジタル化には、テクノロジーやシステムのスキル・理解に加え、国や地方自治体が定める法令や制度についても熟知しておく必要があります。
供給側のケイパビリティ
供給側のケイパビリティとは、「サービスを開発する側のあらゆる能力」を指します。GovTech領域では、行政がクライアントであるため、プロダクトについて行政の担当者と何度も議論していく必要があります。
そのため、テクノロジーを扱うスキルや高品質なプロダクトを創り上げるスキルだけでなく、法律に対する理解や、行政機関とのコミュニケーション能力なども必要となります。このように、GovTechサービスの供給側には、複合的な能力が求められます。
また、そのような能力面だけでなく豊富な資金も必要です。GovTechサービスは少人数で立ち上げることが難しいとされています。資金力のある大企業や、十分な資金調達をしたスタートアップでないと事業を立ち上げることは困難です。
・GovTechの主要トレンド
GovTechにおいてこれらの特徴を踏まえたうえで、ここからは日本におけるGovTechの主要トレンドについて解説していきます。
現在のトレンド
今後の展開が不透明なもの
また、各トピックのポテンシャル分析についても解説していただきました。
全体的な傾向として、「行政の手続き関連サービス・業務プロセス」と「システムの標準化」の2つが特にポテンシャルの高い領域になっています。
上の表では、各トレンドのトピックと4つの分析項目がまとめられています。右端の「主な参入企業」の欄では、それぞれのトピックに参入しているスタートアップ企業が太字で表記されています。それでは、各トレンドのトピックを簡単に見ていきましょう。
手続き案内・通知
手続きについて、サイトやアプリなどで適切な窓口を案内することにより、スムーズな手続きを実現しています。またLINEなどを駆使したサービスもあります。
オンライン申請・相談
行政手続きや相談をオンラインで完結できるサービスです。ニーズが明白で多くの企業が参入している領域になります。
窓口のデジタル化
そしてオンライン申請と同じくらい注目されているのが窓口のデジタル化です。オンライン申請が進む一方で、いまだに過半数の人が窓口を利用しているのが現状です。
それらのニーズにも対応するために、待ち時間を解消するための予約システムや窓口の業務プロセスをオンラインで実施できるサービスなどが増えています。
AI/RPA/ローコード
これらは行政に限らず、他の業界での導入が進んでいる領域です。民間企業のバックオフィス業務を管理するクラウドサービスなどを横展開させることで、GovTech領域でもそうしたサービスが広がっています。
エンドツーエンド
GovTech領域のエンドツーエンドとは、市民が申請のために利用する情報システムと、行政機関が情報管理のために利用する基幹システムとを繋ぐサービスのことを言います。
一般的な情報システムは、情報を入力する側と情報を得る側をダイレクトに繋げる仕組みになっています。そのおかげで、情報の管理・移行がインターネット上で完結し業務の効率化に貢献しています。
しかし、行政機関が扱うインターネットシステムは、セキュリティの観点からそれぞれのシステムが分離しています。そのため、それぞれの情報システム間のデータの移行は手作業で行う必要があります。
GovTech領域のエンドツーエンドはこれらの情報を入力する側と情報を得る側をセキュリティを担保したうえでダイレクトに繋ぐシステムを開発・運用するサービスです。
システム標準化/ガバメントクラウド
システムの標準化とガバメントクラウドは法令上でそれぞれ義務・努力義務となっており、必ず実施しなければなりません。そのため今後確実にニーズが増えるカテゴリーです。また、一般的にシステムの標準化とガバメントクラウドはセットで考えられています。
デジタルマーケットプレイス/マッチング
国が発注する工事や事業などの契約全般、つまり公共調達に関して、その入札や選定の手続きは煩雑なものとなっています。その結果、そうした入札の競争環境は、時には公正ではなくなる場合があります。
そこでデジタルマーケットプレイスを導入し、スムーズに入札できるようにしたり、マッチング機能を使って、施策に適したベンダー企業を見つけられるようにしたりする動きが起こっています。
パブリックエンゲージメント
パブリックエンゲージメントとは、市民の声を行政サービスや政治に反映させていく仕組みです。アメリカではすでにおこなわれており、日本でもこの分野への参入は増加傾向にあります。
パブリックエンゲージメントについて市民のニーズは一定数ありますが、制度的な後押しが必ずしもないので、確実に伸びるとは考えにくい状況です。
スマートシティ、スーパーシティ
言葉・概念自体は広がっているものの、効果的な取り組みや事例が見つかっておらず、市場が確立していない状態です。
デジタル地域通貨
デジタル地域通貨は、特定の地域のみで使用できる通貨のことで、普及すると金銭が外の地域に流出することを防ぐことができます。
サービス提供側には、特定の地域での消費を増やしたいなどのニーズがあるものの、利用者側のデジタル地域通貨に対する明確なニーズははっきりとしていません。
EBPM
EBPM(Evidence-based policy making)とは証拠に基づく政策立案のことです。
