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DNX Studio:日本発、次世代のベンチャースタジオモデルの幕開け

はじめに

皆さま、こんにちは。この度、DNXは新たな挑戦を開始します。アメリカのSaaS特化ベンチャースタジオであるHigh Alpha Innovationとの協力のもと、日本初のソフトウェア特化ベンチャースタジオ、「DNX Studio」の立ち上げを発表いたしました。

本プロジェクトは、DNXのInvestment VPである田中が、Harvard Business Schoolに在学中の2023年夏、High Alpha Innovationで実際にプロジェクトに参画したことがきっかけとなりました。2024年初頭には「Episode 0」と銘打った非公開のパイロットプログラムを経て、この度正式に立ち上げる運びとなりました。足掛け1年半の準備期間を経てのパートナーシップ及びベンチャースタジオの立ち上げです。
では、なぜDNXがこのタイミングでベンチャースタジオの立ち上げに至ったのか、詳しく説明していきましょう。


DNXがベンチャースタジオを始める理由

DNXは2011年の創業以来、一貫してB2B領域、特にSaaSスタートアップに対するアーリーステージ投資を行ってきました。今年発表した最新の日本ファンドは、シード期に投資する「シードファンド」、シリーズAフェーズでリード投資を行う「メイン4号ファンド」、上場に向けたグロースステージスタートアップ向けの「アネックスファンド」を備え、シードから10年、15年と起業家の夢を応援する体制を整えています。

ここ10年で多くのSaaS企業の成長を支援し、プロダクト発表前から日本を代表するスタートアップになるまでの道のりを間近で見て、その過程で、SaaSの成長における再現性のある支援方法やノウハウを蓄積してきました。

さらにここ数年、チームも拡充しました。現在、投資チームの半数以上がスタートアップ創業経験者やスタートアップ経営を経験したメンバーで構成されています。日本では珍しく、スタートアップ経験者が多いVCとなっているのです。

こうした成長と経験の蓄積により、再現性のあるSaaSの成長メソッドを、スタートアップ経験者であるVCが起業家に伴走する形で提供できるようになりました。志の高い起業家であれば、事業ステージに関係なく、もっと言えば創業前だったとしても、私たちは全力で支援できると確信しています。
そして何より、DNXは志高き起業家の方々をDay 0から全力で支援できることを、心から楽しみにしています!

ベンチャースタジオモデルとは

「ベンチャースタジオ」という言葉を聞いて、すぐにイメージが浮かぶ人は少ないかもしれません。アクセラレーターやインキュベーターといったプログラムの方が馴染み深いでしょう。世界的に有名なY CombinatorやAlchemist Acceleratorは、アクセラレーターに分類されます。

ベンチャースタジオは、アクセラレーターやインキュベーターと混同されがちですが、詳しく見ていくと大きな違いがあります。

アクセラレーター/インキュベーター vs ベンチャースタジオ

アクセラレーターやインキュベーターの多くは、既にチームやプロダクトが存在する状態からスタートします。彼らが持つネットワークや、企業の場合は社内のリソースをスタートアップに提供し、文字通り成長を「加速」させることを目的としています。多くの場合、Demo Dayに向けて準備をし、企業とのPoCの獲得やVCからの資金調達(Y Combinator等)を目指します。

一方、ベンチャースタジオは会社設立前、チームアップ前からスタートアップに参画します。市場探索や初期の顧客開発から、いわば「共同創業者」として会社の立ち上げに関わるのです。逆に言えば、アイデアや共同創業者がいなくても、起業という方法を通して社会にインパクトを残したいと考える方であれば、ベンチャースタジオに参加できるというわけです。

ベンチャースタジオの種類

ベンチャースタジオにはいくつかの形態があります。

  1. Studio設立型: ベンチャースタジオ自身が会社の設立まで行います。Serial Entrepreneur等、起業経験や事業の立ち上げ経験のあるメンバーをリクルーティングし、創業チーム作りをStudioが主体的に行います。Serial Entrepreneurの多い米国では、この形態が比較的多く見られます。

  2. EIR(Entrepreneur in Residence)型: 起業準備中の方を中心に据えて、サポートするインフラを整えながら二人三脚で事業を作っていきます。EIRの方が、その事業のCEOとなります。日本のようなSerial Entrepreneurが多くない地域では、このEIR中心のベンチャースタジオが主流となっています(日本でも、Delight Ventures、DCM Atlasなどがこの形態を志向しています)。

