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DNX Studio:米国発事業創出プログラムの全容【前編】事業領域選定

はじめに

DNX Studioは、ソフトウェア特化型ベンチャースタジオとしてB2B SaaS領域における新事業の創出を目指しています。

本プログラムは、デザインシンキングとジョブ理論(Jobs-To-Be-Done)を融合させた独自のアプローチを採用し、アイデアの段階から実際の起業まで、包括的なサポートを提供します。本記事では、DNX Studioプログラムの概要と、最初の2つのフェーズである「Deep Dive」と「Assemble」について詳細に解説します。

*「ジョブ理論」「イノベーションのジレンマ」等の著書で知られる、元VCでありハーバード・ビジネス・スクール教授である、クレイトン・クリステンセン氏が提唱したジョブ理論 (Jobs to be Done)


プログラムの背景と目的

DNX Venturesは、10年にわたり一貫してB2Bソフトウェアに対するアーリーステージ投資を行ってきました。この経験を通じて、SaaS企業に対する再現性のある支援方法やノウハウを蓄積してきました。さらに、特徴的な点として、投資チームの半数以上がスタートアップの創業や経営経験を持つメンバーで構成されており、理論と実践の両面から起業家をサポートできる体制が整っています。

DNX Studioは、この豊富な経験とノウハウに加えて、米国のHigh Alpha Innovationがもつ先進的なベンチャースタジオモデルを組み合わせることで、日本発のグローバル展開可能なB2B SaaS企業の創出を加速させることを目的としています。

プログラムの全体像

DNX Studioのプログラムは、大まかに分けて3つのプロセスで構成されています。

  1. Deep Dive:事業領域決定

  2. Assemble:市場調査・マーケット検証

  3. Test:起業に向けた仮説検証・MVP磨き込み

各フェーズは約4〜12週間で構成され、合計3〜6ヶ月のプログラムとなっています。短期間で集中的に事業アイデアを練り上げ、検証し、実際の起業に向けた準備を整えることを狙っています。

本記事では、まずは最初の2つのフェーズについて、詳細に説明していきます。続く後半の記事で「3. Test」フェーズの紹介をしますので、そちらも合わせてご覧ください。

1. Deep Dive:事業領域の決定

Deep Dive」フェーズでは、プログラムの最初の4週間(最大12週間)で取り組むべき事業領域を決定する重要な期間です。このフェーズでは、起業家候補(EIR:Entrepreneur in Residence)とDNXのチームが密接に協力し、探索すべき事業領域を特定します。DNX Studioでは悔いなくEIRの方に事業領域の納得感を持ってほしいとの想いから、探索期間は最大12週間のなかで柔軟に設定します。

①起業家の適性評価

まず、EIRの適性を多角的に分析し、ご本人がその領域にフィットがあるかどうか、情熱を持つことができるかどうかを評価します。これには以下の要素が含まれます。

  • 過去の業務経験:EIRの職歴、業界知識、専門スキルを詳細に分析

  • 興味分野:個人的な関心事や情熱を持つ分野を特定

  • 課題意識:社会や産業における問題点への洞察力を評価

つまりはFounder Market Fitがあるかを確認します。DNXがベンチャーキャピタルとしてスタートアップを見る時にも重視している非常に重要なポイントです。

②2 DNXのVC視点からの評価

次に、DNXのベンチャーキャピタルとしての知見を活用して事業領域を見ていきます。

  • 投資分野としての魅力:市場の成長性、競争環境、規制動向などから判断

  • 業界構造分析:ソフトウェアやスタートアップによる解決可能性を検討

  • 根本的課題の特定:人材不足、利益構造の問題、技術的障壁など、業界が直面する本質的な課題をリストアップ

  • Market Readiness:市場の成熟度や新しいソリューションのタイミング・受容性を評価

  • リターン創出の可能性:スタートアップとVCの双方にとって十分なリターンが見込めるかを評価

この評価プロセスでは、DNXが蓄積してきた投資データや業界分析レポート、外部の市場調査結果などを活用し、客観的かつ多角的な視点で事業領域の可能性を探ります。

③リソースとネットワークの活用可能性

最後に、選定された事業領域がDNXとEIRの強みを最大限に活かせるかを検討します。

  • EIRとDNXの強みの整合性:選定された領域が、EIRの経験やDNXのネットワークを効果的に活用できるか

  • SaaS/ソフトウェア領域との整合性:DNXの専門性であるB2B SaaS/Software領域に合致しているか

  • ネットワーク活用の可能性:EIRとDNXが持つ業界コネクションや専門家ネットワークが、当該領域で有効に機能するか

④Deep Diveの実施プロセス

以上のような要素を考慮しながら、「Deep Dive」フェーズを進めていきます。

  1. 初期ブレインストーミング:EIRとDNXチームで、幅広い事業アイデアを出し合います

  2. 一次スクリーニング:上記の評価基準に基づいて、有望な領域を5〜10個程度に絞り込みます

  3. 詳細リサーチ:絞り込んだ領域について、市場調査、競合分析、技術トレンド調査などを実施します

  4. 現場インタビュー:各領域の実務者や専門家にインタビューを行い、現場の声を収集します

  5. 最終選定:収集した情報を総合的に判断し、最も有望な1-2つの事業領域を決定します

このプロセスを通じて、できる限り包括的に一次情報を収集し、絞り込まれた事業領域に対してEIRとDNXチームが深い理解と自信を得ることがゴールになります。起業をすれば10年以上人生の多くの時間とリソースを注ぐことになるので、情熱と関心を強くもてる領域かどうか、しっかり向き合っていただきたいと考えています。

