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エビデンスというまやかし——証拠が示すもの、示さないもの

現代社会では、何かを主張する際に「エビデンスがあるか?」と問われることが当たり前になった。ビジネス、科学、政治、医療など、あらゆる分野でエビデンスの有無が議論の正当性を左右する。しかし、私たちは「エビデンス」と聞くと、それが客観的かつ絶対的な真実であるかのように錯覚しがちだ。しかし、エビデンスには限界があり、場合によっては「まやかし」として利用されることさえある。本稿では、エビデンスの持つ本質と限界を明らかにし、それにどのように向き合うべきかを考察する。


1. エビデンスの3つの落とし穴

「エビデンスに基づく」と言われると、それだけで説得力が増すように感じるが、実際にはエビデンスは誤用・濫用されることも多い。以下、エビデンスが持つ3つの落とし穴について解説する。

(1) エビデンスのバイアス——見たいものしか見えない

研究やデータの解析には、必ず何らかのバイアス(偏り)が含まれる。
例えば、医薬品の臨床試験では、新薬の有効性を証明するために都合の良いデータが選ばれることがある。統計解析の手法によっては、異なる結果が導かれる可能性もあり、研究者の意図によってエビデンスの方向性が変わるこ
とさえある。

また、企業や政治家が都合の良いエビデンスだけを選択して提示する「チェリーピッキング」という手法も問題だ。これは、反証となるデータを意図的に無視し、特定の結論を導きやすくするものであり、エビデンスの信頼性を大きく損なう。

(2) 「因果」と「相関」の混同——本当にそれが原因か?

エビデンスの誤用としてよくあるのが、「相関関係を因果関係として扱う」ことだ。
たとえば、「Aを食べる人はBの病気になりやすい」というデータがあったとしても、それがAを食べることが直接の原因なのか、それとも別の要因(例えば生活習慣や遺伝的要素)が絡んでいるのかは不明である。

これはビジネスの意思決定でも見られる。例えば、「リモートワークの導入後、生産性が向上した」というデータがあったとしても、本当にリモートワークが生産性向上の原因なのか、単に他の要素(例えば従業員の意識改革や業務の効率化)が影響しているのかを見極める必要がある。

(3) エビデンスの短命性——「正しかった」はずが…

科学の世界では、ある時点で「エビデンスがある」とされたものが、数年後には否定されることも珍しくない。
かつて「卵はコレステロールを増やすので体に悪い」とされていたが、後の研究では「むしろ適度に摂取すべき」というエビデンスが出ている。栄養学や医学の分野では、研究が進むにつれてエビデンスが塗り替えられることが多い。

このように、エビデンスは時代や技術の進歩によって変化するものであり、現在のエビデンスが「絶対的に正しい」とは限らない。


2. 「エビデンスの罠」から逃れるために

では、私たちはエビデンスをどのように捉え、活用すればよいのか?エビデンスの罠に陥らないために、以下の3つの視点を持つことが重要である。

(1) エビデンスの出所と背景を疑う

エビデンスを鵜呑みにせず、「誰が、どのような目的で出したデータなのか?」を確認する習慣を持つことが大切だ。特定の企業や団体が資金を出している研究は、その団体に有利な結論が導かれている可能性がある。

また、エビデンスがどのような条件下で得られたのかを考えることも重要だ。例えば、あるダイエット法の研究結果が「参加者が特定の食事を摂り、運動も行った」条件で得られたものであれば、そのダイエット法単体の効果とは言い切れない。

(2) 反証を探す

1つのエビデンスだけで判断せず、対立する研究や異なる視点のデータも確認することが重要だ。特に「画期的な新事実」や「驚くべき結果」が発表されたときこそ、慎重に多角的な情報を集める必要がある。

たとえば、「○○を食べると寿命が延びる」という研究が出た場合、それと矛盾する研究はないか?本当にその研究方法は適切だったのか?といった視点で検証することで、誤ったエビデンスに踊らされるリスクを減らせる。

(3) エビデンスを「絶対視」しない

エビデンスは、あくまでも「現在わかっている範囲での最良の情報」に過ぎない。100%の確実性を持つものではなく、将来的に覆される可能性があると認識しておくことが大切だ。

また、「エビデンスがないから信じるに値しない」とするのも早計である。例えば、新しい医療技術や治療法の中には、まだ十分なエビデンスが揃っていないものの、臨床現場では有望視されているものもある。エビデンスがある・ないという二元論ではなく、常に柔軟な思考を持つことが求められる。


3. まとめ——エビデンスは道標であり、真理ではない

エビデンスは意思決定を支える有力な道具であるが、それ自体が「真実」ではない。
エビデンスのバイアス、相関と因果の混同、短命性といった限界を理解し、常に批判的思考を持つことが重要である。私たちはエビデンスを盲信するのではなく、「どのように得られた情報か?」を問い、必要に応じて複数の視点を取り入れることで、より正確な判断を下すことができる。

エビデンスは「まやかし」ではなく、使い方を誤れば「まやかし」となりうる。だからこそ、私たちはエビデンスを過信せず、柔軟に活用していくべきなのだ。

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廣石雄大/京都在住の経営者
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