米国におけるベンチャースタジオの歴史

VCやベンチャースタジオがスタートアップを生み出すという現象は、最近でSnowflake社の事例が有名です。

Snowflakeは、Sutter Hill VenturesのManaging PartnerであるMike Speiser氏が、VCでありながら、創業から約2年間、CEOとして自ら会社を率いました。Snowflakeが2020年に大型IPOを果たしたことで、このアプローチは大きな注目を集めました。実は、Speiser氏自身は2008年にSutter Hill Venturesに参画してから10社以上、Founding CEO and Investorとして、再現性を持ったスタートアップ創業を得意としていたのです。

Sutter Hill Venturesの事例以外にも、米国では有名なIdealab社(1996年に創業、Overture(Yahooに16億ドルでM&A)など100社以上を立ち上げ)をはじめとして、ベンチャースタジオモデルは30年近くの歴史があります。

米国におけるベンチャースタジオの変遷は以下の通りです:

  1. Idealab社が、「VCに頼らない事業開発モデル」として、自社でアイデアを精査し、実行力のある起業家を1-2名アサイン、最初の資金提供まで行うというインキュベーションモデルを始めました。

  2. 次に、シェアードサービス(オフィス、バックオフィスサポート、クラウド黎明期においてはホスティングサーバーなど)を提供し、起業家が顧客とプロダクトに集中できる環境を整備することで、起業のハードルを下げる動きが出てきました。

  3. 事業開発の再現性が見えてきた現在、ベンチャースタジオが増えるにつれて、それぞれの特徴が細分化し始めています。最も顕著なのは、特定の業界に特化する動きです。例えば、ヘルスケア専門のベンチャースタジオでは病院との太いパイプを活かしています。後述する、今回弊社がパートナーとしたHigh Alpha Innovationは、B2B Softwareに特化した事業構想を基本としています。

ベンチャースタジオの実力

起業家にとって気になるのは、自分自身で事業を立ち上げることと比較して、果たしてメリットがあるのか、ということでしょう。

実は、米国のベンチャースタジオモデルの30年弱の歴史において、ベンチャースタジオ出身の企業がシリーズA調達の成功確率、エグジットの確率、そしてリターン水準の全てにおいて、他のVC Backed Startupより優れた成績を収めていることがデータとして出ています。

さらに確率だけではなく、Series A調達までの時間も大幅に短縮できていることがわかります。再現性のあるメソッド、創業初期から付き合ってくれる事業パートナーなどを携えて起業するからこそ、成功の確率を引き上げることができているのです。

ベンチャースタジオモデルの効率性

ベンチャースタジオのスタートアップモデルは、従来のスタートアップと比べて効率的で成功率が高いと言われています。

  • 通常のスタートアップ:アイデアから資金調達までに数年を要し、多くがその過程で失敗に終わる

  • ベンチャースタジオ利用のスタートアップ:平均して10.7ヶ月でシードラウンド、さらに14.5ヶ月でシリーズAラウンドに到達


このスピード感が成功率を高めている大きな要因の一つです。

  • 通常のスタートアップ:シードラウンドに到達した企業のうち、約42%がシリーズAに進む

  • ベンチャースタジオ経由のスタートアップ:シードラウンドに到達した企業の72%がシリーズAに進む

この違いは、ベンチャースタジオが最初から専門的なサポートを提供し、必要な資金、人材、ネットワークを集中的に投入することで、起業家がアイデアの検証や市場投入に集中できるからです。特にベンチャースタジオは、アイデアの段階から資金調達までの全てのプロセスを標準化し、反復可能な成功モデルを構築することで、起業家の負担を軽減し、成功の確率を飛躍的に高めています。

ベンチャースタジオの強み

従来のスタートアップは、限られたリソースで市場開拓や資金調達に奮闘する一方で、ベンチャースタジオから誕生したスタートアップは、ベンチャースタジオが持つ専門的なネットワークやリソースを活用し、より迅速かつ効率的にスケールアップを図ることができます。これにより、スタートアップの成長スピードが加速し、約60%がシリーズAに到達するという結果が得られています。

成功の理由はベンチャースタジオのサポートにあります。アイデアの選定から、プロダクト開発、人材採用、資金調達まで一貫して支援を行います。特に、ベンチャースタジオは「共同創業者」として企業に関与するため、ベンチャースタジオ自体も成功に大きな関心を持ち、成長を加速させるためのあらゆるリソースを提供します。

従来のスタートアップが孤独な戦いを強いられるのに対して、ベンチャースタジオでは、創業時から専門家チームに支えられ、より強固な体制でスタートを切れる点が、成功率の違いを生み出しているのです。
このように、ベンチャースタジオを活用することで、従来のスタートアップと比べて約30%高い成功率が得られ、資本効率も大幅に改善されるため、起業家や投資家にとって非常に魅力的な選択肢となっています。