2. Assemble:助走期間

「Assemble」フェーズは、プログラムの中で最も重要な期間になります。このフェーズのゴールは、「ジョブ理論」として知られるJobs-To-Be-Done(JTBD)を解像度高くリストアップし、有望な機会領域(Opportunity Area)を特定することです。

①JTBDアプローチの重要性

JTBDアプローチは、顧客が「あるビジネス上の状況において、誰が、何を達成しなければならないか」という本質的なニーズに焦点を当てます。これにより、表面的な要望や既存の解決策にとらわれることなく、真の顧客価値を創造する可能性が高まります。DNX Studioでは、このアプローチを徹底的に活用し、革新的なB2B SaaSソリューション創出の基盤を構築します。

②Assembleフェーズの詳細プロセス

このプロセスでは、様々なデザインシンキング手法やアイディエーション・フレームワークを用いて丁寧かつ大胆に仮説構築を進めていきます。また、効果的な検証のためには大量のインプットも欠かせません。デスクトップリサーチ(国内外の記事や有料レポートの分析)に加えて、専門家インタビューを数多く実施し、多様なソースから得られた情報を丁寧に統合していきます。

a. 業界構造の理解

まず、選定された事業領域の全体像を把握するため以下のような詳細分析を行い、業界構造の理解を深めます。

  • バリューチェーンの分析:該当テーマにおける一連の事業活動を分解し、それぞれのプロセスにおいて創造される付加価値を可視化

  • 主要な業界参加者の特定:キープレーヤーとその役割、市場シェア、強み弱みを把握

  • お金の流れの把握:業界内での資金の流れを追跡し、収益構造や利益の源泉を理解

  • 情報の流れの分析:意思決定プロセスや情報の非対称性を特定し、潜在的な改善点を探究

b. JTBDの仮説構築

業界構造の理解が深まったところで、それに基づいて、JTBDの仮説を立てます。

  • 機能的ジョブ:業務上の具体的なタスクや目標

  • 感情的ジョブ:心理的満足や安心感などの情緒的側面

  • 社会的ジョブ:他者との関係性や社会的地位に関連するニーズ

これらのジョブを、業界の各プレーヤーや役割ごとにマッピングし、包括的なJTBDマップを作成します。

c. 専門家インタビュー

仮説を検証し、さらなる洞察を得るために、業界の専門家や実務者にインタビューを実施します。ここではDNXプラットフォームチームが蓄積してきたネットワークが極めて重要な役割を果たします。

  • インタビュー対象の選定:多様な視点を得るため、異なる役割や立場の人々を選定

  • インタビュー設計:事前に構造化された質問リストを用意し、JTBDの妥当性と緊急度を効果的に検証

  • インタビュー実施:対面またはオンラインで、1回あたり60程度のインタビューを実施

  • 分析とフィードバック:得られた情報を一元的に集約し、JTBDの仮説を継続的にアップデート

d. Opportunity Areaの特定

これまでのワークを総合してJTBDの候補を発散させます。質よりも量を重視して、チームメンバーが一丸となってアイディエーションを行い、目安として100個以上のJTBDを生み出していきます。これらの大量のアイデアを、最も有望なOpportunity Areaとして集約していきます。

  • JTBDの優先順位付け:重要度、緊急度、市場規模などの基準で評価

  • クラスタリング:関連するJTBDをグループ化し、より大きな機会領域を形成

  • ペルソナの作成:各OAに対応する理想的な顧客像を具体化

  • バリュープロポジションの仮説:各Opportunity Areaに対して、どのような価値を提供できるかの初期仮説を立てる

③DNXの並行作業

Assembleフェーズでは、EIRの活動と並行して、DNXチームも以下の作業を行います。

  • 既存スタートアップの動向調査:国内外の競合や類似サービスを徹底的にリサーチし、市場の動向や潜在的な差別化要因を特定

  • 市場規模調査:ボトムアップのアプローチで市場規模を推計し、成長性や市場の成熟度(Market Readiness)を評価

  • 協力者のリストアップ:壁打ち・フィードバックに協力的な業界識者をリストアップし、次のTestフェーズでの検証に備える

まとめ

DNX Studioの「Deep Dive」と「Assemble」のフェーズは、B2Bソフトウェア事業の創出において極めて重要な基盤を築く顧客開発のプロセスです。これらのフェーズを通じて、市場ニーズを深く理解し、有望な事業機会を特定することができます。次回の記事では、これらの洞察をもとに具体的なソリューションを構築し検証していく「Test」フェーズについて詳しく解説します。

DNX Studioに関心を持ってくださった方へ
詳細情報や応募方法については、DNX Venturesの公式ウェブサイトをご覧ください。皆さまからのご連絡を心よりお待ちしております。

(文・西川哲郎)


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