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人生に悩んでるのでエッグヘッド編のベガパンクを考察する

第1123話にてエッグヘッド編が完結、回想をもって事件の時系列がすべて明らかになった。

ベガパンクは研究効率を上げるために6人のサテライトに人格を分けた。
それぞれ、
「正」-シャカ
「悪」-リリス
「想」-エジソン
「知」-ピタゴラス
「暴」-アトラス
「欲」-ヨーク
として個性豊かなキャラクターが登場するのですが、天才科学者は何故自身の人格をこの6つに分離したのか?そもそも6人の完全コピーでもよいのではないか?

例えば「性善説」「性悪説」に倣って「善」と「悪」の二人とか、中庸を入れて3人とか、はたまた四諦や五蘊のような仏教思想など、あらゆる哲学からリファレンスが可能なキャラクターメイクだが、ここでは単一の引用をせずに仏教・聖書・発明家・古代哲学者・ギリシャ神話と別々の思想からそれぞれ名前を頂いている。そしてヨークについては(恐らく)特別な意味を持たない名前。

しかし「欲」こそが最重要キャラとなってしまった。
初登場時から「欲」は好きな時に食べ好きな時に寝る生活をしており、「生理現象を処理するための分身」と読者は認識させられた。
それこそがミスリードで、「天竜人になりたい」欲をベガパンクが秘めていた、という事実が明らかになる。

・・・本当にベガパンクは天竜人になりたかったのだろうか?

容疑者「悪」

第1123話でマザーフレイムが盗まれた痕跡が発見され、
・本体→真っ先に「悪」を疑う
・「正」→”アリバイ”という事実のみを考える
・「知」→その1週間後犯人を特定する

このことから、サテライトを製造した張本人である本体は
・「自分の人格を正しく分離できている」という科学技術への絶対的な自負
・自身から分離した”悪”を司る人格が何をするのか正しく自己分析できていない
の二点が推察される。

「正」はあくまで「論理的に”正”しい」ことのみを論じている。

そして、同じ能力を持てる3人の中で「知」のみが犯人を特定することに成功する。なぜ同じ能力を持つはずのベガパンクの中で「知」のみが犯人に気づいたのか。

たびたび7人のベガパンクは同じだけの知能を持つことが示されている。エッグヘッドにいる限りは同じだけの研究設備がある。その条件で共同研究を行うからこそ研究効率が上がる。
ではその研究結果に差異が出るとすれば、サテライトはそれぞれ別の判断基準を持つように設計されたのではないか。

最も人間らしく”きめつけ”をしてしまった本体、論理的正しさをもって状況処理をしようとする「正」に対し、「知」は膨大な情報に対し偽造を疑う知恵や知性を持つ。

しかし犯人と分かった時点で本体は「欲」の動機に気づけていない。それは「欲」本人が供述するまでわからない。
つまり本体はやはり自身の内面の“悪“と”欲“の正体を理解できていないのだ。

「ーーー私の責任だ・・・!!!
人間から欲を引き離すべきじゃなかった・・・!!!」

本体はこう後悔する。
この発言から大きな疑問が生じる。
他6人のベガパンクは何をモチベーションにこんな研究をしているのか?

「欲」の判断基準として最初に描写されたのは食事や睡眠のみを行うという”生理的欲求の充足”。一次的欲求と呼ばれるものだ。
一次的欲求が満たされたると、それ以上の欲求が生じるとされる「マズローの欲求5段階説」という考え方があり、
①生理的欲求(一時的欲求)
②安全・安定の欲求
③愛情・所属の欲求
④承認・自尊の欲求
⑤自己実現の欲求
これらを①から順番に満たし⑤を達成すると創造性にあふれた人間になれる、という。

「欲」は他6人のベガパンクに代行して生理的欲求を満たす存在になっていたのではないか。
”海獣兵器”等による防衛力があるエッグヘッドでは安全・安定が満たされ、「世界政府にやとわれた、しがない天才科学者」という肩書こそが所属・承認・自尊が満たされていることを表している。膨大な国家予算をもって科学研究をするという自己実現をもって、ベガパンクは社会に貢献しようとしている。
と整理することはできるだろう。

もう一つの仮定がある。ベガパンクはこの”欲求という行動原理そのもの”を引き離したのではないか?
「マズローの欲求5段階説」のような欲求を土台とした行動原理を超越した、より純粋な判断基準を5つ仮定し、それに正・悪・知・想・暴と名をつけて分類した。
個人的な欲求を超越し、オハラの意思を受け継ぎ世界を救うという使命を持つ、個別の判断基準。

性欲

睡眠欲・食欲・性欲を三大欲求と呼ぶ考え方がある。「欲」は食欲・睡眠欲は満たされていたようだが、性欲はどうか。

ワンピース世界において”性”が直接的に表現されることは少ない。
サンジの鼻血のようなギャグ的演出を伴ったり、ボン・クレーやエンポリオ・イワンコフのようなオカマ(ニューカマー)キャラ、アマゾンリリー女帝の恋煩い等。恋愛をするキャラクターや描写も少なく、子供が生まれることも少ない。
とはいえ少年誌連載漫画として適切なバランス感覚であり、それこそがワンピースの読みやすさにつながっている。素晴らしい!少ないからこそハンコックの恋路、おでんやエースみたいな親子関係があちぃんだよな!おだっちすげぇやぁ~~くぅ~~

・・・と誰もが思っていたところに投下された「ジニーNTR編」

過去編だけ異常に重いと評判のワンピースの中でも、あまりの悲劇ぶりに「少年誌でやることか!」と毎週叫びました。
とりわけ、ジニーが天竜人に寝取られ生んだ子を抱いて帰還し息を引き取る、というおだっちが90年代のマンガ家であることを思い出された胸糞シーン。元CLANPだったんか?

そう、このワンピース世界において唯一”純粋に性欲のみを満たすことができる存在”が天竜人なのである。
そしてこの記憶をニキュニキュの実の能力で直接享受し記憶しているのがベガパンクなのだ。

ベガパンクは権力や承認欲求のような二次的欲求のために天竜人になりたかったのではなく、一次的欲求の欠乏を補うために天竜人になる必要があったのではないか。

エッグヘッド編最後の謎、「悪」の正体

6体のサテライトそれぞれに共通部分はあるのだろうか?
エッグヘッド編始まって以来の疑問点だったが、第1123話の回想にて犯人特定に時間がかかったこと・「欲」の動機が分からなかったことから、サテライト同士の共通部分はない(もしくは極めて少ない)と考えられる。

そして本体が「悪」を犯人と容疑したことは、人間の行動原理や判断基準がどれだけ有機的に複雑に絡み合っているかを示唆している。

では「悪」の行動原理と判断基準とは何なのか?
彼女には、正義感の裏返しとしての悪、欲にまみれた悪、そういった思想は該当しないはずなのだ。
純粋たる「悪」。
彼女が生存し麦わら海賊団と冒険を続ける意義。

そこに人生のヒントがあったらいいなと思う。

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