ガイナーレ鳥取2024 中間報告

厳しい。監督や昨年のレギュラーの大半を放出、林健太郎監督を就任させ昇格を目指したものの前半戦を終えて20チーム中17位。中断前に3ヶ月ぶりの勝利でごまかされかがち、だかま残留争い真っ直中のガイナーレ鳥取。
なんと言っても失点が多い。それも完全に崩されてとかではなく、ビルドアップのミスを突かれての安い失点があまりにも多すぎる。
得点も少ない。
しかも新任のGKコーチまで体調不良で契約解除。鳥取の明日はどっちだ。

GK

櫻庭立樹

今年のガイナーレを象徴するハイタワー。高いぞ偉いぞ大山。最近まで大山をオオヤマだと思ってました。
札幌の育成から筑波大という華麗な経歴の持ち主。大学時代にはあのジョアン・ミレッの指導も受けている。
192センチの長身を利したセーブが持ち味で、ほぼ毎試合決定機を封じている。歴代のぬりかべたちはどちらかと言えば動のタイプが多かったが彼は楢崎正剛のような静のタイプ。 #さくらばのーと  と呼ばれる記事を必ず試合後に更新しており、その時何を考えて動いたかを克明に記録している理論派である。
ただ紙のように軽いディフェンスがバカスカシュートを打たれるため止めても止めても決められ、フレッシュな状態ではなくなりベンチへ。後半巻き返せるか。

井岡海都

去年は糸原(山口)と激しくポジション争いをしたが今年はベンチが定位置に。天皇杯には出場したようであるが地域リーグのクラブにPK負けするなどあまりアピールにはならなかった模様。

高麗稜太

今のところ第三キーパー、と思いきやアウェイ奈良戦でいきなりスタメンに抜擢された桜木花道。身長は今年のGK陣で最も低いものの俊敏な反応と体を張った飛び出しでそのままレギュラーに定着。なかなか勝ち星に恵まれなかったが岐阜戦でクリーンシート。去年のように怪我に泣かされなければレギュラーは安泰だろう。

DF

坂本敬

生え抜きのサイドバック。今年は副キャプテンをつとめるなど期待されていたが全く試合に絡めず。本職ではない丸山や伊川の後塵を拝するのは厳しい。

二階堂正哉

Y増谷(琉球)を思わせる小柄なセンバ。安心と信頼の青森山田印。開幕からスタメンだが三試合目に骨折して長期離脱、復帰したが本調子には程遠い。ゴールやアシストといった明確な基準があるアタッカーと違い、ディフェンスは失点の少なさと勝たせた試合の数でしか評価できない。がんばれ。

温井駿斗

顔からTHE大阪がにじみ出るなにわ男子。センバと左サイドバックを高い次元でこなす。非常に高精度の左足を誇り、普光院とのフリーキック二枚看板は圧巻。なんで相模原が放出したのか。
今年のガイナーレ鳥取は「温井問題」を抱えている。別に温井が問題なのではなく、温井が二人いないのが問題。温井が左サイドで出た試合はもれなく大量失点するし、温井がセンバで出た試合は左サイドからクロスが上がらない。システム変更により3バックの一角に移動、相変わらず欠かせない存在。

田中恵太

俺たちのyoutuberも御年34。浦和相手にゴールとアシストを記録するなど攻撃面では絶好調。しかしフィジカルはゆっくりと、だが確実に衰え始めており使い所が難しくなってきた。
とはいえ今のガイナーレは彼なしには語れず、外すことは現段階ではほぼ不可能。不慣れだった守備は今でも成長しているくらいだが、抜かれたら手で止めて警告、が様式美に。このペースだとまた終盤に出場停止を食らうし、そのタイミングによってはチームにとって致命傷になる可能性がある。ファン感ではコーヒーを振る舞うそうで、太陽にほえろ!ならあだ名は店長になりそう。

