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自社開発企業がエンジニアにとってオアシスであるという幻想

エンジニアが働く場所を選ぶ際、「自社開発企業」という選択肢はしばしば理想的な職場の象徴として語られます。受託開発やSES(システムエンジニアリングサービス)といった形態に比べて、自社開発企業は「やりがいのあるプロダクトを作れる」「安定して成長できる環境がある」「長期的な視点で開発に取り組める」といった魅力的なイメージが持たれがちです。しかし、この「オアシス」のようなイメージには、多くの場合、幻想が含まれています。

本記事では、自社開発企業が必ずしもエンジニアにとって理想の環境ではない理由について掘り下げ、エンジニアがキャリア選択をする際にどのような視点を持つべきかを考えていきます。


1. 自社開発企業への期待と現実

自社開発企業への主な期待として、以下のようなポイントがよく挙げられます:
• 自分の作ったプロダクトが世の中で長期的に使われる喜びを得られる
• 短期的な利益よりも質を重視した開発ができる
• 社内の技術基盤が安定しており、最新の技術に挑戦しやすい
• 業務の範囲が限定的ではなく、プロダクトの全体像を把握しやすい

これらの期待には確かに一理ありますが、現実は必ずしもバラ色ではありません。自社開発企業だからこその課題や問題も多く存在します。


2. 自社開発のジレンマ:プロダクトファーストの現実

自社開発企業は、その名の通り、自社のプロダクトを中心にビジネスが回ります。そのため、プロダクトの利益や成長が最優先されることが多く、エンジニアが望む「技術的挑戦」や「品質へのこだわり」が二の次にされる場合も少なくありません。

たとえば、「納期に間に合わせるために妥協する」「市場のニーズに合わせて本来の設計意図から外れる機能を追加する」といったことは、自社開発企業でも日常茶飯事です。このような状況では、技術的な理想を追求するよりも、現実的な制約の中で解決策を模索する必要があります。

さらに、長期的に運用されるプロダクトであるからこそ、技術的負債が蓄積しやすいという問題もあります。過去の設計や技術選定が現在の要件にそぐわなくなった場合でも、リファクタリングや大規模な改善が後回しにされるケースは珍しくありません。結果として、エンジニアがフラストレーションを感じることも多いのです。


3. 技術的挑戦の場ではない場合もある

「自社開発企業=最新技術に触れられる」と思われがちですが、実際にはそうとは限りません。むしろ、安定性を重視する自社開発企業では、既存の技術スタックを維持し続けるケースが多く、新しい技術を導入するハードルが高いこともあります。

また、プロダクトの成熟度が高い場合、大きな機能追加や革新が少なく、エンジニアとしての成長が停滞することも考えられます。たとえば、既存のシステムを運用・保守する業務が主な業務になると、技術的な成長機会が限定され、やりがいを見出しにくくなることがあります。

自社開発企業の中には「この技術スタックから脱却したい」と思いつつも、ビジネス的なリスクを恐れて現状を維持せざるを得ない状況に陥っているケースも少なくありません。こうした環境では、エンジニアとして挑戦する機会が少なくなり、「技術で世界を変える」という理想とのギャップが生じることがあります。


4. プロダクトへの愛着が義務になるリスク

自社開発企業では、自社のプロダクトに対する強い愛着や責任感が求められることがあります。「自分たちのプロダクトだからこそ、一層の努力が求められる」という考え方は、一見すると正しいように思えます。しかし、それが行き過ぎると、プロダクトへの過剰なコミットメントがエンジニアに重い負担をかけることがあります。

たとえば、「プロダクトの成功のために残業を厭わない」「休日でもシステムトラブルに対応する」といった文化が暗黙のうちに形成されると、エンジニアのワークライフバランスが損なわれる危険性があります。プロダクトへの情熱が義務化される環境では、働くこと自体が苦痛になり、最終的に燃え尽き症候群に陥ることもあります。


5. 自社開発がオアシスであるための条件

それでも、自社開発企業がエンジニアにとって魅力的な職場であることは間違いありません。ただし、それが「オアシス」となるためにはいくつかの条件があります:

1. 健全な技術文化
エンジニアが技術的な成長を感じられる環境が整っていること。たとえば、新しい技術導入の提案が歓迎される文化や、リファクタリングや技術負債解消にリソースを割く意識があることが重要です。

2. プロダクトとエンジニアのバランス
プロダクトの成功だけでなく、エンジニア自身のキャリアや働きやすさにも配慮されていること。無理なスケジュールや過剰なコミットメントを要求しないことが必要です。

3. 透明なコミュニケーション
ビジネス側とエンジニアリング側がしっかり連携し、プロダクトの方向性や意思決定プロセスが透明であること。これにより、エンジニアが納得感を持って働くことができます。


まとめ:幻想を超えて現実を選ぶ

自社開発企業は「エンジニアにとってのオアシス」として語られることが多いですが、それは単なる幻想に過ぎない場合もあります。
自社開発企業には魅力がある一方で、特有の課題や現実も存在します。
エンジニアとしてキャリアを選ぶ際には、理想に惑わされるのではなく、企業文化や働く環境、プロダクトへの姿勢を現実的に評価することが重要です。

本当に自分にとって「オアシス」となる職場を見つけるためには、幻想を超えた冷静な視点を持ち、何が自分にとって働きがいを感じられる環境なのかを見極める力が必要です。

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廣石雄大/京都在住の経営者
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