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若林さんって、童貞やんなぁ
東京に住んでいた頃、よく深夜にラジオを聴きながら散歩をした。甲州街道でスヌードを口まであげてすれ違う人や車に笑っているのがバレないようにして歩いた。
去年群馬に引っ越してからも同じように深夜1時にイヤホンをつけて外に出てみたが、あまりの暗さに愕然としてしまった。
近所の住民たちはもれなく静かに眠っていたし、群馬には街灯という文明がなかった。(それは何故か、誰も夜に出歩かないからである)星が綺麗に出ているのだろうけど、視力が弱いのでそれも見えなかった。
幅の狭いくたびれたアスファルトの両端にある田んぼではカエルがゲロゲロと鳴いていた。ヘリが飛んでいるのかと思うくらい五月蠅かった。
それでも深夜の散歩は大切なルーティンなので、暗闇の中田んぼに落ちないよう慎重に足を運びながら道を覚えた。
抜き足差し足歩いていたら、子供のころにやったポケモン(グリーン)を思い出した。
ゲーム音痴のわたしは洞窟で"フラッシュ"を使うことに気づかず暗闇ですぐ迷子になった。どこまでも続く暗闇で、壁に頭をガツンガツンぶつけながら野生ポケモン相手に技ポイントをいたずらに消費し、そのうちズバットあたりに負けてゲームボーイの電源を落としていた。
なんと厳しいゲームなのだろう、と思った。後日クラスメイトに相談したらひくほど笑われた。
◻︎
さて、先日もオードリーのオールナイトニッポンを拝聴する喜びに打ち震えながら暗闇を散歩していた。(リトルトゥースは本人に「リスナーです」と伝えるときに不自然なくらい丁寧な日本語を使うイメージがある)
若林さんが自身の最新エッセイ「ナナメの夕暮れ」について話していた。わたしはまだ読めていないのだけど、本当に楽しみにしている。
わたしの若林さんの好きなところは、西加奈子さんがオールナイトニッポンにゲスト出演した際に言っていた「若林さんって、童貞やんなぁ」に収束される。それはもちろん言葉通りの童貞ではなくて、初めて女性に触れた時の衝撃(おっぱいの感触とか頭皮の匂いとか、指の混ざりとか頬の香りとか)を若林さんは日常で起こる全てにおいて感じる才能を持っている。あんな面白いものを産み出せる若林さんは自分の人生に少しも慣れない。
これはものすごい才能だと思う。
同じ真っ直ぐな道を歩いていても、他の人が見逃してしまうであろう些細な"何か"に若林さんは感動したり失望したりできる。
わたしが歩いているこの暗闇を若林さんが歩いたらどんな発見があるのだろう。どんな色が見えるのだろう。