丸山壮大

新潟市に帰省していた元旦に被災、一年で一番油断している日に生まれて初めて死を覚悟したとか。
ただ艱難辛苦は時として人を玉にする、見るからにシャイなのに恵太の動画に自ら映りこみに行くなど今季への意気ごみは並々ならぬものが。
開幕はベンチを温めていたがチャンスは意外な形で巡ってくる。宮崎戦で二階堂が負傷、センバに温井をスライドさせ空いた左サイドバックに大抜擢されたのだ。
本職ではないポジションをそれこそ死に物狂いでつとめていたが左足でのクロスが上げられない。彼がいると相手は右サイドをガッポリ空ける屈辱的なシーンも。
システム変更に伴い3バックの左に入り、水を得た魚のようにプレー。コーナーからプロ初ゴールとなるヘディングを叩きこむ。ここからが本番。

牛田援

ここまでベンチ入りなし。2種登録以外で一度もリーグ戦のメンバーになってないのは彼一人らしい。頑張れ。

小泉隆斗

JFL浦安より移籍の左サイドバック。「狂気の左サイドバック」都並敏史の教えを受けた苦労人。だが4バックだと守備、3バックだと攻撃面で物足りない。特に本職ではない小沢にさえ守備で見劣りするのは辛い。使いながら育てるという年齢でもないし、正念場。

大城蛍

愛媛より復帰したセンバ。攻め上がったら戻ってこないサイドバックと日替わりの左センバに囲まれ、ほとんど一人で最終ラインを守っている最後の砦。
ただ負けが混み、自信を喪失しているのか判断が遅くなっているのは気がかり。システム変更後はリベロに入るが対人に強いタイプにカバーリングを任せるのはいかがなものか。

金浦真樹

藤枝より加入。長らくセンバの四番手だったが岐阜戦で鳥取デビューを果たすと即座にロングフィードで田中くんのゴールをお膳立て、システム変更で右のストッパーとしてレギュラーに。独身らしいので出雲大社に良縁をお願いしてはどうか。

MF
世瀬啓人

ユース上がりの10番。キャプテンも任され、名実ともにガイナーレの顔に。人生初のアンカーにトライしていた。
ただ求められるタスクが多すぎて混乱しているのか、無理につなごうとしてバイタルでパスミスし、それを恐れるあまりバックパスマシーンになる悪循環。もっと割り切ってプレーするのも必要。野人プロジェクトの陶芸ではおじさん二人を尻目に見事な腕前を見せていた。
そして中断の初日、藤枝MYFCへの完全移籍が発表された。とても個人の欄に書ききれないので最後に追記する。

普光院誠

今年もチームの大黒柱。去年は世瀬と不動のダブルボランチを組んでいたが今年はインサイドハーフ、システム変更後は左のトップ下に。インサイドとトップ下って何が違うんでしょうね。
世瀬が守備に追い回され、アーリアが干されている現状で一人で攻撃を仕切る。被ファウル数がリーグ一位だそうだが、彼さえ潰せばガイナーレ攻略法として浸透していることの裏返し。ケガでもしようものなら一大事。

東條敦輝

ユースから大学を経て二年目。今のところ二年目のジンクスに陥っている。ボールを持ってから恵太や普光院を探すな。とりあえずもう少し走れ。

東出壮太

宮崎より加入。首脳陣というか大学の同窓である小谷野ヘッドコーチの信頼は厚かった(過去形)。
小柄だがよく走る。いい選手なのは間違いないが、恐い選手かと言われると首を傾げざるを得ない。小谷野コーチからは10得点10アシストとハッパをかけられたそうだが0得点0アシストでは擁護のしようもなく、システム変更後は構想外に。

小沢秀充

静学仕込みのテクニシャン。昨年はジョーカーとしての起用がほとんどだったが、今季は左ウイングのレギュラーとして固定。
代名詞になっている右足のカットインは間違いなく脅威。ルヴァンカップでも敵将が名指しで褒めていた。最近ではサイドをえぐって左足でのクロスも披露するなど、プレーに幅が出てきた。
大阪戦ではコーナーキックのこぼれを奪われカウンターからの失点を許す大失態を犯すが、次の岐阜戦では爆発。試合ごとの波があるのも魅力なのだろう。