EBPMでは、政策立案後にそれらに対する適切なソリューションを切り出し、さらにそれを市場のニーズと一致するようなプロダクトにする必要があります。しかし、現在その段階には到達していません。また、EBPMを実現するにはエビデンスとなるデータが必要です。
そのデータを集めるためには、行政機関の業務がデジタル化され、一つ一つをデータに落とし込む仕組みが必要です。そのため現段階では、EBPMに関連する事業は時期尚早と見られています。
電子投票
現在は公職選挙法で電子投票が禁止されています。そのため投票をする際は投票所に行く必要があります。住民ニーズはありますが、法律が障壁となっている状況です。つまり、仕組み的に不可能ではありませんが、法律的にはできない状況だといえます。
こちらも、法令改正などが進み、制度が明確になれば、電子投票そのものはトレンドとして拡大するのではないかと考えられます。
・GovTech市場の課題と魅力
GovTech領域に参入するスタートアップ企業は、実は非常に少なくなってきています。GovTech元年と呼ばれた2019年以降、プレイヤーの顔ぶれはほとんど変わらない印象だと石井様は指摘します。
そのプレイヤーの中で、スケールしているスタートアップはさらに少ないと言えます。業界全体を見ると、大手Sier(システムインテグレータ)や大手企業、上場企業が大きな割合を占めています。
このように参入障壁が高くなる原因については、次の2つが考えられます。
行政をクライアントにするということは、プロダクト開発や営業、内部組織への要求水準が必然的に高くなります。最初の営業から契約、そして実際に収益を得るまでに長い期間がかかるため、スタートアップには厳しい環境です。そのため、大手既存プレイヤーのシェアは今後も堅調に推移し、寡占化が進む可能性がある一方で、新規プレイヤーとして市場シェアを伸ばすのは、1〜2社程度だと考えられます。既存プレイヤーの淘汰もありえます。
しかし、市場の参入障壁の高さは、市場の魅力であると捉えることもできます。GovTech領域は行政をクライアントとするため、収益は安定します。
また、行政と取引しているということがその企業の信用に繋がります。その結果、創業初期段階のスタートアップであっても金融機関からの融資が受けやすくなります。
加えて、1つの行政組織で実績をあげれば他の行政組織からの引き合いも増え、営業コストや広告宣伝費などを抑えることができます。その結果、GovTech領域のスタートアップは安定収益を得ながらプロダクトの数を増やすことができます。GovTech市場の複数のカテゴリーでサービスを展開していく戦略が有効であると考えられます。
GovTech領域では、このような独特な市場環境やオリジナルな要素を理解したうえでサービスを開発することが大切です。
最後に、GovTechにおける今後の注目領域を3つ紹介します。
エンドツーエンドDX
デジタル化により行政組織の業務を効率化するには、その業務プロセス全体をデジタル技術により最適化する必要があります。
しかし行政組織においては、セキュリティを担保するために「三層分離」の決まりがあります。つまり、
自治体を維持するための内部インターネットシステム
データの管理やシステムを構築する内部基幹システム
外部インターネット・サービス
を切り離す必要があります。そのため、エンドツーエンドを推進することができていません。そこで今後は、セキュリティを担保したうえでそれらを接続するシステムを構築し、ガイドライン等の作成と合わせて見直していく必要があります。
それらのインターネットシステムを接続するために、ガバメントクラウドが注目されています。
デジタルサービス調達
これまで行政組織で導入されるサービスは、仕様発注によって開発されていました。そのため、実際に利用する市民にとって使いづらいサービスが開発されてしまう可能性がありました。
石井様は、この現状に対して、今後は成果報酬のような市民が利用した分だけ収益を得られるビジネスモデルに変えなければならないとしています。
行政サービスを市民が利用し、その恩恵を受けることができてこそサービス開発に意味があり、デジタルを活用してこのような循環を生み出していかなければなりません。
社会インパクト評価
行政組織は、あるサービスを導入したことそのものを評価する傾向にあると言います。しかし、今後はそれらのサービスが社会にどのようなインパクトを与えるのかを評価することが大切です。
事業者側が、そのサービスが市民のどのようなニーズに応えることができたのか把握する必要があります。
そのために、
学びの測定
行動のための測定
説明責任のための測定
の3つを測定していく必要があるとしています。
これらを測定することで、行政サービスの透明性と投資対効果が改善され、EBPMを推進していく上での大きな後押しとなります。
・Q&Aセッション
まとめ
今回は株式会社グラファ―の石井様からGovTechに関するお話をお聞きしました。
GovTechは行政に関わる領域であるため、他の業界とは違う特徴・魅力があり、さらに社会的なインパクトもある分野だと思います。今後もGovTechの動向に目が離せませんね!
今後もドコモ・ベンチャーズでは毎週1回以上のペースで定期的にイベントを実施し、その内容を本noteでレポートしていきます!
引き続きイベントレポートを配信していきますので、乞うご期待ください!!
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