「既得権益」、「集団浅慮」と中小企業の事業承継・相続問題
どーも、中小企業診断士の「どばしんだんし」です。
9月14日にNHK Eテレで放送された『銀河英雄伝説』が24話で第1部が最終回となりました。
これまでの24話を振り返った時に専制政治と民主政治それぞれの抱える問題点が中小企業が抱える問題と重なりました。
なぜそう思ったかについて『銀河英雄伝説』の内容と共にご紹介します。
銀河英雄伝説とは
『銀河英雄伝説』をというアニメをご存知でしょうか?
累計1500万部を誇る田中芳樹原作のSF小説を長編アニメ化したもので本伝110話、外伝52話、長編3作という大作です。
私が大学生の頃に加入していたケーブルテレビのアニメ専門チャンネルで放送していたのを観たのがきっかけですっかりハマってしまいました。
そしてこの4月からNHK Eテレで新たに製作し直された『銀河英雄伝説 Die Neue These』が放送されています。(公式サイトは↓↓↓)
『銀河英雄伝説』のストーリーは以下のとおりです。
数千年後の未来、宇宙空間に進出した人類は、銀河帝国と、自由惑星同盟という“専制政治”と“民主主義”という2つの異なる政治体制を持つ二国に分かれた。この二国家の抗争は実に150年に及び、際限なく広がる銀河を舞台に、絶えることなく戦闘を繰り返されてきた。長らく戦争を続ける両国家。銀河帝国は門閥貴族社会による腐敗が、自由惑星同盟では民主主義の弊害とも言える衆愚政治が両国家を蝕んでいた。そして、宇宙暦8世紀末、ふたりの天才の登場によって歴史は動く。「常勝の天才」ラインハルト・フォン・ローエングラムと、「不敗の魔術師」と呼ばれるヤン・ウェンリーである。ふたりは帝国軍と同盟軍を率い、何度となく激突する。(公式サイトより抜粋)
私なりにまとめると
銀河帝国 対 自由惑星同盟
専制政治 対 民主政治
ラインハルト 対 ヤン
という敵対する組織に所属する2人の主人公を通してそれぞれの正義や信念が描かれており、そのどちらにも共感できるというとっても悩ましいアニメになります。
そしてこのアニメはリーダーシップや組織運営、競争戦略などビジネスや企業経営にも役立つ情報が満載です。
それぞれの問題点
専制政治と民主政治という二つの相反する政治体制である「銀河帝国」と「自由惑星同盟」ですが、それぞれに組織的・社会的な問題点を抱えています。
「銀河帝国」の問題点は「既得権益」、
「自由惑星同盟」の問題点は「集団浅慮」です。
既得権益の問題点
社会的集団が利己的に活動すると、意図するかしないかは別として大抵何らかの「既得権益」を保持するようになります。
「既得権益」は社会の中で富(資本)は、集団や個人の実力や正確な評価に対して適切に分配されなければなりませんが、1度「既得権益」が生まれるとそれそのものが更なる富を獲得する力となってしまいます。
そのため、「既得権益」の有無や大小だけで富の分配が大きくなされてしまい、結果として実力や正確な評価に対する富の分配が行われなくなることが問題です。
「既得権益」をもつこと自体によって得られる富の獲得は、社会の中の非合理的な資本分配であり、実力や正確な評価が報われないために社会に歪みや無気力を発生させてしまいます。
また、そのことが富や資本の集中による不健全な格差を助長すると共に、富や資本の流動性が低下することで経済的な不況を招くことにも繋がります。
集団浅慮の問題点
「集団浅虜」とは、グループ・シンクや集団思考とも呼ばれ、「集団で決定された意思や方針の質が個人で考えたものよりも劣ってしまう現象」を意味する言葉です。
「集団浅慮」は、
・自分たちの集団に対する過大評価
・閉ざされた意識
・均一性への圧力
という特徴がある組織で起きやすいと言われます。
自らを過大評価した集団は自分たち以外を過小評価したり、外部からの意見を聞き入れなくなりがちです。
また、組織の均一性、同調圧力は、少数派の意見を持つメンバーに対して、暗黙のうちに多数派の意見に従うよう強制させ反対意見が主張できずに多数派の意見に従わせてしまいます。
この様に「集団浅慮」は組織の視野狭窄や会議の形骸化につながる可能性があります。
中小企業経営と「既得権益」、「集団浅慮」
ここまでを私なりの言葉でまとめますと
既得権益=私利私欲に走って不平等が生まれ、不満に繋がる
集団浅慮=皆で決めようとすることで尖った意見が採用されない(当たり障りの無い意見に落ち着いてしまう)
となります。
仕事柄、中小企業の経営者さんと接する機会が多いのですがこの「既得権益」と「集団浅慮」はトレードオフの関係に近いと感じます。
というのも中小企業の場合そのほとんどが経営者でありオーナーなのでその意思決定は迅速かつ絶対的で「集団浅慮」が起こることはまずありませんが、その代わりオーナー経営者に富や権力、資本が集中するわけですから「既得権益」が否が応でも形成されていきます。
逆に中小企業の中でもオーナーと経営者が違ったり、権力者が分散していたりすると「既得権益」はあまりありませんが、中々話がまとまらず結局当たり障りの無い意思決定になってしまい、まさに「集団浅慮」が起きてしまうケースが見受けられます。
事業承継・相続と「既得権益」、「集団浅慮」
この「既得権益」と「集団浅慮」の問題が同時に発生しやすいのがオーナー経営者の事業承継や相続の際です。
オーナー社長が「既得権益」を持つこと自体はむしろその実力の賜物であり周囲も納得できますが、それが血縁というだけで身内が事業を承継したり株式を相続することで会社のことをよくわかっていない親類が口を出してくるという場合に会社内の不満が噴出するケースが多いです。
また、現在の日本の法律では基本兄弟で差をつけられないのでオーナー企業の経営者が亡くなって子供が複数人いた場合その経営権(株式)は分散されます。
もちろん子供が複数人いたとしても誰か1人に経営権(株式)を集中させることも可能ですが、自社株式の価格が高額なため思い通りに分配できないといったケースもあります。
もし株式が分散してしまうと「集団浅慮」が起きてしまい中小企業の1番の強みである意思決定の迅速さを失ってしまいかねません。
この様なことが起こらないためにもオーナー企業の経営者は
「納得感のある後継者」と「入念な事前準備」が必要です。
「納得感のある後継者」とは、会社の人間にその「既得権益」を手にしたとしても社内から不満が出ない様な後継者です。
血縁で選ぶのか実力なのか、いずれにせよ社内の納得感が得られなければ真の後継者にはなりません。
また「入念な事前準備」とは後継者の選定・育成を含め相続時に揉めたり権力が分散して「集団浅慮」が起きない様に予め方針を決めてそれに向け準備をしておくということです。
この2つは企業を存続させるために特にオーナー経営者には自身の最後にして最大のミッションになります。
最後に
『銀河英雄伝説』より専制政治の問題点である「既得権益」と民主政治の問題点である「集団浅慮」の両方が中小のオーナー企業では事業承継や相続時に同時に直面する問題点であると感じました。
どんなに主義主張や立場が違っていたとしても結局のところ問題の本質は人と人との間に起こるものだとも感じます。
だとするならばそれを解決できるのも人でありたいと願って止みません。(了)