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スガシカオ「深夜、国道沿いにて」
「深夜、国道沿いにて」はスガシカオのアルバム『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』(2019年)の最後に収録されている楽曲です。『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』は11枚目となるオリジナルアルバムで、前作の『THE LAST』(2016年)という集大成的な意味を持つアルバムから約3年の時を経て発表されたもので、スガシカオ史上初めて日本語のタイトルがついたアルバムとなりました。
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「日本語だから何だよ」と言われたら「…はい」と返すしかないのですが『Clover』(1997年)というセンチメンタルなアルバムでデビューしたスガシカオの歴史が『THE LAST』で終わり、全く新たな章として『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』が生まれたんだと思うと感慨深い気持ちになります。
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スガシカオの音楽はアルバム単位で味わうことで魅力が何十倍にも膨らみます。フレンチのフルコースのように(食べたことないですけど)前菜があってポタージュがあってメイン料理が2種類(肉・魚)あって最後のデザートを食べてコーヒーを飲みながら一息ついて余韻に浸るまでのあいだスガシカオはひとつの物語を奏でてくれます。そして聴き込めば聴き込むほどにその味わいは増します。つまりスルメです。スガシカオのアルバムは"フレンチのフルコース"で"スルメ"です。覚えてくださいね。
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わたしは歌詞を耳と文字の両方で読むのが好きなので、歌詞カードを眺めて歌詞を追いかけながらアルバムを聴きます。『労働なんかしないで 光合成だけで生きたい』にも好きなフレーズや気になるフレーズがたくさんありました。今日はこの記事のタイトルにした「深夜、国道沿いにて」について。
歌い出しの歌詞がこちらです。
深夜の国道沿い
人気のないラーメン屋で
背脂と太麺のスープ
これはこれでまぁいいか
この歌詞だけを読むとなんの違和感も覚えませんが、実際に曲を聴くと「人気」は「にんき」ではなく「ひとけ」と歌われています。
【ひとけのないラーメン屋】ってちょっと違和感ありませんか?「ひとけがない」は "人の居る気配がしない " という意味なので、 "ひとけのないラーメン屋"には店員すら存在しないということになります。
店員も客も居ないラーメン屋で主人公がもくもくと「背脂と太麺のスープ」のラーメンを食べている様子を想像すると結構怖くてゾワゾワします。(「千と千尋の神隠し」の冒頭のお父さんとお母さんが店の料理を勝手に食べてしまうシーンを思い起こしました。わたしはあのシーンすごく怖い気持ちになります。欲に支配された人間は怖い。豚がリアルすぎるし)
どうしてスガシカオさんは「にんき」ではなく「ひとけ」と表現したのでしょう。文字数は共に3なので音符に嵌めるために渋々「ひとけ」にしたわけではなく敢えてした表現です。不思議ですよね。
でも、曲の全貌を知るとたぶん納得することができます。納得というか、歌詞を書いているときの気持ちをなんとなく察することができる、くらいのほうが近いかもしれません。
ここから先はわたしが勝手に思っている歌詞の解釈です。正しいかどうかはスガシカオさんにしか分かりません。もしかしたら本人様でさえ本当のところは分からないかもしれない。(?)
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「深夜、国道沿いにて」は、主人公が学生時代に学校帰りや家族で行ったラーメン屋のことを深夜の国道沿いの寂れたラーメン屋でぼんやり考えるシーンを描いた曲です。店の匂いや、割烹着を着たおばさん、食べ終わるとすぐパチンコに行ってしまう父親のことなどを思い出していくのですが、悲しいことに店のおばさんは主人公の卒業式の朝に踏切で自殺してしまいます。懐かしいあのラーメンの味と、どよめいた朝の踏切。
今ではラーメン屋も父親もおそらく居なくて、残っているのは主人公と記憶だけ。
深夜の国道沿いのラーメン屋で「自分がひとりである」ことを強く実感したから「ひとけのないラーメン屋」とスガシカオは表現したのかな、とわたしは思いました。実際には深夜のラーメン屋に店員は居たはずですが、主人公の思考にまでは届かない。
「ラーメン」と「自殺」は距離の遠い言葉でぎくっとしてしまいます。でも考えてみればラーメン屋のおばさんもケーキ屋のおじさんも自殺するときはするんですよね。朝の踏切での自殺はちょっと嫌だなぁと思いました。おばさんは自分のお客さんがたくさんいる町のことも好きじゃなかったのかなぁ。
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(スガシカオ「sofa」を聴きながら書いた掌編です。)
https://note.mu/dmnm/n/n6b449628103d
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