軍閥
1644年に明が滅んだ後の中国を統一し、1912年に中国の統治権を失った清朝のラスト18年を描いた杉山祐之著「清朝滅亡」が面白かったので、清朝滅亡後の軍閥の興亡を描いた杉山祐之著「覇王と革命」も読みました。
「覇王と革命」には孫文や張作霖、毛沢東、蒋介石などの日本でも名の知られた人物が登場しますが、1915年から28年に存在した中国軍閥に馴染みがないため、本書を読むまで知らなかった人物の記述の方が十倍以上多かったです。
「覇王と革命」に登場する人物はほとんどが軍人で、後は革命家と政治家が少しという感じで、軍閥が覇権をかけて戦闘を続けてる時代だけに、欠点は目につくものの、軍人も革命家も政治家も乱世でのし上がる資質を持っていたと感じます。
軍人達が戦った場所や駐屯した場所の記述も多く、そこらへんの地図はページの途中に載っていますが、途中ではなく本の最初のページに地図を載せてくれた方が、いちいち地図を探す手間がはぶけるので、その方が私にとっては読みやすい気がします。
「覇王と革命」をドラマに例えるなら、次の6人が主役をリレーして入れ替わる群像劇という感じでした。
清朝滅亡後に帝政を復活させて皇帝即位を宣言したが、国内外の反撥に屈して帝位を取り消し、失意のうちに没した袁世凱。
清朝滅亡までは袁世凱の忠実な部下だったが、袁世凱による帝政には反対し、袁世凱死後は安徽派の軍閥を率いて中国統一を目指したが、直隷派軍閥との戦争に負けて影響力を失った段祺瑞。
段祺瑞と対立して戦うことになる直隷派の軍閥を率いる曹錕の部下で、段祺瑞の安徽派には勝利したが、次の奉天系の軍閥との戦いに敗れ、さらに国民党軍との戦いに敗れて勢力を失った呉佩孚。
満州の貧しい家に生まれ、成長してから匪賊の集団の頭目となり、清朝末期の混乱に乗って奉天系の軍閥の首領に登りつめ、直隷派と2回の戦争を起こして直隷派を破り、北京を支配下にするものの、国民党軍の圧迫を受けて北京を追われ、満州の本拠地に帰る途中で爆殺された張作霖。
民族、民権、民生の3民主義を唱えて中国統一を目指し、挫折を何度してもあきらめず、ロシア革命後に誕生したソ連に好感を持ち、ソ連と連携し国民党に共産党を迎え入れた革命家の孫文。
孫文の死後に国民党の指導者になるが、師の孫文とは違ってソ連にも共産主義にも否定的で、北伐という軍事行動で広東から上海までを平定した後に国民党から共産党を追放し、その時に分裂した国民党左派もやがて吸収して北伐を続け、直隷系と奉天系の軍閥を屈服させて、軍閥が抗争する時代を終わらせた蒋介石。
広大な中国で1915年から28年にかけて、激しい戦闘が繰り返し起きた内乱の時代ですから、以上の6人の他にも何十人もの人がそれぞれの思惑で、野心、裏切り、忠誠、計略、復讐、暗殺、同盟と戦争にはつきもののドロドロした行動が積み重なっていきます。
ドロドロした人間の行動が積み重なった後に、バラバラになった一つの国がまた一つの国にまとまっていく経過を、「覇王と革命」は100年以上前の出来事と感じさせないくらいにうまく文章化してると思います。
できればこの時代に活躍した人物の経歴や評価を、司馬遷の史記のように編集した書籍もあればいいですね。
杉山氏は主要人物の経歴をwikiより詳しく書いた箇所がいくつもありますが、登場人物もページ数も多いので、あの人物の生い立ちや行動が書かれていたのはどのページだったか、標題を見てもわからなくなることが多いです。
袁世凱、段祺瑞、呉佩孚、張作霖、孫文、蒋介石、他に馮国璋、徐樹錚、
蔡鍔、黎元洪、馮玉祥、曹錕、陳炯明、陸栄廷、汪兆銘、李宗仁、郭松齢、
孫伝芳、張勲、毛沢東などの生涯を人物ごとに、同じ著者か同じ出版社が一冊にまとめた本があれば、「覇王と革命」と合わせて読むと、中国軍閥時代がもっとわりやすくなるように思います。