どん底を踏み台にした人
1920年代に好調だったアメリカ経済は1929年から深刻な不況に突入し、4人に1人が失業する大恐慌となったことは歴史で習ったり、テレビのドキュメンタリーで見たことがあります。
この前に図書館に行くと大恐慌時代のアメリカで経済的成功を勝ち取った11人のアメリカ人と政治の世界で大恐慌に対応した高橋是清、ヒトラー、F・ルーズベルトの人生を約してまとめた「大恐慌の勝者たち」という本があり、借りて読むとなかなか面白かったです。
何をしたか知ってる人、名前だけ知ってた人、この本を読むまで知らなかった人、それぞれ大恐慌という経済のどん底で格闘しただけにどの人物の経歴も波乱に富んでいて、著者の玉手義明氏の文章のわかりやすさもあって、
大恐慌の時代と本書に出てくる14人の特徴を知ることができました。
今回は14人の中でジェシー・L・リバモアのことを書いてみます。
ジェシー・L・リバモアのことは他の人の本で読んだことがあり、その時はこの人の人生はフィクション映画のすじ書きのようだなと思いましたが、「大恐慌の勝者たち」を読んでジェシー・L・リバモアの人生は下手なフィクションより面白いと改めて感じました。
本書によれば1929年9月3日に381ドルの値をつけたダウ平均株価は1932年7月8日に41ドルにまで急落し、アメリカのGDPは1929年の1044億ドルから1933年に560億ドルに激減したと記されています。
当時の人達は経験したことの無い大不況が来たと激しく動揺したことは本や映像で知ることができます。
もしこの大恐慌というアメリカ経済がどん底に落ちる事態を予想して株式市場で空売りを仕掛けたら、どん底の不況を踏み台にして巨大な利益を得ることができます。
そんなことができる可能性は極々少数でしょうが、その極々少数の可能性しかないことを成功させて一時的に大富豪となったのがジェシー・L・リバモアです。
ジェシー・L・リバモアは算数が抜群に得意な子供でしたが、父親が貧しい農夫だったために学業を続けることができず14歳で家出してボストンで証券会社の黒板係に採用されます。
得意の数学を活かして当時存在したバケットショップという架空の株式取引で20歳までに財産を貯め込むものの、ニューヨーク証券取引所に挑戦して失敗して破産。
もう1回バケットショップで蓄財しますが、次のニューヨーク証券取引所への挑戦も失敗して破産。
3度目のニューヨーク証券取引所への挑戦ではリバモア独自の手法を開発して大金を手にしますが、今度は綿花取引に失敗して3度目の破産。
3度破産してリバモアはくじけません。
1916年からの下げ相場で空売りを敢行して大金を手にして、ニューヨークで大邸宅と全長90メートルのヨットを持つまでになります。
そして1929年からの大恐慌では独自のデータ分析によって景気急落の気配を感じとり、持ち株を全て売り払って空売りを仕掛けて1億ドル、現代の貨幣価値で14億ドルの利益をリバモアは得たと本書で記されてます。
ここまでのリバモアの人生だけでも貧しい農夫の子から大富豪まで上りつめたアメリカン・ドリームを実現した人となりますが、このまま幸福で終わらんなかったためによけいリバモアの印象が強くなりました。
リバモアは現代の貨幣価値で14億ドルという大金を得ましたが、リバモアの不倫のために妻と別れて別の女性と再婚するものの、相場に対する読みも当たらなくなって1934年に破産し、1940年にピストル自殺しました。
家族との生活を大事にすればもっと良い人生が送れたはずなに、ジェシー・L・リバモアの人生を読むと平穏な生活に安住することのできない人物だったのかという気がします。
貧しい農夫の子から大富豪へ駆け上がる、妻との別れと再婚、4度の破産、最後はピストル自殺、リバモアの人生を映画にしたら話題になると思いますが、検索してもそのような作品は無いようです。
もしできるなら理知的な外見と破滅しかねない衝動を持つ雰囲気を表現できる俳優によって、ハリウッドでジェシー・L・リバモアを映画化してほしいですね。