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「規模の拡大」の終焉ーこれからの企業が目指すべき成長戦略

企業の成長=規模の拡大という考え方は、長らく常識とされてきた。しかし、スケール化が必ずしも成功を意味するわけではない。実際、多くのビジネスにおいて、単純な規模の拡大がもたらすのは効率向上だけでなく、創造性の低下や持続可能性の欠如といった弊害である。本記事では、規模の拡大に代わる「スケール化」の新たな視点を提示し、影響力や価値の拡張こそが重要であることを考察する。


1. 規模拡大の盲点

アダム・スミスの『国富論』では、分業と専門化が生産性を飛躍的に向上させるとされている。この考えは、現代の経済システムの基礎となり、「企業は大きくなるほど良い」という通念を生み出した。しかし、この理論の根拠であるピン工場の描写は、実際に現地を訪れたわけではなく、間接的な情報を基にしたものだった。スミス自身が工場を訪れていないため、分業の弊害や人間の創造性への影響については考慮されていなかったのである。

実際にフランスのピン工場を訪れた研究者たちは、現代の製造業において最も価値があるのは、機械のメンテナンスや最適化を行う労働者であることを発見した。すでに単純な分業作業はAIや自動化によって置き換えられ、必要とされるのは、統合的な知識を持つ専門家たちだった。これは、規模の拡大=生産性の向上という従来の考え方が、必ずしも現実に適合しないことを示している。


2. 規模よりもスケールすべきもの

従来のスケール化には、以下の3つの問題点がある。

1. 分業が創造性を奪う

スミスの時代には、分業によって労働者が単純作業に従事することで生産性が向上するとされた。しかし、アダム・ファーガスンは「機械化された労働は、人間の創造性や思考力を低下させる」と警告していた。

今日では、多くの単純作業が自動化され、機械によって置き換えられた。逆に、機械化できないのは「統合的な思考や創造性を必要とする仕事」だ。つまり、規模の拡大ではなく、 創造性や知識のスケール化 こそが、これからの企業にとって重要な要素となる。

2. 規模拡大が持続可能性を損なう

農業を例にすると、大規模化によって短期的な収益は向上するが、土壌の栄養が失われ、長期的には生産性が低下する。これは、食物の味や栄養価にも影響を与え、最終的に消費者にも悪影響を及ぼす。

企業においても、規模の拡大が必ずしも価値の向上を意味するわけではない。むしろ、 持続可能なビジネスモデルの構築こそがスケール化すべき対象 である。

3. 企業の成功指標が限定的

従来、企業の成功は売上や市場シェアの拡大で測られてきた。しかし、成功の指標はこれだけではない。規模の拡大にこだわらず、 ビジネスモデル、影響力、人間らしさをスケール化することが、これからの企業経営において重要になる


3. スケール化の新しい選択肢

規模の拡大に代わる新たなスケール化の形として、以下の3つの方法がある。

1. モデルをスケール化する

企業そのものを大きくするのではなく、 ビジネスモデルをスケール化 することで、より広い影響力を持つことができる。

例として、世界有数のレストラン「ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ」は、食品業界の再設計を目指している。このレストランは、自社の規模を拡大するのではなく、 小規模農業の新たな経済モデルを普及させる ことで持続可能な食の未来を築いている。

その取り組みの一環として、放牧牛の価値を高める新しいステーキ部位の開発や、輪作穀物の消費促進といった施策を展開し、 農業のあり方を変えるモデルをスケール化 している。

2. 影響力をスケール化する

企業の規模を拡大せずとも、 影響力を拡大すること で社会に貢献できる。

例えば、デニムブランド「ヒウット・デニム」は、工場を大きくするのではなく、 サステナビリティや労働環境の改善、マイクロプラスチック問題への対応 など、業界全体に影響を与える活動を行っている。このように、規模の拡大ではなく、 より多くの人々にインスピレーションを与えること が、新しいスケール化の形となる。

3. 人間らしさをスケール化する

企業は、成長を追求するだけでなく、 従業員や社会にとっての価値をどのように拡張できるか を考えるべきである。

経済史家R.H.トーニーは、「物質的な富が増えても、自尊心や自由を損なうような成長は無意味だ」と指摘している。企業が単に利益を追求するのではなく、 従業員の幸福や地域社会とのつながりを重視することで、人間らしさをスケール化する 必要がある。


結論:成長の定義を変える時代

規模の拡大は、これまで企業の成功を測る指標とされてきた。しかし、成長とは必ずしも 「大きくなること」ではなく、「より良くなること」 である。

  • ビジネスモデルをスケール化 することで、企業そのものを大きくしなくても影響を拡大できる。

  • 影響力をスケール化 することで、業界や社会全体に変革をもたらせる。

  • 人間らしさをスケール化 することで、企業と社会の持続可能な未来を築くことができる。

これからのリーダーに求められるのは、 単なる成長ではなく、どのようにスケール化すべきかを見極める力 である。テクノロジー企業の成長が称賛される時代から、 持続可能で価値ある成長が評価される時代 へと、企業のあり方は変わりつつある。


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廣石雄大/京都在住の経営者
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