トリプルファイヤー「EXTRA」
トリプルファイヤーなう
歴こそ浅いが、私はトリプルファイヤーのファンである。私は未だに多くの人間が、トリプルファイヤーに対して、タモリ倶楽部とかダイナマイト関西に出てる吉田とかいう幸の薄そうな男がシュールな歌詞をシュールな演奏に乗せて歌うシュールなバンドで、差し詰め深夜ラジオのリスナーとかが聴くようなサブカルアイテムという印象を持っているように思える。
確かにそういう時期もあったかもしれない。今になって初期の曲を聴くと、作詞者の吉田自身が作曲をする曲も多かったためからか、作為的にシュールさを狙ったノーウェーブ的ノリが今より多く盛り込まれているように感じられる。
そういう印象でトリプルファイヤーのイメージが止まっている方、或いは、「なんか最近はファンキー路線になって、サポートメンバーがいて、音源で出してる曲は全然やってないんだよね!」という印象を持っている方も、ぜひトリプルファイヤーのライブに足を運んで欲しい。現在進行形のトリプルファイヤーは、非常に音楽的だ。
ポストパンクな直線的なリズムも、吉田靖直のポエトリーなボーカルスタイルも、そこにはない。もちろんこの時期が音楽的でなかったと言いたいのではない。この路線も私は愛している。この時期にバンドが持ってた「話題性」みたいなのがなくとも、今のトリプルファイヤーはバンドとして熟れに熟れまくっているということだ。
「アルバムが出るぞ!!」
今年の初め、アルバムの完成がライブのアンコールで発表された。場所はラママ。対バンは確かneco眠る。ファンはこの発表に歓喜した。なにせ2017年から7年間アルバムを出していない。私が積極的なファンになった頃にはもうアルバムを出していない時期で、もう活動していないのかとすら思った。そして次の発表で皆首を傾げた。
「アルバムは10曲入りです」
皆思った。
「どの曲が入るんだ?」
2017年からの7年で、リリースされていない曲はおそらく20曲を超えていた。それにも2種類タイプがある。
1つはタイトルがついている曲たち。新曲としてライブで披露されていたが、リリースがないためもはやライブでそんなに演奏されなくなって、有り曲みたいになってしまった曲たち。
もう1つはタイトルがついていない曲たち。セットリストには新曲①といったふうにナンバリングがされている。これらが私がファンになった時ライブで主に披露されていた。この曲たち、本当に素晴らしい。ポストパンクのバンドからダンスバンドへと変化を遂げたトリプルファイヤーの、さらにその先の景色である。
なんとなく、この二十数曲の中から、選りすぐりの10曲がアルバムに入るのだと思っていた。
タイトルがついていない曲たちにも、タイトルがついて、どういう歌詞か分かるんだ!俺の好きなあの曲は入るんだろうか!
そうワクワクしていると月日は経って7月の中頃になり、アルバムの内容発表がされ、リード曲(?)の先行配信がスタートした。
そしてびっくりした。
タイトルついてなかった曲、一曲も入ってねぇのかよ!!!!!
私は勝手に、ライブでしか披露されていない「新曲」たちが収録されているのだと思い込んでいた。タイトルもわからず、イントロのリフやサビのフレーズを口ずさむことでしかその曲について表せなかったような曲たちが、ようやく家で聴けるんだ!と思っていた。
悲しいかな、この若干の肩透かし感。先述したように、タイトルがついている新曲たちはもはや有り曲みたいな扱いだった。もちろんその曲たちは最高だ。しかしながら、誠に勝手ではあるが、もっと世間にアピールして欲しい今のトリプルファイヤーが個人的にはあった。
と、メンヘラが出てしまって申し訳ないのだが、アルバムの出来自体にはなんの不満もない。というか最高。邦楽アルバム歴代1位。「ギフテッド」は世界で一番いい曲だと思う。あと、収録されている曲たちも、かなりアレンジが凝られていて、ライブとはまた一味違う仕上がりになっていてたまらなかった。「ここではないどこかで」では、女声とのユニゾンによって少しながらの坂本慎太郎感が出ていたり、「スピリチュアルボーイ」「相席屋に行きたい」(のイントロ)「ユニバーサルカルマ」はフルートの参入によってサイケ感が増していたり、「ギフテッド」はファンキーな鍵盤がホワイトファンク感をさらに高めていた。
実際、2021年ごろにはほぼ完成していたようで、そこからより熟成させていく期間があったのだろう。ここで変にリリースのテンポを考えず(考えたのかもしれないが)、こだわって作れるところがやはりトリプルファイヤーのステキなところだ。
最後になるが、やはり皆んなトリプルファイヤーのライブに行って、タイトルのついていない曲たちを聴いて欲しい。体感して欲しい。この曲たちは月に1、2回、東京の夜の数時間しか世に放たれる機会が無いのだ。そう考えると非常に勿体なく思えるし、悶々としてくる。皆んなも悶々としてほしい。
そしていつか郡山のトリプルファイヤーや錦糸町のトリプルファイヤーが現れ、それぞれのトリプルファイヤーが独自の特色を持ち始める。