常安澪

大卒ルーキーながら強化指定選手として試合に絡んでいた昨年に比べるとだいぶ苦しんでいる。しかし東條に比べると自分でなんとかしようという気持ちだけは見える。

西田結平

序盤に何試合か出たがさしたる印象なし。

伊川拓

小泉とともに浦安から移籍。現時点では恵太の控え。クロスはまだまだだがスタミナは光るものがある。システム変更でサイドバックが高めのポジションを取るようになってから恵太と交替で入るようになったが、決定的な仕事をするには至ってない。

長谷川アーリアジャスール

チーム最年長の元日本代表。しかし今季は構想外のような扱いに。ポジションを奪われたであろう東出と比較すると、運動量が問題なのか。ただ途中交代でチームのギアを上げられる選手がいない現状では最低ベンチには入れてほしい。

曽我大地

鳥取→地域リーグの福山から復帰したボランチ。システム変更後はレギュラーに。世瀬、東條と組むユース出身の中盤はロマンだが今はまだ我慢しながら使ってる状態。岐阜戦では体を張った守備で三ヶ月ぶりの勝利に貢献。ともにユースっ子の世瀬とともに男泣きする。
と思ったら翌日に世瀬の移籍が発表された。後半戦は一本立ちが期待される。

高柳郁弥

夏移籍により大宮からレンタルで獲得。昨年のJ2でルーキーながら主力をつとめてたのでよく獲れたなぁというところ。真価が問われるのはこれから。

FW

松木駿之介

岡山から加入。安定の青森山田印その二。アメリカ生まれで愛称のマイクは野茂英雄の相棒マイク・ピアッツァが由来だとか。野茂がメジャーで投げてた頃生まれた子どもがこんな歳になってるのに軽く戦慄を覚える。
福島戦で途中交代して決勝点をねじこんで一気に序列を上げる。スピードという分かりやすい武器があるのはいい。浦和相手にねじこんだヘディングも脅威。
五月に第一子が誕生したそうでゆりかごが待たれる、と言ったそばからもも裏を負傷。なんとか復帰し本調子ではないものの得点の匂いのする数少ない選手であり復調が待たれる。

冨樫佑太

重松(FC大阪)田村(奈良)牛之濱(北九州)が根こそぎ去った中で、コンスタントに得点した選手の中で唯一残留。昨年は左ウイングで固定されていたが今年はセンターフォワード、トップ下、右ウイングと便利に使われている。琉球で一緒だった恵太と右サイドで組ませるのが一番なんだけど。
得点以上の貢献をしているのは間違いないが、ここまでわずか1ゴールはさすがにさみしい。適当にロングシュート打つな。あとカードもらいすぎ。

高尾流星

何試合か途中出場しているが、決定機に宇宙開発したりスーパーセーブにあったり。ボールは田中くんよりは収まるのだけど、落ち着きがなさすぎる。

田中翔太

信頼の以下略。試合のたびに新潟医療福祉大学、と言われるので覚えてしまった。
開幕からベンチ入り、三試合目で自身のJ初、そして今季チーム初のゴールを決める。そのままレギュラーをつかみ現在仏恥義理(ぶっちぎり)のチーム得点王。このまま二桁取れば来年は個人昇格もありえる。
課題はポストプレー。ボールが収まらず、ゴールが取れないと空気になってしまう。相手DFとの駆け引きもまだまだ青い。とはいえ、ルーキーに色々背負わせすぎなチームのほうが問題。もっと他のFWがんばれ。

三木直土

ベンチとバー外をさまよってたら松木の負傷で序列が上がる。途中交替で存在感を見せるまではいかないものの、徐々に持ち味を出してきてはいる。ゴールさえ決まればなぁ。

木下慎之輔

セレッソ大阪より期限付き移籍、という経歴は澤上(福島)を思わせる。わりとユース年代では聞く名前だったが負傷もあり捲土重来を期す。

宮田和純

横浜FCより期限付き移籍。明らかに枚数の足りない前線の要員として期待を集めたがなかなか試合には絡めず。特に松本戦でキックオフのボールを奪われそのまま失点したのは噴飯もの。負けがほぼ確定していたとは言え、サッカーでメシ食ってるなら絶対にやってはいけなかった。
案の定それ以来カラカラに干される。