DNXが選んだパートナー:High Alpha Innovation

DNX Studioの立ち上げにあたり、私たちは慎重にパートナーを選びました。その結果、High Alpha Innovationとの協力が実現しました。

High Alpha Innovationとは

High AlphaはScott DorseyがSaaSの経験を基に設立したベンチャースタジオです。Zyloをはじめとする、米国で成長を続けるSaaSスタートアップを数多く生み出しています。

その中でも、High Alpha Innovationは特筆すべき存在です。彼らは事業会社の持つ課題をヒアリングし、それをベースにスタートアップを作り上げていきます。B2B領域においてスタートアップを生み出すことに特化しており、これまでに多くのスタートアップを立ち上げてきました。

High Alphaのメソッド

High Alphaのメソッドは、『イノベーションのジレンマ』で有名なHarvard Business Schoolの教授だったClayton Christensen氏が提唱した「Jobs to be Done」理論をベースにしています。これは、マーケティング領域のジョブ理論とは少し異なり、再現性のある新事業創出の手法として確立されています。
High Alpha Innovationの特徴的なプログラムは以下の通りです。

  1. アイデアが全くない段階から、わずか12週間で事業立ち上げまで達成する短期集中型プログラム

  2. 徹底した市場性調査と顧客候補へのヒアリングを通じて起業のアイデアを練り上げる

  3. 最初の1ヶ月はソリューション(プロダクト)について考えることを禁止し、ひたすら課題を追求する

DNXのメンバーが実際にHigh Alphaと3ヶ月にわたって協働し、ゼロから会社が立ち上がるプロセスを間近で観察しました。彼らのプロセスは、まさに起業を「科学」しており、事業の立ち上げや事業性の判断に至るまでの再現性のあるプロセスを確立しています。

DNXの顧客開発へのこだわり

DNXとしても、PMF(Product Market Fit)に向けた顧客開発の重要性を常々提唱してきました。私たちは、顧客開発の理論が特にB2Bソフトウェア領域において効果的だと確信しています。なぜなら、B2B領域では顧客が予算を確保し、相見積もりを取り、社内稟議を上げるといった具体的な購買行動を前提としているからです。これは、ユーザーの潜在的なニーズを探索するB2C領域での起業とは異なるアプローチが必要となります。

DNX Studioのプログラム

今回のDNX Studioのプログラムは、High Alpha Innovationの実績ある顧客発見メソッドと、DNX Venturesが日本で90社以上のSaaS企業に投資してきた経験から得た「勝ち筋」を掛け合わせたものです。これにより、日本のB2Bソフトウェア事業設立に特化したユニークなプログラムを提供します。

DNX Studioを活用して起業するメリット

DNX Studioを通じて起業することで、以下のような大きなメリットがあります:

1. Founder Friendlyな条件

米国のベンチャースタジオは共同創業者として活動する一方で、共同創業者並みの大きなシェアを取得することが一般的です。これに対し、DNX Venturesはシードファンド、メインファンド、そしてその後の投資を前提とした持分比率を採用しています。これにより、米国のベンチャースタジオと比較しても、より起業家にとって有利な条件を実現しています。

2. DNX Venturesの全面的サポート

DNX Studioは、単なるメンタリングプログラムではありません。DNXの投資チームメンバーが実際に手を動かし、起業家と二人三脚で事業に取り組みます。具体的には以下のようなサポートを提供します:

  • 市場調査

  • 顧客ヒアリング先の募集・実行

  • 共同創業者の探索

これらの支援を通じて、起業家が主役でありながら、可能な限りのバックアップを行います。
さらに、DNXの投資メンバーには多くのスタートアップ出身者がおり、B2Bソフトウェアの成功事例を数多く知っています。このような経験豊富なメンバーと共に創業することで、最初から外部調達を前提とした大きな市場、大きな事業を目指すことができるのです。

終わりに

DNX Studioの立ち上げは、日本のB2Bソフトウェア起業家にとって、新たな可能性を開くものです。High Alpha Innovationとのパートナーシップ、そしてDNX Venturesの豊富な投資経験を活かし、より多くの成功するスタートアップを生み出すことを目指しています。

起業を志す皆さま、そして新しいイノベーションに関心のある皆さま、DNX Studioにぜひご注目ください。私たちと共に、次世代のB2Bソフトウェア企業を創り上げていきましょう。

DNX Studioに関心を持ってくださった方へ
詳細情報や応募方法については、DNX Venturesの公式ウェブサイトをご覧ください。皆さまからのご連絡を心よりお待ちしております。

(文・田中佑馬)


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