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DNX Studio : 起業家のための創業時のVCパートナーの選び方

はじめに

皆さま、こんにちは。おかげさまで、DNX Studioにはたくさんのご応募をいただいております。たくさんの志ある方々が起業を考えていらっしゃることを嬉しく思うと共に、創業ご支援が楽しみでなりません。

日本国内でも複数のベンチャーキャピタル(VC)が、創業支援のプログラムを展開していますが、スタートアップの世界で適切なVCパートナーを選ぶことは、単なる資金調達以上の意味を持つように思います。VC選びは、会社の未来を左右する重要な意思決定です。今回は、VCのビジネスモデルの本質から、起業家のための最適なパートナー選びの具体的な判断基準まで、DNXの経験と知見に基づいて詳しく解説します。

DNXは、志高く、情熱に溢れている起業家が、その可能性を最大限に発揮できる環境の創出に全力を注いでいます。そして自分たち自身も、未来の起業家候補の皆さまにとって信頼できるパートナーとなれるよう、日々研鑽を積んでおります。この記事を通じて、未来の起業家の皆さまにVCの理解を深めていただき、ご自身、そして会社が一番成長できる環境を選択できるよう、一助となれれば幸いです。
では、まずVCのビジネスモデルから解説していきましょう。


VCのビジネスモデルを理解する

投資の仕組みと目的

VCは主に機関投資家から資金を預かり、その資金を厳選したスタートアップに投資します。投資先企業が上場やM&Aなどでエグジットを達成すると、その収益を投資家に還元し、一部を成功報酬として受け取ります。

このモデルの特徴は、ハイリスク・ハイリターンを前提としている点です。VCは投資先の多くが期待通りの成果を出せない可能性を織り込んだ上で、少数の大きな成功案件でポートフォリオ全体の収益を確保することを目指します。一般的に、投資先の約7割は期待通りの成果を出せず、2〜3割の成功案件、特にその中の1割程度の大成功案件がファンド全体の収益を牽引すると言われています。

スタートアップにとってのVCパートナーシップの意味

VCから投資を受けるということは、それは単に資金を得るだけでなく、VCから出資を受けることで、一定のコントロール(株式、社外取締役の権利等)を譲渡し、企業価値を高めることを追求していくことが求められるようになるということでもあります。つまり、会社のガバナンス構造や成長戦略に大きな影響を与える決断です。

VCは株主として一定の権利を持ち、多くの場合、取締役会に参画します。これにより、重要な経営判断にVCの意見が反映されることになります。また、定期的な報告義務が発生し、経営の透明性が求められるようになります。

このパートナーシップには、大規模な資金調達が可能になる、専門的なアドバイスが得られる、信用力が向上するなどのメリットがある一方で、株式の希薄化が発生するほか、経営の自由度の制限や高い成長期待によるプレッシャーを受けることになります。

安易にVC調達を考えるのではなく、そもそもVCパートナーシップが必要かどうか見極めることが必要です。


戦略的なVCパートナー選定:4つの重要な判断基準


VCパートナー(リードVC)を選ぶ際には、主に4つの重要な基準があります。これらの基準を慎重に検討することで、自社に最適なパートナーを見つけることができます。(参考: A VC explains VC's “Investment Thesis” :米Scale Veture PartnersのパートナーRory D’Oriscollによる解説動画


1. 投資ステージとリスクプロファイル

VCは通常、特定の投資ステージに注力しています。これは単なる投資金額の違いではなく、各ステージで取るリスクの性質が大きく異なるためです。

アーリーステージのVCは、「チームリスクやプロダクトリスクを取る」ことを得意としています。マネジメントチームの評価、育成を行うだけでなく、プロダクトが市場に受け入れられるかどうかが不確実な段階で投資を行い、その課題の克服を支援します。このステージのVCは、ピボットも受け入れ、メンタリングやハンズオンの支援を通じて、スタートアップの初期の成長をサポートします。

