歴史に学ぶ企業経営#1
どーも、「どばしんだんし」です。
実は中小企業診断士の他に高校社会の教員免許を持っていて歴史(特に日本史)が大好きなので自分の中の「好き」と「得意」のコラボレーション企画として『歴史に学ぶ企業経営』を今後定期的に書いていきます。
歴史に興味がない人にも伝わりやすいよう細かな年次や難しい言葉などは余り拘らず、歴史上の人物や出来事を診断士的視点で企業経営の話と絡めながら書いていきたいと思いますので最後までお読みいただければ幸いです。
記念すべき第1回目は「織田信長と経営ビジョン」がテーマとなります。
【織田信長のビジョン】
織田信長といえば坂本龍馬と並ぶ好きな日本の歴史上人物の2トップですが、その先見の明やリーダーシップで閉塞した時代に風穴を開けたところが人気な様です。
確かに織田信長の功績として
・鉄砲の活用
・能力や成果重視の人事
・関所の廃止
・楽市楽座
・キリスト教の布教ok
などがあり、既存のしがらみに囚われず新しいものをどんどんと導入した改革者のイメージが強いです。
では信長は何のためにこの様なことをしたのでしょうか?
それは信長には「こうなりたい」という明確なビジョンがあったからです。
上記の功績もそのビジョンを実現するため手段だといって良いと思います。
そのビジョンとは『天下布武』です。
『天下布武』とは私が学生時代は「武力で天下を治める」という意味で習いましたが、最近の説は少し違う様ですね。
ここでは『天下布武』の定義を議論するつもりはありませんので深くは書きませんが、この時代各国が自分の国や領土を守り隣国との戦いでいっぱいいっぱいな中で一段高い視点から「こうなりたい」という将来像=ビジョンを明確にしたこと自体に意義があると私は考えます。
【ビジョンの有用性】
例えば「医者になりたい」というビジョンを持った学生の場合、大学は医学部に入る必要がある、その為にはどの教科を勉強しどの位の成績が必要になるかが見通しが立ちます。
また同じ医者を目指す勉強仲間や協力者が現れるかもしれません。
この様にビジョンを明確にすることで、何をすべきかすべきで無いかの取捨選択が可能となり、優先順位が決まります。
また、ビジョンの実現に向けた目標を設定して具体的な数字や期間に落とし込むことで計画が立てられます。
さらにはビジョンに共感する仲間や支援者、逆にそれに反発する敵が明らかになります。
つまりはビジョンを明確化することで選択と集中が可能となるのと同時に組織を最適化することでき、最短最速でビジョン実現を可能にするという有用性があります。
信長も49年間という短い時間であれだけの偉業を成し遂げた最大の理由はこのビジョンの明確化にあったのだと思います。
【ビジョンの罠】
これまでビジョンの有用性について書いてきましたが、悪い面や弊害などは無いのでしょうか?
何事も完璧なものはありませんのでビジョンを明確にする悪い面や弊害はあります。
例えばビジョン自体が間違っていた場合、全ての行動が無駄になってしまう可能性がありますし、ビジョンがわかりにくかった場合逆に混乱が生じてしまいます。
また、仮にビジョンが正しく明確だったとしてもその実現方法や目標達成の方法が問題になる場合があります。ビジョンや目標が手段では無く目的化してしまうと、そのためならば何をやっても良いという風土が生まれそこから組織の腐敗や後退が始まります。
加えて「機会損失」のリスクもあります。
「機会損失」とは何かをやらないことで、それをやっていた場合に得られるはずだった利益、機会を失ってしまうリスクのことです。
信長も『天下布武』の実現のために仏教勢力を弾圧したり、成果の上がらなかった部下に辛く当たったりしましたが、そのせいで敵を多く作ってしまいました。ビジョンの実現や目標達成にそぐわないからといって敵対する以外の道を選択できていれば信長ももっと長生きして更なる高みに到達出来たかもしれません。
【歴史に学ぶ企業経営】
今回は織田信長のビジョンとビジョンの有用性やビジョンの罠を書かせて頂きました。
企業経営と関連づけますと「経営にビジョンは必要か」という問題の答えとして「必要だ」と断言できれば良かったのですが、ビジョンの有る無しと業績が連動する様なデータも探してみましたが明確なものは見つけられませんでした。
歴史を観ても信長の様に明確なビジョンがハマる場合もあれば秀吉の様に特にビジョンは無くてもうまく行く場合もあります。(秀吉についても今後書く予定ですので暫しお待ち下さい。)
あくまで私の仮説ですがビジョンが活用しやすい外部環境があるのでと思います。
信長の時代の様に閉塞感いっぱいの時代には新しい世界を夢見させてくれるビジョンが必要ですし、ある程度時代の形が出来上がった秀吉の時にはビジョンは無くても困らなかったということなのかもしれません。
逆に衰退する環境下では現状維持すら難しいでしょうから下手にビジョンがあるとビジョン実現や目標達成できないことが大きな葛藤となり苦しみだけが増してしまう恐れもあります。
昨今企業経営において経営ビジョンを明確化する効果が声高に唱えられていますが、実際に業績と連動するかどうかや逆効果になる可能性などはあまり聞こえてきません。
過去にもバブル崩壊後に海外にならって成果主義を導入する企業が数多くありましたが、残念ながらうまく定着した企業は少ないです。このケースも良い面ばかり見てその他の点をしっかり検証できていたか甚だ疑問です。
今回はビジョンを明確化することの良い面も悪い面も包み隠さず書かせて頂きました。
結局判断は自分でしてくださいという投げっぱなしジャーマンの様な締め方になってなってしまいますが、歴史を学ぶことは物事を多面的に捉え、本質を知る助けになるはずです。
一人でも多くの方に歴史を学ぶことの意義と現代にそれを活かす知恵を得るきっかけになれば幸いです。
①織田信長=1代で日本トップに躍り出たカリスマ経営者
「目標達成」至上主義で古いものをぶっ壊し新しいものを想像したイノベーター。明確なビジョンを持ち、自身の能力も高いが周りにもそれを求めるがあまり敵も多い。
①織田信長
【性格】
「鳴かぬなら殺してしまえ時鳥」、この詩からも分かるように織田信長は目標を達成する為には手段は厭いませんし、目標が達成できないものの存在価値を認めません。
つまり信長は「達成感」に重きを置く性格だと言えます。
【強み】
・天下布武 → ビジョンが明確
・旧来の仏教勢力と敵対 → 既成概念に囚われない
・実力主義の人事制度 → 能力や成果重視
・楽市楽座 → 規制撤廃と経済活性化
・鉄砲など海外の最新技術を導入 → 新たなものを導入しイノベーションを起こす
【弱み】
・天下布武 → 力で治めることで反発を買う
・旧来の仏教勢力と敵対 → 自分の考えに合わない人は全て敵
・実力主義の人事制度 → 能力や成果が見合わない部下は切り捨てる
【経営者の資質】
信長を言い表すとすれば『閉塞した時代に風穴を開けたカリスマ経営者』といったところでしょうか。
「目標達成」や「成果」を求める姿勢は経営者として必要な資質の一つだと思います。