「GOTCHA!」に見る壁のシミ視点に置いていかれてしまった話
ボンズはいつも僕の青春を掴んでいく。
幼少の頃から感受性をボンズに掴まれているので当然泣き喚いたんですが、僕の中の息を吐くように解釈違いを訴えないと気が済まない人格の方がめっちゃ文句言ってるので、シーンを順に追って思考吐きします。
視点と主格の絶妙なバランス感
このMVは視点コントロールがうますぎる。主役級のキャラクターをいくつも点在させながら、カメラの視点を一意に固定しない構成となっている。
冒頭のBUMP OF CHIKEN風の4人組から始まるが、これが主役ではないことがすぐに明らかになる。写真のフラッシュバックで2人の男女が主役として連立され数々のジムリーダーたちを想起するのだが、その後(いつか君を見つけた時に〜)から引きのカットに移る。
問1:この引きのシーンにおいて、主格は誰ですか?
目線を移した先に歴代チャンピオン、歴代ライバルが待っている。(ゴールはきっとまだだけど〜)その間約30秒、件の男女は全く画面に登場しない。束の間間奏で映るも、また立て続けに剣盾キャララッシュ。(どんな最後が待っていようと〜)
問2:誰が歴代キャラクター達を見ていますか?男女or視聴者or視聴者が感情移入した男女?
ラストシーン(君がいる事を 君に伝えたい)、ここでは分かりやすく視点の誘導を演出している。
問3:男女をモニター越しに見ているのは誰ですか?
そして最後、視聴者はモンスターボールの中に入る。と思わせといて、劇中劇でした、というオチ。
フレーム内の主格がめくるめく変わりながら、視点の主も変わっていくところがこのMVのミソである。この仕掛けによりMV全体が散文的になり、視聴者に飽きが来ない作りになっており、また歴代の大量に存在するキャラクターを捌きやすくなっている。映像的密度を高めて描く事で時間的制約を物ともしない演出・作画に圧巻である。
そしてのこの構造はSNS映えがヤバイ。視聴者それぞれに何かしらのシーン・キャラクターがハマるし、お宝探しも楽しいし、スクショ映えがヤバイ。とにかくバズるしフォロワーに教えたくてたまらない。
しかしながら、視聴者は「主役の男女2人に感情移入する視点」と「名キャラクター達に想いを馳せる視点」の2つの視点を両立させられることになる。
2人が抱えたポケモン特有の矛盾?
そのため、ここで登場する男女は「視聴者が感情移入する器」でありながら「狂言回し」をも担う。
冒頭で感情移入するための導入として、冒険に旅立つ始まりを演出する必要があり、ここには進化する前のポケモンが必要だろう。しかしチャンピオンと戦うには最終進化系が必要になるはずで、恐らくピカチュウとイーブイしか持たない彼らではサビの戦闘シーンに出番は無い。ではあのチャンピオン達は誰にガンを飛ばしているのだ…?
この矛盾からこのMVを、彼らの“これからの”旅への想いを馳せたMV、と解釈する必要がある。
とすれば、彼らの視点は視聴者視点とはズレていく。視聴者はかつて、かの盟友達と出会い、戦い、倒し終わっているからだ。この2人は視聴者が感情移入するための器ではないし、視聴者は彼ら2人のこれからの冒険を見守る壁のシミになる。
この第三者視点に置かれるために、僕はサビを見る間妙な疎外感を感じるのだ。
疎外感のもう一つの理由
嫉妬心である。かつての歴代ジムリーダー、ライバル、チャンピオン達は僕だけを見つめ、僕と戦ってくれたのである。そこに居たのは正体不明の男女コンビではなく自分、だったはず。
サビの54秒間、僕にくれたはずのその瞳、その技が、僕を通してかの男女に向けられる苦痛、僕はもう主人公ではないし、貴方の仇敵でもない、その現実を突きつけられる54秒。
まだ主人公でありたいと願う自分と、サンムーンを途中で投げた自分、なにかと理由をつけて剣盾をダウンロードだけしてプレイしていない自分、ポケモンバンクに旅パを入れたまま契約更新しなかった自分、それを認めたくない自分、その間で渦巻く沈殿がジェラシーという波濤を為してこの身に降る。思い出をファンタジーとしてポケットにしまうことなど出来ない中途半端な大人になってしまった。
いま冒険をしている君たち
君たちにとってこの2つの疎外感は到底感じられないものだろう。君の側にはポケモンが居るはず。
いずれ、あのライバル達が、チャンピオン達が君の側に来るだろう。
そして共に冒険へ出向くあの2人が、肩を並べ、君の側に居る。
大人になった貴方達
人間的にも社会的にも大人になった貴方達は、人との距離感も掴めるようになったし、ゲームやマンガの世界との付き合い方も成熟した。
後輩たる冒険者を見守る余裕、かつての友を懐かしむ余裕がある。壁のシミたる素質だ。
僕は初速の失せた自堕落なアダルトチルドレンなのだろう。
GOTCHA!されたのは誰?
後奏に入って、2人の引きの画、バンプ風4人の引きの画がこれからの旅路を暗示する。空からミュウが降ってきた後、突然ローファイな画から謎の少年がモンスターボールを投げてこのMVは終わる。
彼こそが、かつて僕を視力0.06に落とした張本人、ゲームボーイの中の僕のアバターを現しているのではないだろうか。
そして僕が僕自身をもう一度ポケモンの世界に飛び込ませんと、僕は僕に向かって投げられたモンスターボールにGOTCHA!される。ソファーで目を覚ました僕は、Switchのスリープを解きに行くのだ。
最後に
サビで色彩下がるのはYouTubeのクソエンコですか?
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?