一方、ミドルステージのVCは、「マーケットリスクやエグゼキューションリスクを取る」ことに長けています。PMFが確認された後、いかに市場・売上を拡大し、組織をスケールさせるかがテーマとなるフェーズです。このステージのVCは、事業拡大のための戦略支援や組織開発支援、次のラウンドに向けた準備をサポートします。

レイターステージになると、VCは「バリュエーションリスクを中心に取り」ます。すでに一定規模の事業が確立している段階で、いかにさらなる成長を実現し、エグジットに向けたガバナンスやコンプライアンス体制の整備の支援を行い、適切なバリュエーションでエグジットを達成するかが焦点となります。

2. スタートアップの評価基準

VCがスタートアップを評価する際の基準を理解することは、適切なパートナーを選ぶ上で非常に重要です。多くのVCは、定量的な指標と定性的な要素の両方を総合的に判断します。

定量的な側面では、売上高成長率、ユニットエコノミクス、キャッシュバーンレートなどの財務指標に加え、特にSaaS企業の場合はMRR/ARR、チャーンレート、LTV/CAC比率などの事業KPIも重要な判断材料となります。

しかし、多くのVCにとってより重要なのは定性的な評価です。市場の魅力度、プロダクトの競争優位性、そして何より経営チームの質を見極めることに多くの時間を費やします。例えば米国のScale Venture Partnersでは、長期的なトレンドと短期的な実績の両方を重視します。トレンドが追い風となり、会社が大きく成長する可能性があるかどうかを見極めると同時に、直近の顧客トラクションなど、チームのエグゼキューション能力を示す指標も慎重に評価します。これらの定性評価の方法は、VCごとに異なりますので、それぞれのVCが何をもってスタートアップを評価しているのかを知っておくことが重要です。

3. 投資後の関わり方

VCの投資後のスタートアップとの関わり方は、スタートアップの成長に大きな影響を与えます。特にリードVCの場合、多くは取締役として経営に参画します。

取締役としてのVCの役割は主に4つあります。第一に、「経営者の選定・評価」です。経営者の選任・解任権を持ち、経営陣の報酬決定にも関与します。第二に、「資本政策のサポート」です。次のラウンドのタイミングや条件の交渉を支援し、新規投資家の紹介も行います。第三に、「事業戦略の方向性」に関する合意です。M&Aの機会評価やグローバル展開の判断なども、VCとの協議を経て決定されることが多くなります。そして第四に、最終的な「エグジット戦略の策定」です。IPOかM&Aか、そのタイミングはいつかといった重要な判断をサポートします。

日常的な支援においても、VCの役割は重要です。顧客やパートナー企業の紹介、採用支援、ベストプラクティスの共有など、様々な形でスタートアップの成長をサポートします。特に危機的な状況、例えば資金繰りが悪化した時や、重要なコンプライアンス問題が発生した際には、VCの支援が会社の存続を左右することもあります。

VCに自分の背中を預けられるか、苦しい時に資金面のサポートはあるか、戦略の方向性やExitの目線に大きな乖離はないか等、投資を受ける前に確認しておく必要があります。

4. 投資分野の専門性

すべてのVCが全ての分野で高い価値を提供できるわけではありません。多くのVCは、特定の分野に特化することで、より深い知見とネットワークを提供することを目指しています。

VCの専門性を評価する際は、まず投資実績を見ることが重要です。単に投資先の数を見るのではなく、その分野での成功事例、さらには失敗からどのような学びを得ているかを理解することが大切です。

次に、VCのチームの経験を評価します。パートナーやチームメンバーが、その分野でどのような実務経験を持っているか、どのようなネットワークを持っているかは、投資後の支援の質に大きく影響します。

さらに、ドメインエキスパティーズ、つまり業界トレンドの理解度、技術的な知識、規制環境の把握など、知見の深さを評価することも重要です。例えばB2B SaaS分野に強いVCであれば、企業向けセールスの戦略立案や、導入サイクルの短縮化などについて、具体的なアドバイスができるはずです。