林監督&小谷野コーチ

林さんに関してはJ1優勝クラブのフロントという安定した地位を捨てて鳥取に来てくださった勇気を賞賛したい。
ただ元日本代表が鳥取で指揮を取る、というジンクスがものの見事にはまり、それを補佐するのか実権を握ってるのかわからないコーチはまだライセンスもない20代。二人の船頭が船を大山のてっぺんまで登ってしまったような前半戦だった。
4-3-3システムで全盛期のバルサのようなポゼッションサッカーをやりたかったのだろうが、GKからつないで崩すサッカーは昨年キム監督(琉球)が目指して失敗したはずである。増本監督(北九州)になってから守備が安定したのは求められるタスクを減らしたからだ。それができるGKやDFは鳥取、いやJ3にはいない。
試合後のコメントもいただけない。現役時代からチームを俯瞰して見られる選手だったし、ひとを見る目は確か。試合で起こることの出来事の7割は予測できてしまうのだろう。だが残り3割をなんとかするのが監督の仕事である。もっと足掻け。
前半最終戦でいきなり3-6-1システムに変更、GKはじめスタメンをいじってはいるが今のところ効果は失点する時間帯を先延ばしにできたくらい。
小谷野コーチ含めて若手を育てる、という意図は感じる。というか経営的にそうするしかないんだろう。わかるよ。だがそれを全面に出してしまうと「今」戦ってる選手やサポーターに失礼なんだな。

塚野社長&岡野GM

昨年の監督とレギュラー格の大多数を放出し、JFLや地域リーグからも選手を獲得した今季。しかしチームとしてのスケールは確実に落ちた。途中でレンタルで獲得した選手もベンチにすら入らない。というかJ3でスタメン張る力のある選手が11人いない。交代すればするほど弱くなる。こんなの現場じゃどうしようもできない。お金がないのはわかってるが、安物買いの銭失いと言われても仕方ない。
特に二年連続でGKコーチが契約解除になったのは監督責任を問われるべき。プロクラブならベテランGKが一人いて、試合に出られなくても盛り上げ役を買って出たり、不慮の事態にはスタッフとして機能するものだが、若いGKしか置かない編成のしっぺ返しを食らった格好だ。
降格も現実味を帯びつつある中、夏移籍で挽回できるか。

世瀬啓人とは何だったのか

何だったのかと言われてもサッカー選手、としか言いようはないのだが。
僕がガイナーレの試合を見始めたのは昨年からなので、世瀬を意識して見たのは(それまでもいい選手だなとは思ってたが)わずか一年半だけである。その時すでに10番をつけてチームの中核を担っていた。この歳に普光院や長谷川といった経験豊富なボランチが加入したこともあり、チームが苦しい中も彼自身は確実に実力を伸ばし、後半戦はキャプテンマークをつけることも増えた。
そして今季、林新監督は彼をキャプテンに任命した。全盛期のバルサのようなサッカーをやりたかった監督はシステムを4-3-3にして、世瀬をアンカーに指名した。バルサではこのポジションをピボーテ(軸)と呼び、現役時代のグアルディオラやブスケッツといった文字通り要の選手がつとめてきた。本当に世瀬のチームを作ろうとしたが結果は出なかった。
そして前半戦最後の試合である奈良戦、システムを3-6-1に変更した。世瀬一枚だったボランチを二枚にし、相方は同じユース育ちで今年復帰した曽我がつとめた。今にして思えば、この時すでにオファーがあり、本人と移籍する意向を伝えていたのではないか。
世瀬ありきのシステムが世瀬なしで成立するわけがない。彼が違う道を選んだ時点でガイナーレは新たなサッカーを目指すしかなくなった。
そして岐阜戦。完全に勝ちを忘れたチームは、戦力的に上回るホームチームを相手に暑さをものともしない守備でクリーンシートでの勝利を決めた。まるでドラえもんの最終回で、何度もジャイアンに立ち向かうのび太のようなその姿は胸を打った。

世瀬を失ったガイナーレは、相変わらず厳しい残留争いの最中にある。今後も選手の出入りはあるだろうが、ユース育ちの10番の代わりはいない。
その姿で、残りを戦うしかない。
見たくもない光景が訪れようとも、目を逸らすわけにはいかない。

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