それらを確認した上で、その知見や経験が自社に合うのかを確認しておきましょう。


DNXの投資アプローチ:B2B SaaS特化型VCとしての強み

DNXは、B2B企業に特化したアーリーステージVCです。これまでに80社以上のB2B SaaSスタートアップへの投資実績があり、GPの倉林はDNX参画前より国内の代表的なSaaS企業へ投資してきました。手前味噌ですが、DNXのもつB2B SaaS領域への深い知見と業界内のネットワークは、数多くの国内B2B SaaSスタートアップからDNXが選定される大きな要因となっているのではないかと自負しています。

DNXがメインファンドから出資をする際には、投資先へのコミットメントとして一定以上の株式持分を保有し、多くの場合社外取締役に就任、もしくは取締役指名権を有しております。スタートアップガバナンスを担う存在として、ときに厳しいこともお伝えするなど、コミットメント高く経営者に伴走。資金面においても苦しい時こそ一層ご支援し、共にハードシングスを乗り越えるべく、長期的な関係性の構築を目指しています。

こうしたコミットメントを実現するため、投資判断においては、特に3つの要素を重視しています。第一に、経営チームの評価です。起業のパーパス、実行力、傾聴力と学習能力を見極めるとともに、DNXの価値観との適合性も重要な判断基準となります。第二に、プロダクトの評価です。技術的優位性、PMFの度合い、そしてスケーラビリティを慎重に検討します。第三に、市場分析です。市場規模と成長性、競合状況、参入障壁などを総合的に評価します。特に、日本では実態として米国のように取締役会決議で機動的にCEOの選解任を実行することが難しいため、経営チームの見極めに重点をおき、DNXの「アントレプレナーに求めるもの」にフィットしているか厳しく評価しています。(参考:DNXがアントレプレナーに求めるもの

投資後は、定期的な戦略レビューやKPIモニタリングを通じて、経営課題の解決を支援します。また、DNXの持つネットワークを活用し、潜在顧客の紹介、採用支援、協業パートナーの紹介なども積極的に行います。次回の資金調達に向けた準備や、投資家候補の紹介、デューデリジェンスのサポートなども、重要な支援内容の一つです。こうした支援が実現できるよう、DNXメンバーはスタートアップがいつか必要とするであろうことを先回りして、プロフェッショナリズムを磨き、必要な知を学び、自己研鑽に取り組んでいます。(参考:DNX Values


終わりに

DNX Studioは事業アイデアが固まったタイミングで、DNXシードファンドからの出資を受け入れていただくことを募集要件とさせていただいております。VCが運営する創業プログラムを選ぶことは、まさしくVCパートナーを選ぶことでもあります。だからこそ、その機会にVCを適切に分析評価し、自社にとってフィットあるVCを見つけることが大切です。

そのためには、まず自社のビジネスモデルや現状を客観的に分析することが重要です。始めようとしているビジネスモデル、成長スピードはVCパートナーすることが最適な選択でしょうか。VCの求める企業価値、成長スピードに応える準備はできていますか。そもそもVCパートナーシップが必要かどうかを、慎重に考えていただくと良いと思います。

候補となるVCを評価する際は、投資テーマとの適合性、提供される支援内容の具体性、そして可能であれば既存の投資先からのフィードバックを得ることをお勧めします。また、交渉のプロセスにおいては、事業計画を明確に提示し、相互の期待値をすり合わせること、そして透明性の高い情報共有を心がけることが、良好な関係構築の基礎となります。

この記事が、起業家の皆様にとって、最適なVCパートナーを選ぶ際の一助となれば幸いです。共に日本のスタートアップ・エコシステムの発展に貢献できることを、心から楽しみにしています。

DNX Studioに関心を持ってくださった方へ
詳細情報や応募方法については、DNX Venturesの公式ウェブサイトをご覧ください。皆さまからのご連絡を心よりお待ちしております。

(文・西松 葵 / 編集・上野 なつみ / 監修・倉林 陽)


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